60 / 79
60.諦めて
しおりを挟む
「ミジュさん! 三月十四日、俺とデートしてください!!」
ホワイトデーを来週に控えたバレーの休憩中に。晴臣くんが皆の前でいきなりそんな事を言い出した。
晴臣くんは皆に私を好きな事がバレてから……というかバラしてから、平気でアピールしてくるようになったなぁ~。嬉しいような、恥ずかしいような。
私も晴臣くんのこういう所、見習いたいよ。
「あの……ごめんね? その日はロングだから、帰りが九時過ぎちゃうの」
「そっすか……じゃあ、その後で良いんで、ちょっとだけ会えないですか?」
「ええ? 九時半過ぎちゃうけど、良い?」
「オッケーっす。また連絡します!」
嬉しそうに笑う晴臣くんに、ヒロヤくんが「良かったなー!」と頭を撫で繰り回してる。
私が拓真くんを好きだって知ってる三島さんは、複雑な表情だった。バレンタインの日に告白出来なかった事も、拓真くんには他に好きな人がいたって事も、全部よしちゃんに話してある。だから多分、三島さんにも伝わってるはず。
皆が晴臣くんに「頑張れよ」とか「男を見せろ」とかやんや言われてる中、拓真くんは我関せずでボーッとソフトバレーの方を見てた。
製菓学校の子が好きなのかも、と思ってたけど、もしかしてソフトバレーの人? 通学途中にもたくさんのおば様方と挨拶してるって言ってたし、まさかその中の一人に本命が?!
好きな人がいる事をずっと言いたくなさそうだったのは、そういう事だったのかも!
そう言えば以前、私が三島さんと飲みに行って心配掛けちゃった時、確かこう言ってたっけ。
『男女の関係なんて、彼女がいようがいるまいが、関係なくなっちまう事もある』って。
あ……私、分かっちゃったかも。拓真くんは……年上の女の人と、不倫してるんだ!
だから付き合ってる事もおおっぴらに出来なくて、好きな人もいるって言えなくて。告白すると相手の家庭を壊しちゃうから、今は無理って言ってたんだ。
好きな人に貰ったチョコが義理だったっていうのは、きっとバレちゃいけないからそんな風に言ったか、本命チョコだと分かるようなものだと誰かに見られた時に言い訳できないから。
以前、『ガキで稼ぎもないし、見通しも立たないから女の人と付き合えない』とも言ってたよね?
どうしよ、辻褄が合っちゃった。もうこれで、間違いないよ!
ショックだ……拓真くんが不倫しちゃう人だっただなんて……。
でも、それならまだ私が付け入る余地もあるかもしれない。不倫なんて、多分辛いだけだよね。年上好きなら、私にだって可能性があるわけだし。
自分でもしつこいと思うけど、まだ諦めないんだから……!
練習が終わって家に帰る時が、二人っきりだし一番聞きやすい。
余計なお世話だと思われるかもしれないけど……やっぱり一言だけでも言っておきたい。
まだ三月で寒い中、半袖で歩いてる拓真くんを見上げる。
「拓真くん」
「ん?」
「今日、私……気付いちゃった事があるの」
「なんだ?」
「あの、もしかして、なんだけど……拓真くんの好きな人って、年上なんじゃないのかなって……」
違うって言われればそれで良い。不倫はしてないって事だから。
でも、もしそうだって言われたら……。
「あー……うん、そうだけど」
拓真くんが少し照れ臭そうに、それでいて何かを隠すように私から目を逸らして前を向いた。
ああ、この態度……やっぱり間違いないよね。
「拓真くん……それ……あんまり良くないんじゃないかなぁ……」
「……何が?」
「だから……その人の事、諦めた方が良いんじゃないかなって思うの」
「……」
拓真くんからの返事は、得られなかった。
そうだよね、いきなり好きな人を諦めろって言われても困るよね。
すぐに諦められるくらいの気持ちなら、とっくに諦めてるんだろうし……。
「諦めるか諦めないかは、俺が決める」
「でも、傷付くのは拓真くんだから……」
「もう充分傷付いてるよ」
そ、そんなに傷つくような事があったの?! なのに、まだ諦めてないとか……そんなにその人の事が好きなんだね。
部外者に言われるのも、腹が立っただろうな……。
「ごめんね……こんな事言っちゃって……」
「別に。仕方ねーし」
うわ、すごく怒っちゃった。どうしよう。
「本当にごめ……」
「もう良いから。謝んな」
拓真くんは私がプレゼントしたタオルで、グイッと顔を拭った。
汗を拭いただけ? まさか……泣いてないよね……?
心配になって顔を覗き込むと、少しムスッとした拓真くんの顔がそこにあった。
「……そんな顔すんなよ。分かった、諦める努力は……するから」
「本当に?!」
良かった、分かってくれたー!
私はホッと胸を撫で下ろす。
「……やっぱ諦めんのも癪だな」
「ええ~……」
もう、ガクッと来るよ。どっちなのー!
むうっと口を尖らせながら、拓真くんの目を見つめる。すると拓真くんは一つ息を吐いて。
「分かった、そんなに言うなら……諦めるよ」
そう言って眉を寄せる、拓真くんの苦しそうな顔。
そんなのを見てると、私まで胸が痛くなっちゃうよ……。
好きな人を諦めなきゃいけないって、物凄く辛い事。それを、私は強要しちゃったんだ……ごめんね。でも、それが拓真くんのためだから……。
なんて、私自身のためだよね。拓真くんのためとか言いながら、私が付き合えるの可能性を上げるために傷付けちゃったんだから。
ほんっと私って最低。
「ごめんね、許してね……」
「あー、悪ぃ。ちょっと先に帰るわ」
拓真くんは、家まで残り一分の距離を走って行ってしまった。
私は一分後、拓真くんの部屋の前を通り過ぎる。家に帰ってから耳を澄ましてみたけど、泣いてる様子はないみたいだった。
きつい事言ってごめんね、拓真くん。でも、不倫はダメだよ。
早く、元の元気な拓真くんに戻ってくれるといいな……。
ホワイトデーを来週に控えたバレーの休憩中に。晴臣くんが皆の前でいきなりそんな事を言い出した。
晴臣くんは皆に私を好きな事がバレてから……というかバラしてから、平気でアピールしてくるようになったなぁ~。嬉しいような、恥ずかしいような。
私も晴臣くんのこういう所、見習いたいよ。
「あの……ごめんね? その日はロングだから、帰りが九時過ぎちゃうの」
「そっすか……じゃあ、その後で良いんで、ちょっとだけ会えないですか?」
「ええ? 九時半過ぎちゃうけど、良い?」
「オッケーっす。また連絡します!」
嬉しそうに笑う晴臣くんに、ヒロヤくんが「良かったなー!」と頭を撫で繰り回してる。
私が拓真くんを好きだって知ってる三島さんは、複雑な表情だった。バレンタインの日に告白出来なかった事も、拓真くんには他に好きな人がいたって事も、全部よしちゃんに話してある。だから多分、三島さんにも伝わってるはず。
皆が晴臣くんに「頑張れよ」とか「男を見せろ」とかやんや言われてる中、拓真くんは我関せずでボーッとソフトバレーの方を見てた。
製菓学校の子が好きなのかも、と思ってたけど、もしかしてソフトバレーの人? 通学途中にもたくさんのおば様方と挨拶してるって言ってたし、まさかその中の一人に本命が?!
好きな人がいる事をずっと言いたくなさそうだったのは、そういう事だったのかも!
そう言えば以前、私が三島さんと飲みに行って心配掛けちゃった時、確かこう言ってたっけ。
『男女の関係なんて、彼女がいようがいるまいが、関係なくなっちまう事もある』って。
あ……私、分かっちゃったかも。拓真くんは……年上の女の人と、不倫してるんだ!
だから付き合ってる事もおおっぴらに出来なくて、好きな人もいるって言えなくて。告白すると相手の家庭を壊しちゃうから、今は無理って言ってたんだ。
好きな人に貰ったチョコが義理だったっていうのは、きっとバレちゃいけないからそんな風に言ったか、本命チョコだと分かるようなものだと誰かに見られた時に言い訳できないから。
以前、『ガキで稼ぎもないし、見通しも立たないから女の人と付き合えない』とも言ってたよね?
どうしよ、辻褄が合っちゃった。もうこれで、間違いないよ!
ショックだ……拓真くんが不倫しちゃう人だっただなんて……。
でも、それならまだ私が付け入る余地もあるかもしれない。不倫なんて、多分辛いだけだよね。年上好きなら、私にだって可能性があるわけだし。
自分でもしつこいと思うけど、まだ諦めないんだから……!
練習が終わって家に帰る時が、二人っきりだし一番聞きやすい。
余計なお世話だと思われるかもしれないけど……やっぱり一言だけでも言っておきたい。
まだ三月で寒い中、半袖で歩いてる拓真くんを見上げる。
「拓真くん」
「ん?」
「今日、私……気付いちゃった事があるの」
「なんだ?」
「あの、もしかして、なんだけど……拓真くんの好きな人って、年上なんじゃないのかなって……」
違うって言われればそれで良い。不倫はしてないって事だから。
でも、もしそうだって言われたら……。
「あー……うん、そうだけど」
拓真くんが少し照れ臭そうに、それでいて何かを隠すように私から目を逸らして前を向いた。
ああ、この態度……やっぱり間違いないよね。
「拓真くん……それ……あんまり良くないんじゃないかなぁ……」
「……何が?」
「だから……その人の事、諦めた方が良いんじゃないかなって思うの」
「……」
拓真くんからの返事は、得られなかった。
そうだよね、いきなり好きな人を諦めろって言われても困るよね。
すぐに諦められるくらいの気持ちなら、とっくに諦めてるんだろうし……。
「諦めるか諦めないかは、俺が決める」
「でも、傷付くのは拓真くんだから……」
「もう充分傷付いてるよ」
そ、そんなに傷つくような事があったの?! なのに、まだ諦めてないとか……そんなにその人の事が好きなんだね。
部外者に言われるのも、腹が立っただろうな……。
「ごめんね……こんな事言っちゃって……」
「別に。仕方ねーし」
うわ、すごく怒っちゃった。どうしよう。
「本当にごめ……」
「もう良いから。謝んな」
拓真くんは私がプレゼントしたタオルで、グイッと顔を拭った。
汗を拭いただけ? まさか……泣いてないよね……?
心配になって顔を覗き込むと、少しムスッとした拓真くんの顔がそこにあった。
「……そんな顔すんなよ。分かった、諦める努力は……するから」
「本当に?!」
良かった、分かってくれたー!
私はホッと胸を撫で下ろす。
「……やっぱ諦めんのも癪だな」
「ええ~……」
もう、ガクッと来るよ。どっちなのー!
むうっと口を尖らせながら、拓真くんの目を見つめる。すると拓真くんは一つ息を吐いて。
「分かった、そんなに言うなら……諦めるよ」
そう言って眉を寄せる、拓真くんの苦しそうな顔。
そんなのを見てると、私まで胸が痛くなっちゃうよ……。
好きな人を諦めなきゃいけないって、物凄く辛い事。それを、私は強要しちゃったんだ……ごめんね。でも、それが拓真くんのためだから……。
なんて、私自身のためだよね。拓真くんのためとか言いながら、私が付き合えるの可能性を上げるために傷付けちゃったんだから。
ほんっと私って最低。
「ごめんね、許してね……」
「あー、悪ぃ。ちょっと先に帰るわ」
拓真くんは、家まで残り一分の距離を走って行ってしまった。
私は一分後、拓真くんの部屋の前を通り過ぎる。家に帰ってから耳を澄ましてみたけど、泣いてる様子はないみたいだった。
きつい事言ってごめんね、拓真くん。でも、不倫はダメだよ。
早く、元の元気な拓真くんに戻ってくれるといいな……。
0
あなたにおすすめの小説
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる