3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 4学年生

ただいま、フェルナー侯爵家

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 王家への報告は、サミュエル先生がしてくれるというので私は一足先に帰ることになった。でもその前にリリス様やララ様に挨拶をしておきたい。

「ララ様、リリス様、ただいま戻りましたわ」

 神官控室に顔を見せると、ララ様にガバリと抱き付かれてしまった。

「キャシーちゃん、おかえりぃ。無事で良かったぁ」

「キャスリーン様があちらに行ってしまわれて、2日後でしたかしら。情報紙であちらの状況が伝えられましたの。キャスリーン様が向かわれたと聞いて王都の貴族の方や庶民の方々による、神像に無事を祈る列が出来ておりましたわ。王族の方もお忍びでお出でになられておられました。ララ様、いつまで抱き付いておられますの?キャスリーン様はお疲れなのですわよ?わたくしにも代わってくださいませ」

「えぇぇぇぇ」

 ずいぶん仲良くなったようだ。リリス様がララ様に対して、文句のような冗談を言っている。

 ララ様がしぶしぶといった風に解放した私を、今度はリリス様が柔らかく抱き締める。

「おかえりなさいませ、キャスリーン様。大変でしたでしょう?アリス・ブレイクリー様も拝礼にお出でになって、キャスリーン様のご無事と事故に遭われた方々の無事を祈っていかれましたわ」

「アリス様は、ご自分のご経験と重ね合わせてしまわれたのでしょうね。お辛かったでしょう」

「キャスリーン様ったら、ご自分の心配もしてくださいませ?あなた様はよく、自分の命を大切にと言われますけれど、キャスリーン様にその言葉をお返しいたしますわ」

 リリス様に叱られてしまった。諭すような柔らかい言い方だったけど、そっちの方が素直に聞こうってなっちゃうよね。

「うふふ、申し訳ございませんわ」

「笑い事ではありませんのよ?」

「はい。分かっております」

 笑いあって身体を離す。

「今日は侯爵家に帰りますわ。明日から奉仕に伺います」

「駄目ですわよ。明日もゆっくりなさいませ。夏期休暇も残り少し。本当はこのまま休んでほしい程ですのよ」

「そうそう。今は患者も落ち着いているの。熱中症の患者が時々ここに運び込まれる位ね」

 ララ様とリリス様に、私が居ない間の状況をざっくりと教えてもらった。それ以上を聞こうとすると、2人して教えないって言うんだもの。早く家に帰りなさいって言われちゃった。

 馬車溜まりには、フェルナー家の馬車が準備万端で待っていた。

「お待たせしてしまったかしら?ごめんなさいね」

「大丈夫ですよ。お嬢様、おかえりなさいませ。フェルナー家に安全にお送りしますので、馬車の中ではごゆっくりとなさいませ」

「ありがとう」

 馬車に乗り込んでホゥっと息を吐く。疲れていないと思っても疲れが蓄積していたらしい。姿勢は崩さないようにしてたけど、窓の外をぼんやり見ていたら、フェルナー侯爵家に着いてお義母様に出迎えられた。

「おかえりなさい、キャシーちゃん」

「ただいま戻りました、お義母様」

「疲れたでしょう?入浴で身体を休めてらっしゃい」

「ありがとうございます」

 いつもなら帰ってくるとお義母様とお話しする為に、着替えてお義母様のお部屋やサロンに行く。お義母様がそれを望んでいるし、私も話したい事や相談したい事を聞いてもらうのが通例になっていた。

 自室に戻ってフランの手を借りて入浴する。レジェス鉱山では慌ただしくシャワーを浴びるだけだったし、頭髪やお肌のお手入れなんて出来なかった。

 私はまだ子供だからそこまでじゃなかったけど、サミュエル先生達は本当に忙しく働いていた。それでも私の側には必ず誰かが付いてくれていた。

「お嬢様、寝てしまわれても大丈夫ですからね」

「大丈夫よ。眠ってなんていられないわ」

「フランが居ります。安心してくださいませ。お肌もこの様に日に焼けられて、おいたわしい」

「あちらではお手入れなんて出来なかったし。それでも私のやりたかった事なの。知ってしまったら見て見ぬふりなんて出来ない」

「それがお嬢様だと分かっておりますけれど」

「心配をさせてしまってごめんね」

「仕方がございませんわね。許して差し上げます」

 フランが笑って言う。小さい頃からの気心の知れた間柄だから、こんな冗談も言い合える。念入りにお肌と髪のお手入れをしてもらって、少しのうたた寝のつもりでベッドに横になる。少しだけのつもりだったんだけど……。

 目が覚めたら夜の10時だった。まさかここまで寝てしまうとは少し自己嫌悪に陥る。

「お目覚めになられましたか?」

「フラン、ずっと居てくれたの?」

「当然でございます。お嬢様がお眠りになっている間に、ローレンス様とランベルト様と旦那様がお顔を見にいらっしゃいました」

「ローレンス様ったら、教会でお会いしたのに」

「明日は旦那様はお仕事がお休みのようですよ」

「そうなの?」

「はい。お話があると伺っております」

 話かぁ。何だろう?

 夜遅くなってしまったから軽い物を用意してもらって、夜食として食べた。私が寝ている間、ローレンス様やお義父様達が代わる代わる様子を見に来たのは聞いたけど、その他にも昔馴染みの侍女達がフランに様子を聞きに来たりしていたそうだ。私と普段から仲の良い侍女達やメイド達は部屋に入ったらしいけど、寝顔は見せていないそうだ。

「お嬢様の寝顔を見られるのは、フランだけの特権です」

「特権って。そこまで価値も無いと思っ……」

「あるんです」

「そこまで言い切らないで?」

「言い切ります。ローレンス様やランベルト様は百歩譲ってもよろしいですけど」

「フラン、どうしちゃったの?」

なんだかものすごく熱を感じるんですが。

「お嬢様の専属になりたいと言ってくるのも居るんですよ。奥様に直接言えないからとわたくしに口添えをと言ってきたりとか。本当に図々しい」

「何かあったの?」

冬季休暇まではそんな事は無かったよね?

「光の聖女様という呼び名が定着したのが、ひとつの要因でしょうね。今さらですよ、本当に」

なんだかフランが忌々しそうに言う。

「落ち着いて、フラン。何かあったの?」

「何でもございませんわ」

軽い夜食を食べ、少しだけ本を読んでその日は就寝した。


翌日。朝食後にお義父様に執務室に呼ばれた。

「キャスリーンです。お義父様、何かご用でしょうか」

「悪いな、キャスリーン。まずはおかえり。活躍はサミュエル様から伺った」

「活躍というほどでは。皆様のお力あっての事です」

「それに関してだがな。王家がキャスリーンの功績を称えた茶会を催したいと言ってきた」

「お断りしてください」

「とっくに断った。キャスリーンはそのような事を望んでいないと。サミュエル様も口添えしてくださった」

「良かったです。だいたいお茶会を開くのでしたら、その費用をレジェス鉱山復興の支援金にした方が、有益ですのに」

「まったくだ」

「どなたの案かは存じ上げませんが、たぶんにパフォーマンス的な物を感じます。自分はみんなの事を見ていて、心配りが出来るという」

「パフォーマンスか」

フンッとお義父様が鼻を鳴らした。

「キャスリーンの言う通りなのだろうな。あの方は派手を好まれる」

「お義父様、レジェス鉱山はプラチナ白金鉱脈でしたわよね?」

「あぁ、そうだ。白金と偽銀が採れる」

「偽銀……。パラジウムだと思うのですが」

「ぱらじうむ?」

「金属の一種です」

なぜ私が知っているのかというと、歯科衛生士の友人から教えてもらった事があるからだ。「歯の治療に使われる銀歯は銀ではなくてパラジウム合金なのよ」って。「昔は水銀を含むアマルガムを使っていたんだって。怖いわよね」と笑っていたけど、調べてみたらパラジウムもアレルギーを引き起こしやすい金属だった。アレルギー反応陽性だったからって即座に重いアレルギー反応が引き起こされる訳じゃない。それにパラジウム合金は低コストで強度があるから使いやすい。メリット、デメリットを理解し、医師と相談の上決めていただきたい。

話が逸れた。問題は落盤事故の原因だ。

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