普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎

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世の中に絶望してた孤児の僕が王に拾われて溺愛される話

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この国は、金と権力、そして顔が重視される。



僕は父親がいない。
小さい頃に戦争で亡くした。
母親もいない。
自分に似ているからという理由で僕は捨てられた。
母は、父が大好きだった。
幸い、捨てられたのは夏だったし、自力で一歩も動けないような赤子じゃなかった。
捨てられた僕は、王宮の近くの広場に続く裏路地で生きていた。


毎日が地獄だった。



食べ物なんて、3日に1回食べられれば満足だった。
誰かが捨てた新聞を身体に巻いて寝た。
母親に似てあまりいい見た目とは言えない上、この生活で全身が汚らしいため、通りすがりの奴に暴行を受けることもしょっちゅうだった。
そんなごみみたいな生活をしていたある日。
彼と出会った。




「シュウ、何を考えている?」

「……むかしの、こと。」


そうだ、昔のことだ。
ある日、食料を求めて広場に出たとき、今僕を後ろから抱きしめている彼に出会った。
彼はこの国の王だった。
ちょうど隣国での何日間かの会合から帰ってきたところだったらしい。(広場に集まってる奴らがそう言っていた。)
広場では王の帰還に合わせてパレードが行われていたため、人混みに紛れて落ちている食べ物を拾ったり、出店のゴミを漁ったりしていた。


正直、この目で見るまでは王という存在が本当にいるとは思っていなかった。
だって、王は何もしてくれない。
確かに金や権力があって、顔もいい奴らにとっては最高の国だ。
だから王が数日ぶりに帰ってきただけでも、王によっていい生活ができている奴らは大盛り上がり。
でも僕は違う。
僕の生活も、見た目も、王にはどうすることもできないんだ。
だったら僕にとってはいないも同然だろう?


だからなんとなく、そう、なんとなく。
本当に王が実在するなら死ぬ前に見てみるか、なんて気持ちで人混みの隙間からひょいと顔を覗かせた瞬間。
真正面に彼はいて。
少し距離はあったけど、この世のものとは思えないその端正な顔立ちははっきりわかって。


彼と視線が交わった瞬間、彼の目が大きく開く。
こちらに向かってきた彼に腕を引かれ、気がつくと王宮の中にいた。
今までの人生で見たこともないくらい煌びやかで広い部屋をいくつも通り過ぎる。
その度に色んな奴とすれ違い、その誰もが美しく輝くような人間で、僕のことをもれなく怪訝な顔をして振り返っていく。
状況を理解するにつれ、自分みたいな異物があるのが恥ずかしくてたまらなくて。
逃げ出したくて腕を振り解こうにも、王の力が強すぎてされるがまま浴場まで引きずられるようにして連れて行かれた。
すぐに身体を洗われ、綺麗な服を着せられ、伸び切った爪やら髪やらを切られる。


『今日からお前は私のために生きるんだ。いいね?』


有無を言わせないその口調と、強い瞳に、頷くことしかできなかった。
目尻に少し皺が見える。
何が起こっているのかさっぱりわからないし、なんのためにここに連れてこられたのかもさっぱりわからない。
ただ、その皺を見た途端、この人も人間なんだと思って、なぜだか少し親近感を覚えて安心した。



「お腹は空いていないか?」

「……少し。」

「待っていなさい。すぐ持って来させるから。」


そう言って僕の頬をひと撫でして、使用人に食事を持ってくるように言いに行った。
それが僕と王の出会い。


***

ここの生活は快適だ。
自分で探さなくても食事が出る。
身体の芯から凍えて死んだ方がマシなんじゃないかと思えるほどの寒さもないし、足の裏の火傷を覚悟で走り回って食糧を探した日々の暑さなどここでは無縁だ。
毎日身体は綺麗だし、どこも痛くない上に柔らかいベッドの上で眠れる。



ただ、人には恵まれない。この国は金と権力と顔が重視されるのだ。それは外でも王宮でも変わらない。
王の命令で僕のお世話をしてくれている使用人たち。
小さい頃に捨てられたから自分の年齢がわからないとはいえ、陰で何を言われているかわからないほど僕だってもう子供じゃない。
まあ、口で言われるくらいどうってことない。
本来僕のような人間がここにいるのがおかしいってことくらい、自分でもわかっている。
殴られたり蹴られたりしないだけマシだ。


だが、その中でも王は別だった。
彼は僕に対して過保護すぎるほど優しい。
使用人でさえ滅多に入らせない自室に僕を住まわせ、仕事の時間以外は全て僕と過ごす時間に充てた。
嘘や裏切りばかりの僕の人生において、彼だけは常に誠実だった。


問題は、彼の息子だった。



「シュウ!父さんはどこだ!?」

「……こんにちは、王子。」

「俺は父さんの居場所を聞いてんだ!そんなこともわからないようじゃだめじゃないか!」

「……すみません。」



大きな声でわめき散らす。これが彼の息子だ。
ノックもせず王の自室に勝手に入り、似たような問答をするのは何回目だろうか。
ちなみに、挨拶もせずに聞かれたまま答えると、挨拶をしろとわめかれる。


王子は王の唯一の後継者だ。
3歳の頃から帝王学を学んでおり、能力は悪くない。
だが、母を早くに亡くし、王である多忙な父に構われなかった境遇が、彼の性格を歪ませた。
息子の自分でさえ滅多に会えない王に、ある日突然気に入られて王宮にやってきた僕が気に入らないのは当然だろう。
ことあるごとに僕に話しかけては、理不尽な言葉を並べていく毎日だ。



だが、それも終わる。
もうすぐで、全てが終わるんだ。
さようなら、愛しい人。

拾われて約5年と2ヶ月と10日。
いつの間にか王を、狂おしいほど愛しく思っていた。
温かな眼差し、凛としたバリトンの声、優しくて大きな手。
勿論顔立ちは飛び抜けて良く、この王宮にいる奴らはたいてい整った顔をしているが、王に勝る者はいなかった。
だが、そんなことは僕にとってどうでも良かった。
地位も人望も、望まなくとも手に入る人。
それなのに、僕なんかを気まぐれとはいえ拾ってくれて、“人間の生活“をさせてくれた人。
朝から晩まで仕事で向き合って、実は貧民街や国の在り方に誰よりも真摯に向き合って。
何百年も昔から金と権力と顔が重視の国。今は反対派が多くて叶わないけど、いつか国民全員が平等に暮らせるように。
プロバガンダや国政で国民の意思を変えるために、何度も外交を重ねて近隣諸国の国政を勉強をしに行っていた人。
そんな王が、誇りであり大好きだった。



だからこそ、僕には王の傍にいる資格なんてないのだ。
母は父を愛していた。
それは父の顔がいいからだ。
僕の記憶の中の母はいつも怒ったり泣いたりしていたが、決まって「なんであんたはそんな顔なの?」と罵られていた。
これで少しでも父に似た顔だったら、今も母は隣にいたのかもしれない。
平凡で、金も権力もない。
話も下手だし、愛想笑いのひとつもできない。
こんな僕を、王は大事に育ててくれた。
それが、拾われてから今までずっと不思議だった。
嬉しかった。
好きな人と一緒にいられて。
僕のことを同情でも傍に置いてくれて。



でももう限界なのだ。
直に王子の継承式がある。婚約者もおり、強い反対もない。
王子の即位後も王の力は強いとはいえ、いずれは僕は厄介者になるだろう。
王だって、今は忙しいから周りの声が聞こえてこないだけだ。
きっといつかは、なんでこんな平凡を拾ったんだと後悔するときが来るだろう。


王にいらないと思われたくない。
好きな人にいらないと思われたくない。
だから、今、この幸せの絶頂の時に消えるべきなんだ。



まだ僕の目の前でわめいている王子の手を引く。
常ならば有り得ないことだ。

王の足音が聞こえてきた。
王、さようなら。



目を閉じて、王子の唇に自分の唇を重ね合わせた。


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