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婚約破棄編
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しおりを挟む※気分を害する表情があります。自己判断でお読み下さい。
私がグラナド侯爵家の次女エリスに出会ったのは幼少の頃だ。
幼少の頃というのは初めて出会った歳をはっきり覚えていないからだ。
父親の後ろに隠れ視線を下げ、私を見て緊張していた姿を覚えている。
「僕の名前はユリウスと言います。君の名前は?」
「わ、わたしの名前はエリス⋯」
私はふるふると震えている女の子に微笑み手を差し出した。
「向こうのお庭に綺麗なお花が咲いているよ。見に行こう」
固まるエリスの手をそっと握り庭園へ連れて行く。強張る女の子に笑顔になって欲しかったから。
ふっくらとした柔らかい手を握り、後ろを振り返りつつ案内する。
庭園へ近づくにつれ辺りに花の甘い香りが漂い、それに気付いたエリスが不思議そうな顔で私を見て尋ねた。
「なんて良い匂い。何これ?」
「花の匂いだよ。凄く甘い香りがするんだ」
甘い匂いがする庭園へエリスを案内する。
そこは大振りな花、小振りな花が様々咲き乱れまるで楽園の様だ。
「わぁ⋯ 綺麗な花がたくさん」
花を見て笑顔になり頬を赤らめて感動していた。笑った顔がとても可愛くてしばらく見惚れていたら。
「ユリウス様?」
丸い大きな目をキョトンとさせこちらを窺って見ている。私は目の前の女の子を愛しく思い両手を取り握りしめた。
「ユ、ユリウス様!」
はっとなり慌てて手を離す。エリスは俯き顔を赤くし、もじもじしている。
お互いに気まずくなったが、私はエリスの笑顔がもっと見たい。愛しい。と思い離れ難く感じた。
もし将来ずっと一緒に居れたら、笑顔を壊す事から守りたい。泣かせたくない。
そう思っていたのに⋯。
その人は甘い匂いを振りまき、豊満な体をしならせ私に近づいて来た。
赤い唇で妖艶な笑顔を浮かべ⋯。
若い男がその体に見惚れるのは自然の成り行きで仕方ない。
しかしなけなしの理性が押し留める。
エリスを裏切っても良いのかと⋯。
結局欲望には逆らえず、そうなれば落ちるのも早かった。
私はあの体の虜になってしまった⋯。
エリスに心残りはあるが、リディアから離れられなかった。
リディアにも婚約者がいて裏切りだと分かっている。
それじぁリディア本人はどうなんだろう?
自分で不貞行為をしているのだから、余計たちが悪い。
それでも私達はお互いに必要としていた。
地味なエリスより、容姿端麗で周りから憧れられるリディアを側に置く事でプライドも満たされる。
家の契約も姉妹が入れ替わるだけだ。違反しているわけではない。
リディアの婚約者については、新しい相手を見繕ってもらい最終的に納得してもらう。
◇
エリスが家を出奔したと聞いた。
あの取り柄も無く、人の陰に隠れ、逆らえず自己表現もしない女が。
家を出る気概はあったのだと少し見直した。
まぁ、上手く行けば行きついた先でやって行けるのだろう。駄目ならそれまでだ。
婚約してから大事にはしていて、自分なりに目を掛けていたつもりだ。だが、婚約者の力量の差が姉と違いがあれば周りからの評判も気になる。
それは私の評判にも関わる事だ。自慢できる婚約者であれば私も鼻が高い。
私の思いとリディアの公爵家に取り入りたい目的と合致しただけだ。
不貞行為はその手段に過ぎない。全て自己都合だ。
だが⋯。
昔見たあの笑顔が心の内に引っ掛かる。
忘れた筈なのに⋯。
疼く胸を抑えこの空の何処かにいるであろう女の子を思い出し、自嘲気味に笑った。
今度こそ幸せになって欲しい。
叶えてあげられ無かった男のささやかな願いだ―。
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