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第104話 誰にも知られていないはずなのに
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何故デニスが、ここにいるのか。
そんな疑問よりも先に、感情の方が溢れ出す。
ずっと会いたかった。でも絶対に会えないと思っていた。デニスがこの場所を知り得るはずがないのだから。
二年ぶりのデニス。少し痩せているように見えるのは、気のせいじゃないはずだ。
「サビーナ……すげぇ会いたかったっ!」
「デニスさん、私も……っ」
彼の姿を見てほっとした。無事なのは分かっていたが、それでもこうやって対面出来ると、デニスが生きている事を神に感謝したくなるくらいに嬉しかった。
抱き合うようにそうしていると、後ろからジャリッと土の踏まれる音が近づいて来る。
「……デニス?」
背後から声がして、サビーナは振り返った。そこには追い付いて来た、セヴェリの姿。彼の姿を見たデニスは、そっとサビーナから少し離れた。
「セヴェリ様、お久しぶりです」
「……そう、ですか……やはり……」
セヴェリは喫驚の顔をどこか落胆に変化させ、こちらに背を向けている。
「来なさい、デニス、サビーナ。家で話をしましょう。ここでは誰かに聞かれかねない」
そう言われてサビーナがデニスを見上げると、子供のような無邪気な笑みで頷いている。
この笑顔が懐かしくて嬉しくて、サビーナもまた喜びの笑顔を彼に向けた。
家に入ると、セヴェリに促されて席に着いた。どちらに座るべきか迷ったが、このメンバーでは主従の関係なのだから主の隣には座れないと思い、セヴェリを対面に、デニスの隣の椅子に着く。
「久しぶりですね、デニス」
「お久しぶりです、セヴェリ様。すんません、どうしても二人の姿をこの目で確認したくて……来ちまいました」
「そうですか。私もデニスに会えて嬉しいですよ。二年もの長い間、牢暮らしをさせてしまい、申し訳ないと思っています」
「それは、俺が決めてやった事ですから」
デニスが屈託無くそう言ったので、セヴェリはほっとしている。そこにあったのは主従という関係ではなく、幼馴染みのような雰囲気だ。
「アンゼルードは今、どのような状況になっていますか?」
「俺が知ってんのは、ほとんどがリカルドから聞いた情報ですけど、それでいいんなら」
「教えてください」
デニスはこくんと頷き、話し始める。
まず、隊長のシェスカルはディノークス性を賜り、貴族となった所から話は始まった。
オーケルフェルトはなくなり、シェスカルが屋敷や土地を全て買い取った事。リカルド、キアリカ、サイラスはディノークスの騎士にそのまま移行した事。リックバルドがあの事件の一週間後に行方不明になった事。
これらは既に、シェルトが調査に行っていたので知っていたのだが。
「シェスカル隊長はしばらく貴族としての仕事が忙しいから、隊長職をリカルドに代行させるつもりだったみてぇだ。けどリカルドは断って、代わりにキアリカが隊長になった」
「へぇ、キアリカさんが……」
思わず、漏れるように声が出た。女性の待遇が悪い事を嘆いていた彼女である。アンゼルードはそこまで男尊女卑の激しい国ではないが、騎士は女性に不利な職種には間違いない。
その中で隊長というトップクラスの地位に就いたのだ。きっとまた沢山の苦労をしているに違いないが、同じ女性が隊長になれた事に誇りを感じる。
「んでもって、サイラスの奴は結婚した。そのうち子供も出来るんじゃねーかな」
「サイラスがですか? 結婚するようなタイプに見えませんでしたが……人は分からないものですね」
そう言いながらクスクス笑う姿はいつものセヴェリで、見ていてほっとする。こうしていると、さっきまでこの家で交わしていたサビーナとの会話が嘘のようだ。
「リカルドは相変わらず、騎士の傍ら演劇に没頭してたな。こっちは特に変わりなしだ」
昔、セヴェリと一度だけ行った観劇を思い出した。リカルドは今も女優の奥方と、共に舞台に立っているに違いない。
「で、シェスカル隊長は、リカルドの話じゃあ皇帝の娘を貰うとか貰わねぇとか、そういう話になってるらしい」
「ええ? 皇女様を?!」
「成程……盤石を期するつもりですね。結婚すれば皇女は皇族を離れるものの、貴族としての格は上がり、発言権も増す。そうしてシェスカルはアンゼルードを謀反無しに変えて行くつもりなんでしょう」
顎に手を当て、どこか納得の面持ちでそう呟いた。確かセヴェリは以前、シェスカルに対してこういう批評をしていたはずだ。
──彼はとても責任感の強い人です。
私をこんな目に遭わせておいて、のんびりと貴族生活を満喫出来るような男ではないのです。
私の目指した国を実現するために、きっと寝る間も惜しんで奔走する事でしょう──
皇女との結婚も、その一環だという事なのだろうか。皇女をも利用するシェスカルの行為に、どうにも理解出来ない心を抱えてしまう。しかし己もクリスタに対して同じ事をしているのだと気付き、自嘲の笑みを漏らした。
「隊長の考えは俺には分かんねぇけど……俺はやっぱり、セヴェリ様を裏切った隊長が許せなかった。刑期を終えた後、ディノークスの騎士になる気があるなら来いって言われたけど……俺が騎士として剣を振るうのは、セヴェリ様の為だけだ。そう考えると、どうしてもセヴェリ様の無事をこの目で確認したくて……それでここまで追い掛けて来ちまいました」
「良いんですよ。あなたの事だから、ここに来る可能性は考えていました」
穏やかでありながらも寂しげな声音のセヴェリに、サビーナは少し首を捻らせる。
「セヴェリ様は、デニスさんが来るかもしれないって予想をしていたんですか?」
「ええ。リカルドからの手紙を受け取った時に、デニスが来る事も頭に入れていましたよ」
「あの時に? でも、シェルトはこの場所を伝えてはいないって……そもそも、どうしてデニスさんはこの場所が分かったんですか? 誰にも知られていないはずなのに」
「ん? リカルドが、この国にいるって断定してたぜ。大きな街じゃなく、村にいるだろうとも言ってた。俺はこの国の村を全部回るつもりでいたんだ。小さな国だし、何とか探し出せんじゃねぇかと思ってたけど、まさか最初からビンゴだったとはな」
リカルドが断定していたという話を聞いて、サビーナは顔を顰めた。やはりシェルトがリカルドに全てをバラしてしまっていたに違いない。それでも追手が今までここに辿り着いていないという事は、リカルドは黙っていてくれたという事なのだろう。しかし嘘を付いてセヴェリを危険に晒したシェルトが、どうにも許せない。
ギリっと歯を噛み締めて苛立ちを隠しきれないでいると、セヴェリが何でも無いことのように言った。
「サビーナ、シェルトはリカルドにこの場所を教えたりはしていませんよ」
「え?」
「ここに居ると断定出来るだけの証拠をシェルトが持っていて、リカルドはそれに気付いただけです」
「えと……どういう、事ですか?」
首を傾げて問うサビーナに、セヴェリは丁寧に説明をしてくれる。
「私達が逃げる際、デニスに宝石が入った小瓶を渡されたのを覚えていますか?」
「は、はい。確か、あれはリカルドさんが用意してくれたんですよね。お金で足が付かないようにと」
「ええ。その逆を彼はやっただけですよ。シェルトの財布を取り上げ、どこの国で発行されたお金が入っているかを調べたんでしょう」
「あ、成程……! 確かシェルトは、馬を売ったり買ったりしながらアンゼルードに入ったはずだから、どこの国を通って来たかが明白ですね!」
「ええ。一番遠い所で発行されたお金が、ラウリル公国だった……だから、リカルドはここに私達が居ると断定した。もしそれが断定出来ない状況だったなら、リカルドはシェルトを拷問してでも吐かせたでしょうしね」
セヴェリはクスクスと笑えない冗談を言って笑っている。
「どうして、その事を教えてくださらなかったんですか?」
単純な疑問をぶつけてみると、セヴェリは笑いを止め、申し訳なさそうに眉を下げさせた。
「あなたに伝えるかどうか……とても悩みました。あなたの顔を見ては答えを出せそうになく、あなたを追い出したりもしました」
一人になりたいと言って、追い出されたあの日。
セヴェリはレイスリーフェの死を知って、サビーナとは暮らせないと思ったから追い出したのではなかったというのか。
「どういう事ですか? あの時、セヴェリ様は……」
「リカルドの手紙の内容を覚えていますか?」
「え? ええと……レイスリーフェ様の死と、私が一級殺人犯になっている事……でしたよね? それでリカルドさんは、私達は一緒にいない方が良いって書いていて……」
「そうです。だから私は悩みました。リカルドの意図が、その手紙から読み取れましたからね」
「リカルドさんの……意図?」
あの手紙は淡々と事実だけが書かれてあった。リカルドの謝罪文ではあったが、その意図など読み取れるものではなかったように思う。
「私はリカルドの手紙の事を、こう説明しましたね。あの手紙は、リカルドがあなたを心配してのものだ、と」
確か、セヴェリと一緒に居ては、一生セヴェリの世話に追われる事になる、サビーナを自由にするための言葉だと、そう説明を受けた気がする。
「はい、リカルドさんは優しいからそういう考えを持ってるって……私には微塵もそんな感じを受ける内容ではありませんでしたが」
「っぷ、クスクスクス……勘がよろしいですね。その通りですよ」
「え?」
「あの時私が言った言葉は、大嘘ですから」
「……え」
嘘という言葉を聞いて、サビーナは眉を寄せる。何故セヴェリがそんな嘘を吐く必要があったのかが分からずに。
「リカルドが私とサビーナを離れさせるように示唆した、あの手紙の意図……表向きは私の為、深読みすればサビーナの為……でも真の目的は、デニスの為だったんです」
「……俺の?」
隣で聞いていただけのデニスが、驚きの声を上げる。サビーナも、何故ここで彼の名前が出て来るのかが分からず、セヴェリとデニスを交互に見遣った。
「何の不思議もないでしょう。デニスとリカルドは、戦友であり親友だ。その親友を想い人の所へ行かせてあげたいと思うのは、当然の心でしょう。しかしそこに私という障害がいれば、二人の恋路の邪魔になる。リカルドは、私とサビーナを引き離す必要があったんです。デニスの為にね」
「そ、んな、俺は……」
「私に嘘は禁物ですよ、デニス。サビーナへの気持ちがないなどと言う嘘はね」
「……っ」
デニスが言葉を詰まらせていると、セヴェリは「デニスはすぐに顔に出るから分かりやすい」とクスクス笑っている。わざわざ嘘を吐くなと言わなくても、デニスは嘘が吐ける人間ではないのだが。
「デニスさん……」
彼の名を呼ぶと、胸がぎゅっと苦しく締め付けられるように痛んだ。
デニスは、この二年間、ずっと牢の中でサビーナの事を想ってくれていたのかもしれない。そう思うと、申し訳なさで胸が潰れそうになる。
「リカルドの手紙の意図を読み取った私は、どうすべきか本当に悩みました。悩んで悩んで出した結論は……サビーナを私の傍に置いておき、利用する事でした」
「……え?」
サビーナはそのセヴェリの言葉に、耳を疑った。愕然としながらもセヴェリを見るも、彼は椅子から立ち上がり、サビーナを見下すように笑っていた。
そんな疑問よりも先に、感情の方が溢れ出す。
ずっと会いたかった。でも絶対に会えないと思っていた。デニスがこの場所を知り得るはずがないのだから。
二年ぶりのデニス。少し痩せているように見えるのは、気のせいじゃないはずだ。
「サビーナ……すげぇ会いたかったっ!」
「デニスさん、私も……っ」
彼の姿を見てほっとした。無事なのは分かっていたが、それでもこうやって対面出来ると、デニスが生きている事を神に感謝したくなるくらいに嬉しかった。
抱き合うようにそうしていると、後ろからジャリッと土の踏まれる音が近づいて来る。
「……デニス?」
背後から声がして、サビーナは振り返った。そこには追い付いて来た、セヴェリの姿。彼の姿を見たデニスは、そっとサビーナから少し離れた。
「セヴェリ様、お久しぶりです」
「……そう、ですか……やはり……」
セヴェリは喫驚の顔をどこか落胆に変化させ、こちらに背を向けている。
「来なさい、デニス、サビーナ。家で話をしましょう。ここでは誰かに聞かれかねない」
そう言われてサビーナがデニスを見上げると、子供のような無邪気な笑みで頷いている。
この笑顔が懐かしくて嬉しくて、サビーナもまた喜びの笑顔を彼に向けた。
家に入ると、セヴェリに促されて席に着いた。どちらに座るべきか迷ったが、このメンバーでは主従の関係なのだから主の隣には座れないと思い、セヴェリを対面に、デニスの隣の椅子に着く。
「久しぶりですね、デニス」
「お久しぶりです、セヴェリ様。すんません、どうしても二人の姿をこの目で確認したくて……来ちまいました」
「そうですか。私もデニスに会えて嬉しいですよ。二年もの長い間、牢暮らしをさせてしまい、申し訳ないと思っています」
「それは、俺が決めてやった事ですから」
デニスが屈託無くそう言ったので、セヴェリはほっとしている。そこにあったのは主従という関係ではなく、幼馴染みのような雰囲気だ。
「アンゼルードは今、どのような状況になっていますか?」
「俺が知ってんのは、ほとんどがリカルドから聞いた情報ですけど、それでいいんなら」
「教えてください」
デニスはこくんと頷き、話し始める。
まず、隊長のシェスカルはディノークス性を賜り、貴族となった所から話は始まった。
オーケルフェルトはなくなり、シェスカルが屋敷や土地を全て買い取った事。リカルド、キアリカ、サイラスはディノークスの騎士にそのまま移行した事。リックバルドがあの事件の一週間後に行方不明になった事。
これらは既に、シェルトが調査に行っていたので知っていたのだが。
「シェスカル隊長はしばらく貴族としての仕事が忙しいから、隊長職をリカルドに代行させるつもりだったみてぇだ。けどリカルドは断って、代わりにキアリカが隊長になった」
「へぇ、キアリカさんが……」
思わず、漏れるように声が出た。女性の待遇が悪い事を嘆いていた彼女である。アンゼルードはそこまで男尊女卑の激しい国ではないが、騎士は女性に不利な職種には間違いない。
その中で隊長というトップクラスの地位に就いたのだ。きっとまた沢山の苦労をしているに違いないが、同じ女性が隊長になれた事に誇りを感じる。
「んでもって、サイラスの奴は結婚した。そのうち子供も出来るんじゃねーかな」
「サイラスがですか? 結婚するようなタイプに見えませんでしたが……人は分からないものですね」
そう言いながらクスクス笑う姿はいつものセヴェリで、見ていてほっとする。こうしていると、さっきまでこの家で交わしていたサビーナとの会話が嘘のようだ。
「リカルドは相変わらず、騎士の傍ら演劇に没頭してたな。こっちは特に変わりなしだ」
昔、セヴェリと一度だけ行った観劇を思い出した。リカルドは今も女優の奥方と、共に舞台に立っているに違いない。
「で、シェスカル隊長は、リカルドの話じゃあ皇帝の娘を貰うとか貰わねぇとか、そういう話になってるらしい」
「ええ? 皇女様を?!」
「成程……盤石を期するつもりですね。結婚すれば皇女は皇族を離れるものの、貴族としての格は上がり、発言権も増す。そうしてシェスカルはアンゼルードを謀反無しに変えて行くつもりなんでしょう」
顎に手を当て、どこか納得の面持ちでそう呟いた。確かセヴェリは以前、シェスカルに対してこういう批評をしていたはずだ。
──彼はとても責任感の強い人です。
私をこんな目に遭わせておいて、のんびりと貴族生活を満喫出来るような男ではないのです。
私の目指した国を実現するために、きっと寝る間も惜しんで奔走する事でしょう──
皇女との結婚も、その一環だという事なのだろうか。皇女をも利用するシェスカルの行為に、どうにも理解出来ない心を抱えてしまう。しかし己もクリスタに対して同じ事をしているのだと気付き、自嘲の笑みを漏らした。
「隊長の考えは俺には分かんねぇけど……俺はやっぱり、セヴェリ様を裏切った隊長が許せなかった。刑期を終えた後、ディノークスの騎士になる気があるなら来いって言われたけど……俺が騎士として剣を振るうのは、セヴェリ様の為だけだ。そう考えると、どうしてもセヴェリ様の無事をこの目で確認したくて……それでここまで追い掛けて来ちまいました」
「良いんですよ。あなたの事だから、ここに来る可能性は考えていました」
穏やかでありながらも寂しげな声音のセヴェリに、サビーナは少し首を捻らせる。
「セヴェリ様は、デニスさんが来るかもしれないって予想をしていたんですか?」
「ええ。リカルドからの手紙を受け取った時に、デニスが来る事も頭に入れていましたよ」
「あの時に? でも、シェルトはこの場所を伝えてはいないって……そもそも、どうしてデニスさんはこの場所が分かったんですか? 誰にも知られていないはずなのに」
「ん? リカルドが、この国にいるって断定してたぜ。大きな街じゃなく、村にいるだろうとも言ってた。俺はこの国の村を全部回るつもりでいたんだ。小さな国だし、何とか探し出せんじゃねぇかと思ってたけど、まさか最初からビンゴだったとはな」
リカルドが断定していたという話を聞いて、サビーナは顔を顰めた。やはりシェルトがリカルドに全てをバラしてしまっていたに違いない。それでも追手が今までここに辿り着いていないという事は、リカルドは黙っていてくれたという事なのだろう。しかし嘘を付いてセヴェリを危険に晒したシェルトが、どうにも許せない。
ギリっと歯を噛み締めて苛立ちを隠しきれないでいると、セヴェリが何でも無いことのように言った。
「サビーナ、シェルトはリカルドにこの場所を教えたりはしていませんよ」
「え?」
「ここに居ると断定出来るだけの証拠をシェルトが持っていて、リカルドはそれに気付いただけです」
「えと……どういう、事ですか?」
首を傾げて問うサビーナに、セヴェリは丁寧に説明をしてくれる。
「私達が逃げる際、デニスに宝石が入った小瓶を渡されたのを覚えていますか?」
「は、はい。確か、あれはリカルドさんが用意してくれたんですよね。お金で足が付かないようにと」
「ええ。その逆を彼はやっただけですよ。シェルトの財布を取り上げ、どこの国で発行されたお金が入っているかを調べたんでしょう」
「あ、成程……! 確かシェルトは、馬を売ったり買ったりしながらアンゼルードに入ったはずだから、どこの国を通って来たかが明白ですね!」
「ええ。一番遠い所で発行されたお金が、ラウリル公国だった……だから、リカルドはここに私達が居ると断定した。もしそれが断定出来ない状況だったなら、リカルドはシェルトを拷問してでも吐かせたでしょうしね」
セヴェリはクスクスと笑えない冗談を言って笑っている。
「どうして、その事を教えてくださらなかったんですか?」
単純な疑問をぶつけてみると、セヴェリは笑いを止め、申し訳なさそうに眉を下げさせた。
「あなたに伝えるかどうか……とても悩みました。あなたの顔を見ては答えを出せそうになく、あなたを追い出したりもしました」
一人になりたいと言って、追い出されたあの日。
セヴェリはレイスリーフェの死を知って、サビーナとは暮らせないと思ったから追い出したのではなかったというのか。
「どういう事ですか? あの時、セヴェリ様は……」
「リカルドの手紙の内容を覚えていますか?」
「え? ええと……レイスリーフェ様の死と、私が一級殺人犯になっている事……でしたよね? それでリカルドさんは、私達は一緒にいない方が良いって書いていて……」
「そうです。だから私は悩みました。リカルドの意図が、その手紙から読み取れましたからね」
「リカルドさんの……意図?」
あの手紙は淡々と事実だけが書かれてあった。リカルドの謝罪文ではあったが、その意図など読み取れるものではなかったように思う。
「私はリカルドの手紙の事を、こう説明しましたね。あの手紙は、リカルドがあなたを心配してのものだ、と」
確か、セヴェリと一緒に居ては、一生セヴェリの世話に追われる事になる、サビーナを自由にするための言葉だと、そう説明を受けた気がする。
「はい、リカルドさんは優しいからそういう考えを持ってるって……私には微塵もそんな感じを受ける内容ではありませんでしたが」
「っぷ、クスクスクス……勘がよろしいですね。その通りですよ」
「え?」
「あの時私が言った言葉は、大嘘ですから」
「……え」
嘘という言葉を聞いて、サビーナは眉を寄せる。何故セヴェリがそんな嘘を吐く必要があったのかが分からずに。
「リカルドが私とサビーナを離れさせるように示唆した、あの手紙の意図……表向きは私の為、深読みすればサビーナの為……でも真の目的は、デニスの為だったんです」
「……俺の?」
隣で聞いていただけのデニスが、驚きの声を上げる。サビーナも、何故ここで彼の名前が出て来るのかが分からず、セヴェリとデニスを交互に見遣った。
「何の不思議もないでしょう。デニスとリカルドは、戦友であり親友だ。その親友を想い人の所へ行かせてあげたいと思うのは、当然の心でしょう。しかしそこに私という障害がいれば、二人の恋路の邪魔になる。リカルドは、私とサビーナを引き離す必要があったんです。デニスの為にね」
「そ、んな、俺は……」
「私に嘘は禁物ですよ、デニス。サビーナへの気持ちがないなどと言う嘘はね」
「……っ」
デニスが言葉を詰まらせていると、セヴェリは「デニスはすぐに顔に出るから分かりやすい」とクスクス笑っている。わざわざ嘘を吐くなと言わなくても、デニスは嘘が吐ける人間ではないのだが。
「デニスさん……」
彼の名を呼ぶと、胸がぎゅっと苦しく締め付けられるように痛んだ。
デニスは、この二年間、ずっと牢の中でサビーナの事を想ってくれていたのかもしれない。そう思うと、申し訳なさで胸が潰れそうになる。
「リカルドの手紙の意図を読み取った私は、どうすべきか本当に悩みました。悩んで悩んで出した結論は……サビーナを私の傍に置いておき、利用する事でした」
「……え?」
サビーナはそのセヴェリの言葉に、耳を疑った。愕然としながらもセヴェリを見るも、彼は椅子から立ち上がり、サビーナを見下すように笑っていた。
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