12 / 43
08.恐怖侯爵様、告白する。①
しおりを挟む
もう、我慢できないっ!!
しくしく泣いているのはもうやめだ。
っていうか、腹が立ってきた。
この怒り、どうしてくれよう?
夜の帳が下りてから、むくむくと湧いてきたこの気持ち。
冷める前に言ってやろうじゃないの。
イシドール様のお部屋の扉を、ゴンゴンと叩いた。
はしたない叩き方で、怒りを伝える。
「レディアです! 入りますっ!」
返事を待たずに、勢いよく扉を開け放つ。
そして、中でまだ書類仕事をしているイシドール様に浴びせかけた。
「どうしてあんなことを言ったんですかっ」
びっくりしてる。そりゃそうでしょうとも。
「あんなこと、とは」
私は声が漏れるといけないって気づいて、慌てて扉を閉めた。
それからようやく前を向いて、イシドール様に告げる。
「私がここにいることを望んじゃいけないって、シャロットに言ったじゃないですか!」
考えてもわからない。だから、聞くしかない!
イシドール様は座ったまま、怒涛の勢いの私を見上げた。
「……母親が二度もいなくなるような体験を、シャルにさせたくなかった」
なにそれ……なにそれっ!
「どうして私が、出ていくと思うんです!?」
「君の家の事情を知っていた。家族に愛されず、無理に俺と結婚させた……君もいずれ、ラヴィーナのように俺の前から消えるだろうと、そう思っている」
「消えません!!」
私の叫びが、静かな部屋に響いていく。
一瞬訪れた沈黙を、イシドール様が静かに破る。
「……君が誰かと駆け落ちしても、ちゃんと実家への支援は続けるつもりでいた」
「実家への支援など、今すぐ切っていただいて結構です!」
もう私は実家を出た身だもの。もうあの家がどうなったって構わない。
結婚の際にすでに多額の支援金をもらってるんだから、それで立て直せなきゃただの間抜けよ。
イシドール様の稼ぎを、無駄に使わせてたまるもんですか。
私の勢いに、イシドール様は眉をひそめていた。心底、わからないという顔。
「では、なぜ出て行かない?」
なぜ……なぜ!?
むしろ、どうしてわからないんですか!?
私は……
私は──っ
「シャ、シャロットが好きだから……っ」
私をじっと見つめるイシドール様。
待って、違う。
いえ、違わないけど。
私には、もう一人……いるじゃない。
勇気、出して。がんばれ、私……!
私は止まっていた息を吸い込むと。
えいやっと声に出す。
「それに……あなたのことも、大好きなんです……っ」
空気が止まった。
ああ、どうしよう。心臓が破裂しそう……。
手が震えて……。イシドール様の顔を見るのが、怖い。
訪れる、沈黙。
やだ……全部、わかってたはずなのに。
私は込み上げるものを制して、なんとか言葉を繋げる。
「私なんて、愛されないってわかってます。ラヴィーナさんみたいに美しいわけじゃないし……初夜の日に、“愛さない”とまで言われてるんですから……」
でも、夢を見ちゃってた。
シャロットにたくさんの愛情を向けられて……もしかしたら、イシドール様にも、なんて。
傲慢で、強欲な夢を。
でも、この気持ちは誰にでも止められない。だから──
私も止めませんっ!!
「でも、勝手に好きでいるだけなら、許されるでしょう!?」
顔を上げて、私は勝手な宣言をする。
イシドール様の表情は、目を見開いたまま固まってしまっていたけど、私は続けた。
「私、ずっと……愛のある家庭を築きたかったんです。嘘でもいい、私を愛してるふりでも構いません。あなたと、シャロットの家族になりたい。……シャロットを安心させてあげたい……!」
子どもを利用するような言い方。
私はなんて卑怯なんだろう。
それでも、この幸せを手放したくなくて。
私を──愛していなくてもいいから──愛している、ふりだけでも、いいから……っ
このまま、家族として、一緒にいたいの……。
「……俺はとっくに、レディアのことが好きだ」
しくしく泣いているのはもうやめだ。
っていうか、腹が立ってきた。
この怒り、どうしてくれよう?
夜の帳が下りてから、むくむくと湧いてきたこの気持ち。
冷める前に言ってやろうじゃないの。
イシドール様のお部屋の扉を、ゴンゴンと叩いた。
はしたない叩き方で、怒りを伝える。
「レディアです! 入りますっ!」
返事を待たずに、勢いよく扉を開け放つ。
そして、中でまだ書類仕事をしているイシドール様に浴びせかけた。
「どうしてあんなことを言ったんですかっ」
びっくりしてる。そりゃそうでしょうとも。
「あんなこと、とは」
私は声が漏れるといけないって気づいて、慌てて扉を閉めた。
それからようやく前を向いて、イシドール様に告げる。
「私がここにいることを望んじゃいけないって、シャロットに言ったじゃないですか!」
考えてもわからない。だから、聞くしかない!
イシドール様は座ったまま、怒涛の勢いの私を見上げた。
「……母親が二度もいなくなるような体験を、シャルにさせたくなかった」
なにそれ……なにそれっ!
「どうして私が、出ていくと思うんです!?」
「君の家の事情を知っていた。家族に愛されず、無理に俺と結婚させた……君もいずれ、ラヴィーナのように俺の前から消えるだろうと、そう思っている」
「消えません!!」
私の叫びが、静かな部屋に響いていく。
一瞬訪れた沈黙を、イシドール様が静かに破る。
「……君が誰かと駆け落ちしても、ちゃんと実家への支援は続けるつもりでいた」
「実家への支援など、今すぐ切っていただいて結構です!」
もう私は実家を出た身だもの。もうあの家がどうなったって構わない。
結婚の際にすでに多額の支援金をもらってるんだから、それで立て直せなきゃただの間抜けよ。
イシドール様の稼ぎを、無駄に使わせてたまるもんですか。
私の勢いに、イシドール様は眉をひそめていた。心底、わからないという顔。
「では、なぜ出て行かない?」
なぜ……なぜ!?
むしろ、どうしてわからないんですか!?
私は……
私は──っ
「シャ、シャロットが好きだから……っ」
私をじっと見つめるイシドール様。
待って、違う。
いえ、違わないけど。
私には、もう一人……いるじゃない。
勇気、出して。がんばれ、私……!
私は止まっていた息を吸い込むと。
えいやっと声に出す。
「それに……あなたのことも、大好きなんです……っ」
空気が止まった。
ああ、どうしよう。心臓が破裂しそう……。
手が震えて……。イシドール様の顔を見るのが、怖い。
訪れる、沈黙。
やだ……全部、わかってたはずなのに。
私は込み上げるものを制して、なんとか言葉を繋げる。
「私なんて、愛されないってわかってます。ラヴィーナさんみたいに美しいわけじゃないし……初夜の日に、“愛さない”とまで言われてるんですから……」
でも、夢を見ちゃってた。
シャロットにたくさんの愛情を向けられて……もしかしたら、イシドール様にも、なんて。
傲慢で、強欲な夢を。
でも、この気持ちは誰にでも止められない。だから──
私も止めませんっ!!
「でも、勝手に好きでいるだけなら、許されるでしょう!?」
顔を上げて、私は勝手な宣言をする。
イシドール様の表情は、目を見開いたまま固まってしまっていたけど、私は続けた。
「私、ずっと……愛のある家庭を築きたかったんです。嘘でもいい、私を愛してるふりでも構いません。あなたと、シャロットの家族になりたい。……シャロットを安心させてあげたい……!」
子どもを利用するような言い方。
私はなんて卑怯なんだろう。
それでも、この幸せを手放したくなくて。
私を──愛していなくてもいいから──愛している、ふりだけでも、いいから……っ
このまま、家族として、一緒にいたいの……。
「……俺はとっくに、レディアのことが好きだ」
322
あなたにおすすめの小説
【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
伯爵令嬢の恋
アズやっこ
恋愛
落ち目の伯爵家の令嬢、それが私。
お兄様が伯爵家を継ぎ、私をどこかへ嫁がせようとお父様は必死になってる。
こんな落ち目伯爵家の令嬢を欲しがる家がどこにあるのよ!
お父様が持ってくる縁談は問題ありの人ばかり…。だから今迄婚約者もいないのよ?分かってる?
私は私で探すから他っておいて!
過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。
しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。
突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。
『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。
表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。
【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる