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18.届かぬナースコール
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お腹は少し楽になったけど、それでも気分が悪いのは変わらない。
それからも俺は吐き気に襲われて耐える毎日だ。
「ハヤトくん、売店に行くけど何か欲しいものない?」
ノックして入って来たのは、祐介の母親の木下さんだった。木下さんはこうしてたまに買い物がないかを聞きに来てくれる、有り難い存在だ。
「木下さん、水、買って来て……三本くらい」
「他には?」
「いらない、食べたくない……」
「……分かった。じゃあすぐ買ってくるね」
俺がベッドから起き上がりもせずにそう言うも、木下さんはそれを咎める事もなく出て行く。
この気持ち悪いの、一体いつまで続くんだろう。頭はグルグル掻き混ぜられたように重いし、体は胸焼けを酷くしたような嘔吐感で溢れ返っている。
まさか、退院するまでの残り七ヶ月、ずっとこんな状態が続くとか言わないよな……。
それを考えるとゾッとした。闘病生活が辛いってこういう事かと実感する。
「……くそ、またトイレ行きたくなってきた……」
もうずっとベッドから動きたくないのに、トイレにだけは起きなくちゃいけない。
健康な時には起きるという行為が苦痛だなんて感じた事なかったけど、大袈裟じゃなく本当に起きられなくなる。ベッドの柵を持って、どうにかこうにか体を引き寄せて起こした。ずっと寝っぱなしのせいか、しばらく目の前が真っ白になるような、そんな感覚。
靴をどうにか履いて、立ち上がろうとしたその時だった。足に力が入らない。
「うわっ!!」
俺はベッドから前のめりに倒れ込んだ。とっさの判断で手は頭を守っている。肘を強かに打ち付けて悶絶ものだったけど、体が思ったように動いてくれなかった事の方が衝撃過ぎて愕然とした。
「痛ってぇ……」
俺はもがくようにして仰向けになった。けど、出来たのはそれだけだ。ベッドのように柵がない所では、そこからどうしようもない。手足をもがれた虫のように、ただひっくり返っているだけだ。
「だ、誰か……っ」
こんな状況を同級生が見たら、あり得ないと笑われるかもしれない。もしくは何で立とうとしないんだと首を傾げられるに違いない。
でも真剣なんだ。真剣に立とうとしても、どうにも体が動かない。どうなってんだ、俺の体……っ!?
「誰かぁ……っ」
でかいはずの俺の声は、いつの間にか枯れた爺さんの様な音量しか出なかった。ナースコールはベッドの上と、トイレの中。どちらにも手が届かない場所に転んでしまった。最悪だ。
病室の白い天井を見上げる事しか出来ずに、涙が出て来た。
俺、何やってんだろう……?
自分の体一つ満足に動かす事が出来なくて、辛くて情けなくて、格好悪くて。
一人で出来るはずの事が出来なくなるって、本当に身震いするほど怖い事なんだって知った。
悔しいけど負けたくない。でもどうすればいいか分からずに、俺はひたすら助けを待った。
「ハヤトくん、遅くなってごめん! 水買って来たよ!」
ノックとほぼ同時にそんな声が飛び込んで来てほっとする。木下さんだ。
「きの、した、さん……」
「ハヤトくん、どこ? トイレ?」
カーテンを開けた木下さんは、ベッドの上に誰も居ないのを確認して訝しんでいるようだ。
「ここ……下……っ」
「え!? えええ??!! ど、どうしたの!!」
木下さんが驚きの声を上げて駆け寄って来てくれた。良かった、これで助かる。
「ベッドから出ようとしたら、立てなくて落ちて……」
「ちょっと待って、ナースコールするから!!」
木下さんは慌ててずっこけそうになりながら、ベッドの上のナースコールに辿り着いて押してくれる。
『どうされましたか?』
「落ちて!! 早く!! ベッドから!! ハヤトくんっ!!」
『すぐ伺います』
木下さんの慌てすぎトークは何を言っているのか分からなかったと思うんだけど、さすが看護師の対応は早かった。本当にすぐに駆けつけてくれる。
園田さんと、もう一人は徳澤さんっていう女の看護師だ。
「ハヤトくん、大丈夫? 頭打ってない?」
俺の状況を見ても園田さんたちは慌てず騒がず、いたって冷静なのが逆に安心する。
「うん、大丈夫……頭は守った」
「偉い! じゃあどこか痛いところは?」
「肘打って痛かったけど、今はそんなでもない」
「そう、良かった。じゃあ起こすからね」
俺は園田さんと徳澤さんに支えられてベッドの上に腰を下ろす事が出来た。けど、俺が行きたい場所はここじゃない。
「ごめん、トイレ……も、漏れそう……っ」
「え!? じゃあもう一回掴まって!」
園田さんに手を借りて、ようやくトイレに座る事が出来た。危ない危ない、この年でお漏らしとか、本当にあり得ないからな。
用を足した後、また手を借りてベッドに戻るとようやく落ち着いた。
「足、どうしたの? 上手く歩けない?」
「うん、なんか変な感じで……特に、右足……」
「分かった、先生に伝えとくね。あんまり心配しないで、抗がん剤の副作用だと思うから。これからはベッドを降りる前にナースコールして呼んでね」
「ええ? と、トイレ行くたびに呼ばなきゃいけないのか?!」
「遠慮せずに呼んでね? また倒れちゃったら今度は怪我しちゃうかもしれないんだから」
「よ、夜中も?」
「夜中でも!」
うー、ヤダなぁ。トイレのたびに呼ばなきゃ行けないとか……なんか俺、一気に爺さんになって介護される気分だ。
「あの、さ……松葉杖とか……ないの?」
「松葉杖? なくはないけど、点滴もあるし危険だから」
あっさり却下されてしまった。がっくり肩を落とす俺を見て、園田さんは息を漏らす。
「じゃあちょっと、相談して良いかどうか聞いてみるね。それまでは看護師を呼ぶ事。分かった?」
「う、うん、ありがとう園田さん!」
園田さんと徳澤さんは点滴や俺の怪我がないかを確認してから出て行った。ほっと一息ついたところで、もう一人居る事に気付く。
「うわ、木下さん、まだいたの!?」
「居るよ、もうっ! お水、ここに置いとくからね」
「あ、うん、ありがとう。お金、いつもんとこに置いてるから持ってって」
そう言うと慣れた手付きで木下さんは鍵の在り処に手を伸ばし、貴重品入れの中から俺の財布を取り出して必要な分のお金を取って行った。この辺はもう木下さんを全面信頼している。
「ハヤトくん、痩せちゃったね……大丈夫?」
「……うん、多分」
今の俺は、点滴だけで生きてるようなもんだ。全く食べられないし、体重はどんどん落ちてっている。立てなかったのは、多分その影響もあると思う。
「ごめん、木下さん。ちょっとそこのスマホ取って」
「はい、どうぞ。でもあんまり見てたら気分悪くならない?」
「なる事もあるよ。でも最近マツバのブログに書き込みしてなかったから、一言だけでも入れておこうと思って」
「マツバ?」
首を捻らせる木下さんに、俺はマツバのブログを開いて見せてあげる。
「これ。俺と同じ急性骨髄性白血病患者の闘病記。今度、骨髄移植するんだって」
「へぇ、ブログかぁ。私も見てみようかな」
「うん、面白い奴だから暗くなんてならないし見てみてよ。あ、そういや祐介は骨髄移植どうすんの?」
「うちは同じ型の人が少ないらしくて、フルマッチする人が骨髄バンクの登録者にいなかったんだ」
「え!? じゃあどうなんの!?」
俺が心臓をバクバクさせて聞くと、木下さんは少し困ったように笑っている。
「臍帯血移植にするって先生が。それだとフルマッチじゃなくても、二抗原くらい外れてても出来るんだって」
「二つもマッチしてないって……それって大丈夫なのか?」
確かHLAの六抗原フルマッチじゃないと、移植をやっても体に根付かなくなる着床不全っていうのや、移植片対宿主病っていうのとかになるんじゃなかったっけ。いや、その辺はまた先生が詳しく説明してくれるとかで、俺の知識はマツバからの受け売りでしかないんだけど。
確かGVHDっていうのは、提供者の白血球が患者の体を攻撃してしまう事、だったよな、超簡単に言うと。それが抗原外れれば外れるほど、可能性が高くなるんだったと思う。
それが二抗原外れての臍帯血移植。木下さんが不安にならないはずがない。
「先生が言うには、臍帯血移植は少しくらい外れてても大丈夫なんだって。むしろ一致するものがあってもわざと外す事があるって言ってた。その方が臍帯血移植の場合は効き目があるって」
「へぇ……移植って言っても色々なんだな」
「臍帯血移植は生着が遅れたり、生着後もウイルスの感染に弱いっていうデメリットはあるみたいだけど、ドナーを探す手間がないっていうのはメリットかな」
「そっか」
「颯斗くんは提供者を探してるんだっけ?」
「うん、一応一致する人は何人かいるみたい」
まぁ引き受けてくれるかは別の話なんだけど。
いつになったら決まるのかな。そっちもやっぱりずっと気になってる。
臍帯血移植があるとはいえ、大人への移植には臍帯血よりも骨髄移植の方が合うみたいだ。祐介のような四歳くらいの体なら使う臍帯血も何人分かで済むんだろうけど、俺くらいにデカくなるとそうもいかないだろうしな。
「大丈夫、きっと見つかるよ。骨髄バンクに登録してるって事は、提供する意思があるって事なんだから」
「うん……そうだよな」
「心配しない! じゃ、私戻るけど、また欲しいものがあったら……うーん、良かったら携帯番号教えてくれる?」
「え?」
「ハヤトくん今動けないし、欲しいものをこっちまで言いに来られないでしょ? 何かあったら電話でもメールでも何でもして」
「いいの? ありがとう!」
「すぐに買いに行くのは無理な時もあるから、それは許してね」
「うん、分かってる」
俺がそう言うと、木下さんはにっこり笑って携帯電話の番号を教えてくれた。まぁ祐介の病室、俺の隣なんだけどね。
木下さんが隣に帰った後で、俺はマツバのブログを見てみる。少しするとマツバのブログにコメントが寄せられていた。
『初めまして。移植なんですね、頑張ってください。応援しています。キノシタ』
うわ、これ絶対木下さんだ。どうやら早速見てくれたらしい。
でもこうやって皆で応援し合うのっていいな。マツバも祐介もリナも守も、皆で一緒に元気になろうぜって気持ちになれるし、皆も俺を応援してくれているのが分かって嬉しい。
今の俺の体調は絶不調だけど、皆の気持ちが伝わってきて少しだけ気持ちが明るくなれるんだ。
『いよいよ移植だな! 頑張れよ、マツバ!!』
俺がそうコメントに打ち込むと、すぐに『任せろ!!』と大きな文字が返ってくる。
色々と不安の多い移植だけど、マツバなら乗り越えられるに違いない。任せろという力強い言葉遣いが、俺に元気を与えてくれている気がした。
それからも俺は吐き気に襲われて耐える毎日だ。
「ハヤトくん、売店に行くけど何か欲しいものない?」
ノックして入って来たのは、祐介の母親の木下さんだった。木下さんはこうしてたまに買い物がないかを聞きに来てくれる、有り難い存在だ。
「木下さん、水、買って来て……三本くらい」
「他には?」
「いらない、食べたくない……」
「……分かった。じゃあすぐ買ってくるね」
俺がベッドから起き上がりもせずにそう言うも、木下さんはそれを咎める事もなく出て行く。
この気持ち悪いの、一体いつまで続くんだろう。頭はグルグル掻き混ぜられたように重いし、体は胸焼けを酷くしたような嘔吐感で溢れ返っている。
まさか、退院するまでの残り七ヶ月、ずっとこんな状態が続くとか言わないよな……。
それを考えるとゾッとした。闘病生活が辛いってこういう事かと実感する。
「……くそ、またトイレ行きたくなってきた……」
もうずっとベッドから動きたくないのに、トイレにだけは起きなくちゃいけない。
健康な時には起きるという行為が苦痛だなんて感じた事なかったけど、大袈裟じゃなく本当に起きられなくなる。ベッドの柵を持って、どうにかこうにか体を引き寄せて起こした。ずっと寝っぱなしのせいか、しばらく目の前が真っ白になるような、そんな感覚。
靴をどうにか履いて、立ち上がろうとしたその時だった。足に力が入らない。
「うわっ!!」
俺はベッドから前のめりに倒れ込んだ。とっさの判断で手は頭を守っている。肘を強かに打ち付けて悶絶ものだったけど、体が思ったように動いてくれなかった事の方が衝撃過ぎて愕然とした。
「痛ってぇ……」
俺はもがくようにして仰向けになった。けど、出来たのはそれだけだ。ベッドのように柵がない所では、そこからどうしようもない。手足をもがれた虫のように、ただひっくり返っているだけだ。
「だ、誰か……っ」
こんな状況を同級生が見たら、あり得ないと笑われるかもしれない。もしくは何で立とうとしないんだと首を傾げられるに違いない。
でも真剣なんだ。真剣に立とうとしても、どうにも体が動かない。どうなってんだ、俺の体……っ!?
「誰かぁ……っ」
でかいはずの俺の声は、いつの間にか枯れた爺さんの様な音量しか出なかった。ナースコールはベッドの上と、トイレの中。どちらにも手が届かない場所に転んでしまった。最悪だ。
病室の白い天井を見上げる事しか出来ずに、涙が出て来た。
俺、何やってんだろう……?
自分の体一つ満足に動かす事が出来なくて、辛くて情けなくて、格好悪くて。
一人で出来るはずの事が出来なくなるって、本当に身震いするほど怖い事なんだって知った。
悔しいけど負けたくない。でもどうすればいいか分からずに、俺はひたすら助けを待った。
「ハヤトくん、遅くなってごめん! 水買って来たよ!」
ノックとほぼ同時にそんな声が飛び込んで来てほっとする。木下さんだ。
「きの、した、さん……」
「ハヤトくん、どこ? トイレ?」
カーテンを開けた木下さんは、ベッドの上に誰も居ないのを確認して訝しんでいるようだ。
「ここ……下……っ」
「え!? えええ??!! ど、どうしたの!!」
木下さんが驚きの声を上げて駆け寄って来てくれた。良かった、これで助かる。
「ベッドから出ようとしたら、立てなくて落ちて……」
「ちょっと待って、ナースコールするから!!」
木下さんは慌ててずっこけそうになりながら、ベッドの上のナースコールに辿り着いて押してくれる。
『どうされましたか?』
「落ちて!! 早く!! ベッドから!! ハヤトくんっ!!」
『すぐ伺います』
木下さんの慌てすぎトークは何を言っているのか分からなかったと思うんだけど、さすが看護師の対応は早かった。本当にすぐに駆けつけてくれる。
園田さんと、もう一人は徳澤さんっていう女の看護師だ。
「ハヤトくん、大丈夫? 頭打ってない?」
俺の状況を見ても園田さんたちは慌てず騒がず、いたって冷静なのが逆に安心する。
「うん、大丈夫……頭は守った」
「偉い! じゃあどこか痛いところは?」
「肘打って痛かったけど、今はそんなでもない」
「そう、良かった。じゃあ起こすからね」
俺は園田さんと徳澤さんに支えられてベッドの上に腰を下ろす事が出来た。けど、俺が行きたい場所はここじゃない。
「ごめん、トイレ……も、漏れそう……っ」
「え!? じゃあもう一回掴まって!」
園田さんに手を借りて、ようやくトイレに座る事が出来た。危ない危ない、この年でお漏らしとか、本当にあり得ないからな。
用を足した後、また手を借りてベッドに戻るとようやく落ち着いた。
「足、どうしたの? 上手く歩けない?」
「うん、なんか変な感じで……特に、右足……」
「分かった、先生に伝えとくね。あんまり心配しないで、抗がん剤の副作用だと思うから。これからはベッドを降りる前にナースコールして呼んでね」
「ええ? と、トイレ行くたびに呼ばなきゃいけないのか?!」
「遠慮せずに呼んでね? また倒れちゃったら今度は怪我しちゃうかもしれないんだから」
「よ、夜中も?」
「夜中でも!」
うー、ヤダなぁ。トイレのたびに呼ばなきゃ行けないとか……なんか俺、一気に爺さんになって介護される気分だ。
「あの、さ……松葉杖とか……ないの?」
「松葉杖? なくはないけど、点滴もあるし危険だから」
あっさり却下されてしまった。がっくり肩を落とす俺を見て、園田さんは息を漏らす。
「じゃあちょっと、相談して良いかどうか聞いてみるね。それまでは看護師を呼ぶ事。分かった?」
「う、うん、ありがとう園田さん!」
園田さんと徳澤さんは点滴や俺の怪我がないかを確認してから出て行った。ほっと一息ついたところで、もう一人居る事に気付く。
「うわ、木下さん、まだいたの!?」
「居るよ、もうっ! お水、ここに置いとくからね」
「あ、うん、ありがとう。お金、いつもんとこに置いてるから持ってって」
そう言うと慣れた手付きで木下さんは鍵の在り処に手を伸ばし、貴重品入れの中から俺の財布を取り出して必要な分のお金を取って行った。この辺はもう木下さんを全面信頼している。
「ハヤトくん、痩せちゃったね……大丈夫?」
「……うん、多分」
今の俺は、点滴だけで生きてるようなもんだ。全く食べられないし、体重はどんどん落ちてっている。立てなかったのは、多分その影響もあると思う。
「ごめん、木下さん。ちょっとそこのスマホ取って」
「はい、どうぞ。でもあんまり見てたら気分悪くならない?」
「なる事もあるよ。でも最近マツバのブログに書き込みしてなかったから、一言だけでも入れておこうと思って」
「マツバ?」
首を捻らせる木下さんに、俺はマツバのブログを開いて見せてあげる。
「これ。俺と同じ急性骨髄性白血病患者の闘病記。今度、骨髄移植するんだって」
「へぇ、ブログかぁ。私も見てみようかな」
「うん、面白い奴だから暗くなんてならないし見てみてよ。あ、そういや祐介は骨髄移植どうすんの?」
「うちは同じ型の人が少ないらしくて、フルマッチする人が骨髄バンクの登録者にいなかったんだ」
「え!? じゃあどうなんの!?」
俺が心臓をバクバクさせて聞くと、木下さんは少し困ったように笑っている。
「臍帯血移植にするって先生が。それだとフルマッチじゃなくても、二抗原くらい外れてても出来るんだって」
「二つもマッチしてないって……それって大丈夫なのか?」
確かHLAの六抗原フルマッチじゃないと、移植をやっても体に根付かなくなる着床不全っていうのや、移植片対宿主病っていうのとかになるんじゃなかったっけ。いや、その辺はまた先生が詳しく説明してくれるとかで、俺の知識はマツバからの受け売りでしかないんだけど。
確かGVHDっていうのは、提供者の白血球が患者の体を攻撃してしまう事、だったよな、超簡単に言うと。それが抗原外れれば外れるほど、可能性が高くなるんだったと思う。
それが二抗原外れての臍帯血移植。木下さんが不安にならないはずがない。
「先生が言うには、臍帯血移植は少しくらい外れてても大丈夫なんだって。むしろ一致するものがあってもわざと外す事があるって言ってた。その方が臍帯血移植の場合は効き目があるって」
「へぇ……移植って言っても色々なんだな」
「臍帯血移植は生着が遅れたり、生着後もウイルスの感染に弱いっていうデメリットはあるみたいだけど、ドナーを探す手間がないっていうのはメリットかな」
「そっか」
「颯斗くんは提供者を探してるんだっけ?」
「うん、一応一致する人は何人かいるみたい」
まぁ引き受けてくれるかは別の話なんだけど。
いつになったら決まるのかな。そっちもやっぱりずっと気になってる。
臍帯血移植があるとはいえ、大人への移植には臍帯血よりも骨髄移植の方が合うみたいだ。祐介のような四歳くらいの体なら使う臍帯血も何人分かで済むんだろうけど、俺くらいにデカくなるとそうもいかないだろうしな。
「大丈夫、きっと見つかるよ。骨髄バンクに登録してるって事は、提供する意思があるって事なんだから」
「うん……そうだよな」
「心配しない! じゃ、私戻るけど、また欲しいものがあったら……うーん、良かったら携帯番号教えてくれる?」
「え?」
「ハヤトくん今動けないし、欲しいものをこっちまで言いに来られないでしょ? 何かあったら電話でもメールでも何でもして」
「いいの? ありがとう!」
「すぐに買いに行くのは無理な時もあるから、それは許してね」
「うん、分かってる」
俺がそう言うと、木下さんはにっこり笑って携帯電話の番号を教えてくれた。まぁ祐介の病室、俺の隣なんだけどね。
木下さんが隣に帰った後で、俺はマツバのブログを見てみる。少しするとマツバのブログにコメントが寄せられていた。
『初めまして。移植なんですね、頑張ってください。応援しています。キノシタ』
うわ、これ絶対木下さんだ。どうやら早速見てくれたらしい。
でもこうやって皆で応援し合うのっていいな。マツバも祐介もリナも守も、皆で一緒に元気になろうぜって気持ちになれるし、皆も俺を応援してくれているのが分かって嬉しい。
今の俺の体調は絶不調だけど、皆の気持ちが伝わってきて少しだけ気持ちが明るくなれるんだ。
『いよいよ移植だな! 頑張れよ、マツバ!!』
俺がそうコメントに打ち込むと、すぐに『任せろ!!』と大きな文字が返ってくる。
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