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33.移植の説明②
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「颯斗くんに骨髄をくれるドナーさんの血液型は、O型です」
「……O型?」
小林先生にそう告げられた父さんと母さんは、声を揃えて首を捻らせている。俺の血液型はAだから、当然の反応とも言えるけど。
「はい。HLAの型が合っていれば、血液型は違っていても移植は出来ます。ただし、颯斗くんの血液型もAからOに変わってしまいますが」
父さんと母さんの顔つきが明らかに変わった。血液型が変わるのって、そんなにショックな事かな。父さんはAB型で、母さんはO型だ。母さんと同じ血液型になるんだから、別に問題ないと思うんだけど。
「血液型が変わったら性格も変わるのかと聞かれる方もいますが、医学的な根拠は全くありませんので」
先生はそう続けたけど、父さん達はそこには興味ないようだった。血液型占いとか女子はよくやってるみたいけど、俺もあんまり興味はないな。
「そして骨髄移植をすると、血の遺伝子情報は全て提供者のものとなります。移植後に作られる血は全て、ドナーさんと同じになるんです」
この辺、俺は拓真兄ちゃんに聞いて知ってたけど、母さん達は知らなかったらしい。『血を分けた息子』じゃなくなるって思ったのかな……。表情が、険しかった。
「それは、その……血でDNA検査をしたりしたら……」
「当然ドナーさんのDNAが検出されます」
小林先生は誰もが知っている事のようにそう言った。
母さんが動揺しているように見えるのは、俺だけかな……。父さんも難しい顔をしてるけど。
先生はそういう家族の顔を見慣れているのか、坦々と次の説明に移る。
「移植の前の処置……放射線治療の辺りから、準無菌室での生活になります。たとえご家族であっても面会に制限をかける事になりますので、その辺はご了承ください」
「会えない期間はどのくらい……」
「その時の状態にもよりますが、一ヶ月超といった所でしょうか。扉越しでの会話は問題ありませんよ」
母さんは質問するたびに落ち込んでる。いっそのこと質問しなきゃいいのに……と思うけど、そういうわけにもいかないんだろう。
「次に、GVHD……移植片対宿主病の事について話さなければいけません」
GVHD……今マツバが苦しんでいるやつだ。俺は思わずゴクリと唾を飲み込む。
「移植後は、ドナーさんの骨髄が颯斗くんの中に根付く『生着』というのをまず目指します」
「あの、その生着が出来なければ……?」
「生着不全ですね。もう一度移植のやり直しです」
うわー、小林先生、簡単に言ったー! そして母さんまた落ち込んでるしっ! まだ生着不全どころか移植もしてないってのにっ
「母さん、もう質問すんなよ。先生の話をまず聞いてくれっ」
「いえいえ、質問があればその都度してくださいね。後でだと忘れてしまうかもしれませんから」
……そうかもしれないけど。
俺のモヤモヤとした気持ちなんかお構いなしに、小林先生は説明を続ける。
「その生着前後でGVHDと呼ばれる症状が出てくる事があります。肺だったり、腸だったり、皮膚なんかに出やすいです」
成程、マツバは腸に出ちゃったんだな。だからずっと下痢が続いてんのか……。
「何故GVHDが出るのかと言いますと……」
「移植したドナーの骨髄が俺の体を敵だと思って攻撃しちゃうからだろ?」
「さすが、よく調べてますねー」
ニヤニヤと笑うその姿がちょっと小馬鹿にされてるようにも見えるけど、まぁ許してやる。
「颯斗くんはもう分かっているでしょうけど、もう少しだけ詳しく説明させてください。ドナーの骨髄がレシピエントに『生着』後、増殖したドナーのリンパ球がレシピエントの臓器等を異物だと思い、細胞組織を破壊する事……それがGVHDです」
小林先生の説明で、母さんの顔が曇る。
「細胞組織を破壊って……大丈夫なんですか?」
「正直言って、一番怖いのはこのGVHDです。でも、GVHDが全く出ない方がいい、という訳でもないんですよ」
「ん? どういう事だ?」
先生は説明用に持ってきたであろう冊子を開いて見せてくれた。
「GVHDが発症するというのは、ドナーのリンパ球がレシピエントを攻撃しているからというのは分かりましたね? つまりそれは、レシピエントの白血病細胞に対してもちゃんと攻撃しているという意味なんです。GVHDが全く出ないよりは少しは出た方が、再発率が少ないと言われています。これがここに書かれているGVL効果です」
GVL効果……初めて知った。マツバは知ってるのかな、GVHDは怖いばかりじゃないって。マツバはあんなに苦しんでるんだから、治った時には絶対に再発なんて起きないはずだ。後でマツバに教えてやろう!
その後は先生がいくつか補足説明して、母さんが質問するってやりとりが続いた。父さんはずっと黙ってたな。ほとんどの事は母さんが質問してたから当然だろうけど。
こうして長い移植に関しての説明は終わった。
「……O型?」
小林先生にそう告げられた父さんと母さんは、声を揃えて首を捻らせている。俺の血液型はAだから、当然の反応とも言えるけど。
「はい。HLAの型が合っていれば、血液型は違っていても移植は出来ます。ただし、颯斗くんの血液型もAからOに変わってしまいますが」
父さんと母さんの顔つきが明らかに変わった。血液型が変わるのって、そんなにショックな事かな。父さんはAB型で、母さんはO型だ。母さんと同じ血液型になるんだから、別に問題ないと思うんだけど。
「血液型が変わったら性格も変わるのかと聞かれる方もいますが、医学的な根拠は全くありませんので」
先生はそう続けたけど、父さん達はそこには興味ないようだった。血液型占いとか女子はよくやってるみたいけど、俺もあんまり興味はないな。
「そして骨髄移植をすると、血の遺伝子情報は全て提供者のものとなります。移植後に作られる血は全て、ドナーさんと同じになるんです」
この辺、俺は拓真兄ちゃんに聞いて知ってたけど、母さん達は知らなかったらしい。『血を分けた息子』じゃなくなるって思ったのかな……。表情が、険しかった。
「それは、その……血でDNA検査をしたりしたら……」
「当然ドナーさんのDNAが検出されます」
小林先生は誰もが知っている事のようにそう言った。
母さんが動揺しているように見えるのは、俺だけかな……。父さんも難しい顔をしてるけど。
先生はそういう家族の顔を見慣れているのか、坦々と次の説明に移る。
「移植の前の処置……放射線治療の辺りから、準無菌室での生活になります。たとえご家族であっても面会に制限をかける事になりますので、その辺はご了承ください」
「会えない期間はどのくらい……」
「その時の状態にもよりますが、一ヶ月超といった所でしょうか。扉越しでの会話は問題ありませんよ」
母さんは質問するたびに落ち込んでる。いっそのこと質問しなきゃいいのに……と思うけど、そういうわけにもいかないんだろう。
「次に、GVHD……移植片対宿主病の事について話さなければいけません」
GVHD……今マツバが苦しんでいるやつだ。俺は思わずゴクリと唾を飲み込む。
「移植後は、ドナーさんの骨髄が颯斗くんの中に根付く『生着』というのをまず目指します」
「あの、その生着が出来なければ……?」
「生着不全ですね。もう一度移植のやり直しです」
うわー、小林先生、簡単に言ったー! そして母さんまた落ち込んでるしっ! まだ生着不全どころか移植もしてないってのにっ
「母さん、もう質問すんなよ。先生の話をまず聞いてくれっ」
「いえいえ、質問があればその都度してくださいね。後でだと忘れてしまうかもしれませんから」
……そうかもしれないけど。
俺のモヤモヤとした気持ちなんかお構いなしに、小林先生は説明を続ける。
「その生着前後でGVHDと呼ばれる症状が出てくる事があります。肺だったり、腸だったり、皮膚なんかに出やすいです」
成程、マツバは腸に出ちゃったんだな。だからずっと下痢が続いてんのか……。
「何故GVHDが出るのかと言いますと……」
「移植したドナーの骨髄が俺の体を敵だと思って攻撃しちゃうからだろ?」
「さすが、よく調べてますねー」
ニヤニヤと笑うその姿がちょっと小馬鹿にされてるようにも見えるけど、まぁ許してやる。
「颯斗くんはもう分かっているでしょうけど、もう少しだけ詳しく説明させてください。ドナーの骨髄がレシピエントに『生着』後、増殖したドナーのリンパ球がレシピエントの臓器等を異物だと思い、細胞組織を破壊する事……それがGVHDです」
小林先生の説明で、母さんの顔が曇る。
「細胞組織を破壊って……大丈夫なんですか?」
「正直言って、一番怖いのはこのGVHDです。でも、GVHDが全く出ない方がいい、という訳でもないんですよ」
「ん? どういう事だ?」
先生は説明用に持ってきたであろう冊子を開いて見せてくれた。
「GVHDが発症するというのは、ドナーのリンパ球がレシピエントを攻撃しているからというのは分かりましたね? つまりそれは、レシピエントの白血病細胞に対してもちゃんと攻撃しているという意味なんです。GVHDが全く出ないよりは少しは出た方が、再発率が少ないと言われています。これがここに書かれているGVL効果です」
GVL効果……初めて知った。マツバは知ってるのかな、GVHDは怖いばかりじゃないって。マツバはあんなに苦しんでるんだから、治った時には絶対に再発なんて起きないはずだ。後でマツバに教えてやろう!
その後は先生がいくつか補足説明して、母さんが質問するってやりとりが続いた。父さんはずっと黙ってたな。ほとんどの事は母さんが質問してたから当然だろうけど。
こうして長い移植に関しての説明は終わった。
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