4 / 11
第四話「必要な素材にアグレッシブなのがきたぁ……」
しおりを挟む王都の時計塔、その針が十時過ぎを指す頃。
シュネーとスタッグは薬草や道具の入った紙袋を抱えながら、王都の町外れを歩いていた。
家を出た後、二人は王都へとやって来ていた。
スタッグの石化の呪いを解くために必要なものを買いに来たのだ。
幾つかの材料は畑や、家の近くにある森でも採取可能だが、それでも足りない。なのでこうして王都へやって来ていた。
ちなみにスタッグが、もしも手配されていた際の事を考えて、帽子をかぶって貰っている。トンガリ帽子にシュネーの師匠の服、とすると、体格だけならば本当にシュネーの師匠と良く似ていた。
何となく懐かしさをシュネーが感じていると、スタッグがシュネーの方を向く。
「大分買いましたね。これで大体揃ったんですか?」
「はい、大体は。一番厄介なものはスタッグさんが持ってきてくれたので、有難かったです」
「え? 僕、スッカラカンでしたよ?」
思い当たる節がないようで、スタッグは首を傾げた。
「洗う時に見つけたんですが、スタッグさんの服についていたんですよ。バジリスクの鱗」
「バジリスクの鱗!? うわぁ、気が付かなかった……というか、必要だったんですね」
「はい。もしなければ、コカトリスで代用するところでした」
「必要な素材にアグレッシブなのがきたぁ……」
コカトリスとは胴体が鶏で尾が蛇の姿をした魔獣だ。バジリスクと同様に、相手を石化させる事が出来る厄介な手合いである。
バジリスクが目が合った相手を石化させるのに対し、コカトリスは噛みついて毒を流し込む事で石化させる。
それぞれ石化させる際の方法が違うため、解除方法も違うが、石化という特性上、素材では流用が出来る。なのでバジリスクが無理ならばコカトリスで、とシュネーは考えていた。
まぁどちらも相手にするなら厄介な事には変わりないのだが。
探しやすさと対処法を比較して、それならばコカトリスくらいかなぁ、というだけの事である。
事実、街の素材屋にも、コカトリスの羽毛や卵の殻くらいは、時々だが並ぶ。
とまぁ、そんな感じなのである。
「コカトリスは、僕も見たことがないですねぇ」
「あれの生息地は山ですからねぇ」
「あー、山かー。山なら見ないですからねぇ」
一年中のほとんどを海で過ごしますし、とスタッグは笑う。
海賊だと自称していたので、それはそうだろうなぁとシュネーは思った。
「そう言えばスタッグさん、バジリスクに会ってよく無事でしたね」
「ああ、ええ。目が合った瞬間に、波がね、助けてくれたんです」
「なるほど、波ですか」
「ええ。僕だけは、運良く」
バジリスクを相手にする時は、鏡か何かでバジリスクの姿を映し、直接見ないようにして戦うのが常套だ。
スタッグはバジリスクと目が合ったが、直接ではなく、波――海水越しであったからこそ、石化が一部で済んだようだ。
あまり聞かない方法だが、水以外でも代用が出来るかもしれない。兄弟子に報告すれば役に立てそうだと、シュネーは思う。
だが今は、スタッグの石化を解除する方が先である。
シュネーは紙袋を持つ手に気合を込めた。
と、そこでふと、スタッグの言葉が引っ掛かった。
スタッグは「僕だけは」と言ったが、その言い方だと、他に人がいるようにシュネーには感じられたのだ。
「スタッグさん、あの――――」
「あ! 見て下さい、シュネーさん。隣国のアイスワインですって!」
「え? あ、はい。アイスワインですね」
「ネイステイルのアイスワインは、一際甘くて美味しいんですよねぇ。やー、良く飲んだなぁ」
だが、聞こうとした時『アイスワイン始めました』と書かれた看板に目を奪われたスタッグに、話題ごと掻っ攫われてしまった。
聞くタイミングを逃したシュネーは、その後も、なかなか機会に恵まれず。
そうこうしている内に、帰途についてしまった。
◇ ◇ ◇
お昼を過ぎた頃。シュネーとスタッグは、シュネーの家がある村まで戻ってきていた。
途中、村へ帰るという荷馬車に乗せて貰ったため、思ったよりも早く到着する事が出来たのだ。
礼を言って別れ、村の中を歩いていると、あちこちから良い香りが漂ってくる。料理の匂いだ。
匂いをかいだ途端、まだお昼を摂っていない二人の腹の虫が同時に鳴いた。
シュネーとスタッグは顔を見合わせ、恥ずかしそうに笑い合った。
「おや、シュネーちゃん。彼氏かい?」
そんな事をしていると、シュネーの行きつけの雑貨屋の店主が声を掛けた。
彼氏、と言われ、シュネーは真っ赤になる。
「いいいいいえ!? ち、ちちち違いますよ!?」
「ごめんごめん、冗談だよ。シュネーちゃんにはコールマンさんガードがあるからねぇ」
「兄さんガード?」
雑貨屋の店主の言葉に、シュネーは首を傾げる。
コールマンガードとは何だろうか。二つの言葉に繋がりが見えず、シュネーが良く分からないでいると、隣で聞いていたスタッグが噴き出した。
「なるほど、それは気を付けないといけませんねぇ」
「そうそう、気をつけな兄ちゃん」
話が通じているようで、スタッグと店主はくつくつ笑い合っている。
シュネーは分からないままであったが、まぁ二人が楽しそうなので良いか、と思う事にした。
「まぁ、でも、あれだね。あんたはマルコさんにちょっと似ているから、早々酷い目には合わせられないだろうさ」
そんな話をしていた時に、雑貨屋にお客さんがやって来た。店主はシュネーとスタッグに「それじゃあ、またね」と手を振って、仕事に戻って行く。
それを見送ったシュネーとスタッグは再び歩き出した。
いつも明るくて元気の良い人だとシュネーが思っていると、
「マルコさんとは?」
と、スタッグが聞いた。
「あ、私とコールマン兄さんの魔法の師匠です」
シュネーが答えると、スタッグが「もしかして」と呟く。
それからおずおずといった様子で、
「もしかして、≪見通しの≫マルコさんですか?」
と、シュネーの師匠の名前を二つ名つきで呼んだ。
スタッグの口から、するりと《見通しの》が出てきた事に、シュネーは少し驚く。
「ご存じでしたか」
「ええ、彼にかかればどんな怪我や病でも治してしまうと、有名な方ですからねぇ。……しかし、そうか」
スタッグは自分の着ている服を見下ろした。
「大事なものを、借りてしまってすみません」
そしてシュネーにそう謝った。
スタッグの口ぶりからは、恐らくマルコが亡くなっていた事を知っているのだろう。
シュネーは「いえ」首を横に振った。
「使わずに置いておいて無駄になるなら、誰かに使って貰いたいと、きっと師匠は言います。そういう人でしたので。なので、スタッグさんに着て頂けて良かったです」
そしてはにかんだ。
シュネーとコールマンの師匠であるマルコは、お人好しという言葉通りの人だった。
誰かのために魔法を使う事を厭わない。忘れられても「忘れられても、また積み重ねれば良い」と笑って言う人だったのだ。
だからきっと、生きていたとしても、師匠はそう言うだろう。シュネーはそう思っている。
話を聞いていたスタッグは、少しだけ戸惑った様子で、
「…………何というか、コールマンさんガードは頑丈だ、というのが良く分かりました。二人分なら、確かにそうなりそうだ」
と言った。最後の方は呟くような小さな声だったので、シュネーは聞き取る事が出来なかったが。
そんあ事を話していると、遠くからシュネーたちに向かって、小さな女の子が駆けて来るのが見えた。
「あ! おねーちゃーん!」
女の子はシュネーに向かって手を振る。その腕にはくっきりと、火傷の痕があった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる