普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎

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受けを壊してでも手に入れたいヤンデレの鑑

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初めて会ったとき、彼に惚れた。
欲しい、と、強く思った。
彼の全てを自分のものにしたい、と、強く、強く、思った。




私が望めば何だって手に入った。


「何を言っているんだ。気持ち悪い。」



兄のものを除いては。



兄は自分にも他人にも厳しい人間だった。
側室の子である自分とは違い、小さい頃から次期皇帝として厳しい教育を受けていた兄。
その教育の影響か、物心がついた頃には日常の些細なことでさえ、自身のミスに対して苛立ちを隠せないようだった。
時が経つにつれ自身への過剰な厳しさは、自分だけでなく他人にも矛先を向けていき、結婚してからはよりひどくなったように思える。


兄の前では兄の伴侶である皇后はもちろん、側近も使用人も、もちろん息子である彼も、皆が兄の言いなりだった。
兄が前を向けと言えば前を向き、右を向けと言えば右を向く。


兄が進むべき道を用意し皆がそれに従うのが、兄の治める世界では当然のことらしかった。
だが、そんな閉鎖的で意固地な性格が災いしたのか、皇室での厳しすぎる態度…主に家族や使用人に対する指導という名の暴力が記者にたびたびすっぱ抜かれたため、貴族だけでなく国民からの評判までどんどん落ちていき。
あれだけ自分を律していた兄は、父の死後、側近や貴族たちの反発により、皇位剥奪。
対照的に、兄から見たらひどく適当な弟である私が、皆の後押しにより次期皇帝となることになった。


側室の子が第一継承者を差し置いて皇帝になるなど前代未聞。
だが、それほどまでに兄は敵を作りすぎたということだ。


「意味の分からないことをいつまでも言ってないで、早く帰れ!」

「そんなこと言わないでよ兄さん。私と兄さんの仲じゃないか。」



私が微笑めば何だって手に入るのに。
やはり兄のものは手に入らないのか。


久しぶりにわざわざ兄の屋敷に来たというのに、労いや近況報告などあるはずもなく。
少し“お話”をしただけで突っぱねられるとは。
やはり兄は気難しくて面倒臭い。



「お前がなんと言おうと、息子は渡さん。おい、こいつをつまみ出せ。」

「ひどいなぁ。一国の皇帝に向かって。」



兄の使用人が恐る恐る私のそばに寄り、戸惑いの表情を浮かべる。主人の命令とはいえ、皇帝を追い出すなんてできるわけないのに。無能な兄の下で働くのはさぞ大変なことだろう。
この分だと、彼の息子だって相当大変な思いをしているはずだ。それならば、いっそこれを利用するのも手かもしれない。
時間はかかってしまうかもしれないけれど、


「これが一番確実かなあ?」

「黙れ!二度と俺の前に姿を現すな!」


ガチャンッ


嫌悪と恐怖の入り混じった顔でワイングラスを叩きつけ、私の顔を見る兄。
昔から、兄は私に対してその顔を見せていた。
兄だけは私の異常性に早くから気づいていたのかもしれない。
その顔がもっと歪んでいくのを楽しみにしているよ。



***



「……懐かしいなぁ。」


夢の中の兄は、今よりも若く、威勢があった。


頭を上げた途端、バサバサと書類の山が崩れる。
どうやら、机に突っ伏して眠ってしまっていたらしい。
落ちた書類と一緒にひらひらと舞う写真。
そこに写っているのは今の兄の顔だが、恐怖や疲れで夢の中で見た兄とは別人のようだった。


だからあのとき素直に渡しておけばよかったのに。どうせ兄にはどうすることもできないのだから。
あの後すぐ、兄は私を恐れて息子を隣国へと留学させた。
前皇帝の息子という事実はもちろんすぐに隣国へと広まり、留学先でも醜聞に苦しめられていた。
昔から兄の異常とも言える厳しい監視下で育てられていたせいか、プレッシャーを感じやすくあがり症。留学後も監視は続き、友達の一人も作れず孤独を感じていたようだ。


なんて可哀想な私の宝石。


初めて見た時から、彼は私のかけがえのない存在だった。
乳母に抱かれたその姿、今でも鮮明に思い出される。
その瞬間私は勃起し、今日まで、彼を手にいれるためだけに生きてきた。



そのおかげで、ようやく彼は私の治める世界に来てくれた。


厳しい監視下にあった彼は逃げ出し、追手を振り切るため何日も走り回り、昨日私の私有している森で発見された。
趣味の狩猟用の罠に誤って足を挟まれ、怪我をしてしまったとのことだった。
もちろん私の優秀な騎士たちによって逃走経路は把握済み、あらかじめ罠を何十箇所も設置していたとはいえ、こんなに上手くかかってくれるとは。
さすが私の獲物は可愛らしい。



私を恐れるあまりに行った兄の厳しい教育が、監視が、彼を私の元へ導いてしまったのだ。
なんたる皮肉だろうか。



緩む頬をそのままに、側近を呼ぶ。
最後の準備をするために。



「保護している彼の件についてだが、」


手始めに、私の息子のそばに置こう。
息子は誰に似たのか少々性格に難があり、そろそろどうにかしようとしていたところだ。
ちょうどいい機会だ、処分する前に一仕事してもらおう。


すべては彼を手に入れる為に。



「息子の側近にするのはどうかな。歳もそんなに離れていないし、仕事でもプライベートでも良き友人になれると思うんだ。」





家族だって、大事な大事な、


「承知しました。」

「手配のほう、よろしく頼むよ。」



計画の為の駒。


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