若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗

文字の大きさ
80 / 115
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

080●フロー編●71.目星

 ツェツィーリアたちが王都を離れていった。
 やることは盛りだくさんで、悲しんでいる暇はない。
 ツェツィーリアとリーゼロッテは外傷が酷くすぐに密葬という形にし、下手人はすでにラルスが粛清した……という設定だ。
 今回の騒動で出た死傷者は、フローリアンが思っていた以上に多かった。クーデターに加担した者の処分にも頭を悩ませるところだ。

「なんにせよ、ラルスとシャインが無事でよかったよ……多くの者が亡くなって、こんなことを言っちゃダメなんだろうけどさ……」

 執務室に三人だけになると、思わず本音が漏れてしまう。一人でも欠けてしまっていたら、もう平静ではいられなかっただろう。

「ほんとですね! シャイン殿なんて、『陛下のご尊顔を拝するのは、これが最後になるかもしれません』なんて言うんですから」

 ラルスがシャインの顔と声真似をしていて、フローリアンは思わず吹き出す。

「はは、似てる! そっくり!」
「もうあんな冗談いうのなしですよー、シャイン殿!」
「私は冗談など申しませんが」

 シャインに真顔で言われていて、ラルスは困ったように眉を下げた。

「わかってますよ。でも王が不安になるので、もうあんなことは言わないでください」

 その言葉に、シャインは少し間を空けてから、こくりとラルスに頷いている。

「そうですね。今の陛下に言うべき言葉ではありませんでした。配慮が足りず、申し訳ございません」

 いつものようにきれいに頭を下げられ、フローリアンはゆっくりと首を横に振る。〝今の陛下〟ということは、先王であるディートフリートに対する接し方をしてしまったということだろう。
 シャインは長くディートフリートに仕えていたし、緊急時にそこまで気遣えなくても仕方がない。

「無事だったからいいよ。でももう、無茶はしないでくれ。シャインになにかあったら、僕だけじゃなくて兄さまも悲しむんだから。ね?」

 そういうと、シャインは困ったように微笑んでいる。そんな顔を見ると、彼は本当はまだ、ディートフリートに仕えたい気持ちがあるのかもしれない……とフローリアンはそんなことを思ってしまった。

「ところで、今回のクーデターの首謀者は誰かわかったのか?」
「いいえ、まだでございます」

 クーデターの首謀者などすぐにわかると思っていたが、かなり巧妙に人を操っていたようで、これという人物が出てこない。聴取すればするほど、首謀者がすげ変わるおかしな事態になってしまっている。
 有能なシャインが手をこまねいている状態では、フローリアンとしても落ち着かない。

「気持ち悪いね……今上がっている名前に、本当の首謀者がいるのかどうかもあやしくなってくるよ」
「はい。このするすると抜け穴から逃げられるような感覚は……以前にも覚えがあります」
「以前?」

 フローリアンが首を傾げると、シャインは首肯した。

「陛下は、ウッツ・コルベをご存知でしょう」
「もちろん。国庫金を使って投獄された、元貴族の男だよね?」
「はい。私やディートフリート様は、ウッツこそがユリアーナ様のお父上、ホルスト殿を殺害して横領の罪を着せ、失脚させた張本人ではないかと思っていました。そして自身の娘を王家に嫁がせようとしていたのではないかと見ていたのです」

 その話なら、以前にも聞いている。フローリアンは娘の名前はなんだったかと、記憶を掘り起こした。

「えーと確か、ゲルダ・コルベ」

 シャインがすっと首肯した。
 それは二十年以上も昔の、フローリアンが生まれる前の話だ。
 ディートフリートたちはホルストが殺害されたと思い、ずっと犯人を追っていた。その懸命さはフローリアンも知っている。
 結局、犯人が見つかることはなかったのだが。

「そのウッツを追っていた時のような気持ち悪さが、今回もあるのです。犯人に辿り着けそうで、闇の中に吸い込まれてしまいそうな、この感覚が……」

 いつも冷静で穏やかなシャインから、わずかな怒りを感じた。
 それだけシャインにとって、ウッツ・コルベの件は悔しい出来事だったのだろう。

「シャイン殿、今回は絶対首謀者を暴き出しましょう!!」

 そんなシャインに、ラルスは拳を作りながら訴えている。
 フローリアンも同じ気持ちだ。誰が首謀者かわからないまま、国を運営していくのは不安がある。

「うん、それだけ影響力のある者を野放しにしていては、また似たような事態を引き起こす可能性がある。絶対に捕まえるよ!」

 フローリアンがそう強く宣言すると。

「「はっ!!」」

 二人の騎士は、ピシリと敬礼を見せたのだった。
感想 35

あなたにおすすめの小説

誰にも口外できない方法で父の借金を返済した令嬢にも諦めた幸せは訪れる

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ジュゼットは、兄から父が背負った借金の金額を聞いて絶望した。 しかも返済期日が迫っており、家族全員が危険な仕事や売られることを覚悟しなければならない。 そんな時、借金を払う代わりに仕事を依頼したいと声をかけられた。 ジュゼットは自分と家族の将来のためにその依頼を受けたが、当然口外できないようなことだった。 その仕事を終えて実家に帰るジュゼットは、もう幸せな結婚は望めないために一人で生きていく決心をしていたけれど求婚してくれる人がいたというお話です。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

二人の妻に愛されていたはずだった

ぽんちゃん
恋愛
 傾いていた伯爵家を復興すべく尽力するジェフリーには、第一夫人のアナスタシアと第二夫人のクララ。そして、クララとの愛の結晶であるジェイクと共に幸せな日々を過ごしていた。  二人の妻に愛され、クララに似た可愛い跡継ぎに囲まれて、幸せの絶頂にいたジェフリー。  アナスタシアとの結婚記念日に会いにいくのだが、離縁が成立した書類が残されていた。    アナスタシアのことは愛しているし、もちろん彼女も自分を愛していたはずだ。  何かの間違いだと調べるうちに、真実に辿り着く。  全二十八話。  十六話あたりまで苦しい内容ですが、堪えて頂けたら幸いです(><)

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です