行方知れずを望んだ王子と、その結末 〜王子、なぜ溺愛をするのですか!?〜

長岡更紗

文字の大きさ
10 / 39

10.五日目。風邪をひいてしまった私

しおりを挟む
 夢から覚めてゆっくり瞼を上げると、すぐ目の前にイライジャ様のエメラルド色の瞳が。
 ちょっと、近すぎでは?!!

「イライジャ様、いつからお目覚めに?!」
「ついさっきだ」
「お熱は……」
「もう治った」
「はい?!」

 治るの早すぎですが!?
 イライジャ様は、本当だと言わんばかりに私に顔を寄せてくる。
 何事、と思った瞬間、こつんと額がくっついた。

「な、なにを……」
「ほら、平熱であろう?」
「そ、そうでございますね……」
「クラリス、そなたの方が熱いが」
「これは、違いますっ」

 まったく、そんなに近づいては、顔が煮えたぎりそうになるのですが!!
 しかし、たった一日で本当に治ってしまうとは、さすが光の子……いえ、若さですね。

 病み上がりなのだからと言ったけれど、イライジャさまは気にせず外に出て行かれた。
 曇天を見て、雨が降る前にと畑で働いていらっしゃる。
 ぶり返したらどうなさるのかと、私の方がヒヤヒヤでございますが!

 ヒヤヒヤして、ヒヤヒヤして……おや? これは、ゾクゾク……?

「クラリス。そなた、顔色が──」
「え?」

 振り返った瞬間、目の前が白くなって足元が崩れる。
 そんな私をイライジャ様は素早く抱き止めてくださった。

「大丈夫か、クラリス!」
「……私……も、申し訳ありません!」
「そなた、体が熱いではないか!」

 イライジャ様はそう言ったかと思うと、私をひょいと抱き上げてしまった。止める暇もないのですが!

「あの、イライジャ様……歩けますから」
「俺がうつしてしまったのだ。大人しく俺に抱かれてくれ」

 その言い方……!
 誰かが聞いていたら誤解を招きかねませんよ?!
 まぁここには私とイライジャ様しかいませんけれども!

「大丈夫か、クラリス……すまない」

 そう言いながらイライジャ様は小屋の中へと入り、私をベッドの上に横たえてくださった。

「イライジャ様がお謝りになることなど、なにもございません。どうかそんなお顔をなさらないでくださいまし」

 ショックを受けた子どものようなイライジャ様のお顔。
 私は手を伸ばしてそのお顔に触れる寸前、ハッと気づいてその手を下げようとした。

「クラリス」

 けれど、イライジャ様は私の手をパシッと掴むと、そのままご自分の頬に当てられた。
 イライジャ様のきめ細やかなお肌が、私の手のひらに吸い付いてくる。
 最近、距離が近くなりすぎて麻痺しているのだ。
 イライジャ様は、私などが気軽に触れて良い方ではないというのに。

 だけど、イライジャ様のお手を振り解くことなんてできない。
 私の顔は、熱のせいでさらに熱くなった。

「あの、もう、手を……」
「こうしていてはいけないか? 俺はクラリスに触れていたい」

 そう言うとイライジャ様は、私の手を唇に持っていって……

 ちゅ、と音が鳴った。

 私の頭は一段と爆発したように熱くなり、目の前がくらくらする。

「早く治るよう、まじないだ」

 逆に熱が上がりそうなんですが?!

「一晩中、そなたの看病をさせてくれ」

 優しく目を細められると、嫌とは言えなくなる。
 お優しすぎます、イライジャ様……。

「ありがとうございます……でも決して無理はなさらぬよう」
「わかっている、大丈夫だ」

 イライジャ様はそう言うと、本当に甲斐甲斐しく世話を焼いてくださった。

「簡単だがスープを作ったぞ。ふー、ふー」
「あの、自分で食べられますから!」
「ほら、口を開けて」
「んくっ」

 目の前にスプーンを寄せられて仕方なく飲むと、イライジャ様の顔は笑みで満たされる。
 王子にふーふーして食べさせてもらう贅沢な経験をしたのは、私くらいではないでしょうか。

「美味しいか?」
「はい、もちろんでございます」
「なら良かった」

 そんな、子どものような無邪気さで笑わないでくださいまし!
 心臓が変な動悸を打ち始めたではありませんか!

「どうした、クラリス! 胸が苦しいのか?!」

 私が胸を押さえて「ふぐう」と変な声を上げてしまったせいで、イライジャ様にいらぬ心配をおかけしてしまった。
 イライジャ様は慌てて私の胸に手を伸ばして──

「きゃあ?!」
「っは! す、すまない!」

 イライジャ様が、ご自分でもびっくりした様子で手を下げられた。
 ああ、ちょっと触られたくらいで『きゃあ』などと、小娘のような声を上げてしまうとは情けない!
 なにがあっても冷静に対処しなければならないと、常に自分を律しているというのに。
 それにしてもイライジャ様は普段、間違っても女子の胸を触るようなお方ではない。どうしてそんなに狼狽しておいでなのか。

「本当にすまない……心配過ぎて、つい……」
「私などをご心配くださりありがとうございます。気に病まないでくださいませ、私はなにをされても平気でございますから」
「なにをされても?」

 さっきまでの子どものような顔は、一体どこに消えてしまったのか。
 イライジャ様の目はギラリと光り、急に大人の男の人になる。
 ど、動悸が……!

「ふ、ふぐぅぅ」
「だ、大丈夫か、クラリス!」

 私を支えようとしてくださるイライジャ様。いつの間に、こんなに男らしくなってしまわれたのか……
 きっとこれは母親のような心境なのでしょう。子が大きくなると、寂しさを覚えると聞いたことがございますから。
 胸が、苦しくなるものなのですね……。

「申し訳ございません、イライジャ様……もう眠ってもよろしいでしょうか」
「ああ、そうするといい」

 私はゆっくりと横になる。
 って、イライジャ様も入ってきましたが??

「イライジャ様……?」
「寒いだろう。眠るまでこうしている」

 ……お優しい。
 私はイライジャ様に包まれて、体温を感じながら眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里
恋愛
社交界デビューの日。 訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。 後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。 それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

貴族と使い魔 (旧:貴族は使い魔を溺愛する)

momo6
恋愛
私の名前は真奈美。 元々は人間だったの、気付いたら翼の生えた猫?でした。 それも、使い魔。 しかも!主人は使い魔からは、 人気最下位 貴族! どうなるの私の人生、、、 ※ 完結しました(//∇//)! 初めての投稿で、未熟な所がありますが(汗 最後まで読んで頂けると嬉しいです╰(*´︶`*)╯♡

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました

廻り
恋愛
 幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。  王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。  恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。 「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」  幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。  ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。  幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――

処理中です...