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第三章 若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
114◉ユリア編◉10.夢
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空気が張り詰めている。
王城の雰囲気というのは独特だ。けれどこのピリリとした空気感は懐かしく、ユリアーナはどちらかというとこの感じが好きだ。
(またここへ足を踏み入れることが叶うなんて──思いもしなかったことだわ)
じわりとあふれる感慨深さに、ユリアーナは胸をぎゅっと押さえた。
「きれいだよ、ユリア」
愛しい旦那様で、再びこの国の王となる男が、優しくユリアーナの肩を抱いて共に鏡を覗いている。
「まだ、信じられない気分です」
鏡の中のユリアーナは、美しく着飾られていた。
今日は、新国王と王妃のお披露目の一般参賀がある。
前王であるフローリアンは、妻と娘の一人を失ったショックから立ち直れず、持病が悪化した……ということになっている。そのため、国外に無期限の療養に行かなくてはならなくなり、実質国政には携われなくなった。
ちょうどその時にホルストの嫌疑が晴れ、王族に加わることの問題がなくなったユリアーナとともに、ディートフリートが一度離脱した王族に復帰。
もっと揉めるものかと思っていたが、国王がいなくなって絶望する国民に、元賢王の復帰は喜ばしいもので歓迎された。それだけディートフリートの王復帰を望む者が多かったのだろう。
「僕もまだ、信じられない気分だよ」
そう言いながらもディートフリートは、はははと余裕のある笑みを浮かべる。
この人は根っからの王気質なのだと、改めて知らされる思いだ。
「さあ行こうか、僕の妃」
「はい、ハウアドル王国の賢王」
差し出された手を取り、ユリアーナはディートフリートと共に部屋を出る。そこではディートフリートの両親であるエルネスティーネとラウレンツが待っていた。
「ユリアーナ……」
エルネスティーネがユリアーナを見てほろりと涙を見せる。
「とてもきれいですよ……ユリアーナ。あなたが王妃になる日を、どれだけ夢見ていたことか……」
「王太后様……」
ディートフリートの涙もろさは、エルネスティーネ譲りなのか。その涙を見ると、なぜかユリアーナはほっこりとしてしまった。
ユリアーナは、エルネスティーネの王妃教育を、幼い頃からずっと受けてきた。厳しいところもあったが、たくさんの愛情を注いでくれていたこともわかっている。本当の娘のように思ってくれていたし、ユリアーナも義母となるエルネスティーネを尊敬し、慕っていた。
今、ようやくその時の夢が叶う。
「ホルストと奥方も、空の上で喜んでくれていることでしょう……」
そういって、エルネスティーネはユリアーナの手を握ってくれた。その手からは温もりが伝わってきて、母親としての愛情を感じることができる。
もう本当の両親はいないけれど、これからはラウレンツとエルネスティーネがいるのだと思うと、胸が熱くなった。
「さぁ、その姿を国民たちにも見せておあげなさい」
「はい……おかあさま……!」
ユリアーナがそう呼ぶと、エルネスティーネは嬉しそうに目を細め、きらりと涙をすべらせた。
りんと背筋を伸ばしたユリアーナは、ディートフリートとともにバルコニーに続く扉の前へと進む。
そこには赤髪の騎士と、金髪の補佐が二人を待っていた。
「ご準備はよろしいですか、王」
騎士の格好をしたシャインが、穏やかに微笑んだ。
「ああ、大丈夫だよ」
「ユリアーナ様は」
「ええ、いいわ」
二人の了承を得ると、赤髪の騎士ルーゼンが扉の前でニッと笑った。
「じゃあ、俺らの王と王妃のお披露目だ!」
そういうと、シャインとルーゼンが扉を開けてくれる。
「ユリア」
「ええ、ディー」
ディートフリートに促され、ユリアーナは一歩踏み出した。
その瞬間、国民の声が一気に沸く。
ゆっくりと足を進めていくと、眼下は人で溢れかえっているのがわかった。
城の敷地内はもちろんのこと、門の向こう側の路地、それに家の屋根にまで登ってどうにか一目見ようとしている者たち。人以外の物を見つける方が難しいくらいに。
「ものすごい人数……」
「うれしいね。こんなにたくさんの国民が、僕らを歓迎してくれている」
耳には割れんばかりの歓声が、ひっきりなしに飛び込んできている。
どの国民も、笑顔だ。きっと歴代の王も、こんな光景は見たことがないに違いない。
「ユリアーナ様ーー!!」
「王妃殿下ーー!!」
国王陛下万歳という声の合間に、そんな声がユリアーナの鼓膜に届いた。
「ほら、ユリア。君も手を振ってあげて」
「……はい」
ユリアーナがそっと手を上げて優雅に振って見せると、さらに国民は熱狂の声をあげてくれる。
受け入れられていることがこんなにも嬉しい。
ずっと、ずっと夢に見ていたのだ。
王であるディートフリートの横に立ち、国民に祝福される日を。
「夢が……叶いました……」
ほろり、とユリアーナの目から涙が溢れた。
王都を出たあの日、もう二度とこんな日は来ないと思っていた。
とっくに諦めていたはずの夢が、まさかこんな形で叶うなんて、思いもしていなかったのだ。
「僕もこんな未来が来るとは思わなかったよ」
隣を見上げると、立派な王冠を被った立派な王は、ユリアーナを見て目を細めている。
ユリアーナの胸の内から、温かいものが次から次へと溢れ出した。
「不惑の年を過ぎて、こんなにたくさんの幸せが訪れるとは思ってもいませんでした」
そんなユリアーナを見ていたディートフリートが、幼き頃から変わらぬその優しい目を細めた。
「もっともっと幸せになれるよ。これからだ」
そういうと、ディートフリートはユリアーナの腰を抱き寄せてくれる。
その姿を見た国民たちからは、また一段と高い声が上がった。
ユリアーナはディートフリートの胸に顔を寄せ、じっくりと幸せを噛み締める。
耳に届く国民の声はユリアーナの心を熱くさせ、ディートフリートとリシェル、そして守るべき国民のため、王妃として力を尽くすのだと強く誓う。
高く昇った太陽は、まるでこの国の未来を照らしているようで。
新王であるディートフリートと王妃であるユリアーナを讃える声は、長く、長く続いた──
王城の雰囲気というのは独特だ。けれどこのピリリとした空気感は懐かしく、ユリアーナはどちらかというとこの感じが好きだ。
(またここへ足を踏み入れることが叶うなんて──思いもしなかったことだわ)
じわりとあふれる感慨深さに、ユリアーナは胸をぎゅっと押さえた。
「きれいだよ、ユリア」
愛しい旦那様で、再びこの国の王となる男が、優しくユリアーナの肩を抱いて共に鏡を覗いている。
「まだ、信じられない気分です」
鏡の中のユリアーナは、美しく着飾られていた。
今日は、新国王と王妃のお披露目の一般参賀がある。
前王であるフローリアンは、妻と娘の一人を失ったショックから立ち直れず、持病が悪化した……ということになっている。そのため、国外に無期限の療養に行かなくてはならなくなり、実質国政には携われなくなった。
ちょうどその時にホルストの嫌疑が晴れ、王族に加わることの問題がなくなったユリアーナとともに、ディートフリートが一度離脱した王族に復帰。
もっと揉めるものかと思っていたが、国王がいなくなって絶望する国民に、元賢王の復帰は喜ばしいもので歓迎された。それだけディートフリートの王復帰を望む者が多かったのだろう。
「僕もまだ、信じられない気分だよ」
そう言いながらもディートフリートは、はははと余裕のある笑みを浮かべる。
この人は根っからの王気質なのだと、改めて知らされる思いだ。
「さあ行こうか、僕の妃」
「はい、ハウアドル王国の賢王」
差し出された手を取り、ユリアーナはディートフリートと共に部屋を出る。そこではディートフリートの両親であるエルネスティーネとラウレンツが待っていた。
「ユリアーナ……」
エルネスティーネがユリアーナを見てほろりと涙を見せる。
「とてもきれいですよ……ユリアーナ。あなたが王妃になる日を、どれだけ夢見ていたことか……」
「王太后様……」
ディートフリートの涙もろさは、エルネスティーネ譲りなのか。その涙を見ると、なぜかユリアーナはほっこりとしてしまった。
ユリアーナは、エルネスティーネの王妃教育を、幼い頃からずっと受けてきた。厳しいところもあったが、たくさんの愛情を注いでくれていたこともわかっている。本当の娘のように思ってくれていたし、ユリアーナも義母となるエルネスティーネを尊敬し、慕っていた。
今、ようやくその時の夢が叶う。
「ホルストと奥方も、空の上で喜んでくれていることでしょう……」
そういって、エルネスティーネはユリアーナの手を握ってくれた。その手からは温もりが伝わってきて、母親としての愛情を感じることができる。
もう本当の両親はいないけれど、これからはラウレンツとエルネスティーネがいるのだと思うと、胸が熱くなった。
「さぁ、その姿を国民たちにも見せておあげなさい」
「はい……おかあさま……!」
ユリアーナがそう呼ぶと、エルネスティーネは嬉しそうに目を細め、きらりと涙をすべらせた。
りんと背筋を伸ばしたユリアーナは、ディートフリートとともにバルコニーに続く扉の前へと進む。
そこには赤髪の騎士と、金髪の補佐が二人を待っていた。
「ご準備はよろしいですか、王」
騎士の格好をしたシャインが、穏やかに微笑んだ。
「ああ、大丈夫だよ」
「ユリアーナ様は」
「ええ、いいわ」
二人の了承を得ると、赤髪の騎士ルーゼンが扉の前でニッと笑った。
「じゃあ、俺らの王と王妃のお披露目だ!」
そういうと、シャインとルーゼンが扉を開けてくれる。
「ユリア」
「ええ、ディー」
ディートフリートに促され、ユリアーナは一歩踏み出した。
その瞬間、国民の声が一気に沸く。
ゆっくりと足を進めていくと、眼下は人で溢れかえっているのがわかった。
城の敷地内はもちろんのこと、門の向こう側の路地、それに家の屋根にまで登ってどうにか一目見ようとしている者たち。人以外の物を見つける方が難しいくらいに。
「ものすごい人数……」
「うれしいね。こんなにたくさんの国民が、僕らを歓迎してくれている」
耳には割れんばかりの歓声が、ひっきりなしに飛び込んできている。
どの国民も、笑顔だ。きっと歴代の王も、こんな光景は見たことがないに違いない。
「ユリアーナ様ーー!!」
「王妃殿下ーー!!」
国王陛下万歳という声の合間に、そんな声がユリアーナの鼓膜に届いた。
「ほら、ユリア。君も手を振ってあげて」
「……はい」
ユリアーナがそっと手を上げて優雅に振って見せると、さらに国民は熱狂の声をあげてくれる。
受け入れられていることがこんなにも嬉しい。
ずっと、ずっと夢に見ていたのだ。
王であるディートフリートの横に立ち、国民に祝福される日を。
「夢が……叶いました……」
ほろり、とユリアーナの目から涙が溢れた。
王都を出たあの日、もう二度とこんな日は来ないと思っていた。
とっくに諦めていたはずの夢が、まさかこんな形で叶うなんて、思いもしていなかったのだ。
「僕もこんな未来が来るとは思わなかったよ」
隣を見上げると、立派な王冠を被った立派な王は、ユリアーナを見て目を細めている。
ユリアーナの胸の内から、温かいものが次から次へと溢れ出した。
「不惑の年を過ぎて、こんなにたくさんの幸せが訪れるとは思ってもいませんでした」
そんなユリアーナを見ていたディートフリートが、幼き頃から変わらぬその優しい目を細めた。
「もっともっと幸せになれるよ。これからだ」
そういうと、ディートフリートはユリアーナの腰を抱き寄せてくれる。
その姿を見た国民たちからは、また一段と高い声が上がった。
ユリアーナはディートフリートの胸に顔を寄せ、じっくりと幸せを噛み締める。
耳に届く国民の声はユリアーナの心を熱くさせ、ディートフリートとリシェル、そして守るべき国民のため、王妃として力を尽くすのだと強く誓う。
高く昇った太陽は、まるでこの国の未来を照らしているようで。
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