再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜

長岡更紗

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57.楽しくリハビリ

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 裕介が放射線治療をして、病室から出られなくなった。
 清潔室には他に誰もいないし、俺はまだ清潔室から出られないし、はっきり言って暇だ。

「颯斗君、今大丈夫かな?」

 そんな声と共に塚狭先生が入ってきた。俺のリハビリの先生だ。

「うん、大丈夫。暇してたとこ」
「はは、まぁ暇だよね。じゃあリハビリで暇でも潰そうか」
「今日は何すんの?」

 リハビリを再開したばかりの頃は、あまりしっかりと動けないのもあって、歩く事がメインだった。
 でもはっきり言って、それじゃあ面白くないんだよなぁ……。
 リハビリに面白さを求めるのは間違ってるのかもしれないけど、どうしてもやる気が起こらない。そんな事を言っちゃダメなのは分かってるんだけど。
 今日もどうせ歩くのがメインだろうと、ゆっくりと塚狭先生の目を見た。

「じゃあ今日は、テニスでもしようか」
「え、テニス!?」

 予想外のそんな言葉に、俺は目を剥く。テニスって……あのラケット持ってやるやつだよな?

「テニスはやったことある?」
「や、ないけど……」
「よし、じゃあやろう。廊下に出てもらえる?」

 俺は促されるまま、点滴ポールを持って廊下へ出た。
 こんな廊下でテニス? ラケット振り回すと危ないんじゃ……

「よし、じゃあ行くよー! サーブ!!」

 そう言って塚狭先生は左手でボールを投げる真似をして、右手を大きく振り下ろしている。

「……へ?」
「おっと、颯斗選手、一歩も動けません! 塚狭選手のキラーサーブが決まったー! フィフティーンラブ!」

 って、エアーテニスかよ!?
 俺は慌ててラケットを構える格好をする。

「くそ、こいっ」
「僕のキラーサーブを取れるかな?!」

 塚狭先生がもう一度サーブのモーションを行う。俺は架空のテニスボールを目で追って、右腕を大きく振ると打ち返した。

「お、ナイスリターン! 僕もっ! バシッ」
「負けるかっ! スパーーンッ」

 効果音でさえも自分たちで言いながら打ち返す。次に塚狭先生は「ロブだ!」と言いながら仮想ラケットを振り上げた。
 俺は二、三歩後ろに下がり、軽くジャンプすると天井に手を向ける。

「よっしゃ、届いた! 塚狭先生のコートに返ったぞ!」
「でもこれはチャンスボールだ! 一気に叩き込む!!」

 ビシイッという先生の効果音と共に、架空のボールは俺の横をすり抜けて行った気がした。

「くっそー、やられたー!」
「よーし、サーティラブだ!」
「塚狭先生、大人気(おとなげ)ないぞ!」
「勝負の世界は厳しいんだよ」

 なんだこれ、いつものリハビリと比べてめっちゃ楽しいぞ。
 エアーと言えど、負けるのは嫌いだ! マジでやってやる。
 俺と塚狭先生は夢中になってエアーテニスを続けた。

「よし、一セット目はキープ!」
「ちっくしょ、次はブレイクしてやるっ」
「むしろ、次は僕がブレイクするよ? はい、そっちがサービス」

 ボールを投げられるフリをされ、俺もボールを受け取るフリをする。そして更にそのボールを、床につくフリをすると、今度は高く投げるモーションを見せた。

「くらえ、島田颯斗のジャンプサーブ!」
「速い! しかしかろうじて拾ったー!」
「こんな甘い球を見逃すわけがない! 颯斗、渾身のスマッシュ! 決まったー!!」
「何が決まったの?」

 いきなり後ろの清潔室の扉から看護師さんが現れて、俺の顔は一気に熱くなった。やばい、ちょっと恥ずかしい。

「えーと……今エアーテニスをやってて……」
「へぇ、いいね、面白そう! 頑張ってね!」

 看護師さんはそう言うと、消毒やゴム手袋やエプロン等をしてから裕介の部屋に入って行った。

「よし、続けよう。来いっ!」

 それを見届けた後、何の躊躇もなく塚狭先生が叫ぶ。
 俺は人に見られるとちょっと恥ずかしかったけど、それも一瞬だけで。
 塚狭先生とやるエアーテニスは、びっくりするほど面白くてやめられなかった。

「じゃあ、今度はアンダーサーブだっ」
「余裕! ほいっ」
「こっちもえいっ」
「おおっと、これは長いラリーの応酬になりそうです!」

 ただのエアーテニスでも、結構疲れてくるもんだなぁ。
 俺はもうへたばってきたけど、まだまだやめる気は起こらなかった。
 こういうリハビリって、すっごくいいな! やっぱり楽しく出来るのが一番だ。
 色々考えてくれた塚狭先生には、大感謝の一日だった。
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