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お見合いとお付き合い篇
1、わたしが騎士さまとお見合い?
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その日。わたしは、お父さまからびっくりするようなお話を頂きました。
ヴィレムさま……いいえ、お名前でお呼びするのは、わたしには勿体ないです。
騎士さまとのお見合いをするようにと、命じられたんです。
信じられますか? あの方ですよ。
ええ、幼い頃に何度かお会いして、助けてもいただいて。でも、今は お会いしてお話することもありませんでした。
幼馴染みというには、年が離れていますし。お兄さまの友人とはいえ、わたしにとっては単なる知人になるのでしょうか。
ああ、お見合い。きっと断られるに決まっていますけど。騎士さまと二人きりでお話ができるなんて。
もう天に召されてしまいそう。
「うわー、娘! しっかりしろ」
遠い所から、お父さまの声が聞こえます。
大人びたミーシャが心配そうに鳴く声も。
◇◇◇
き、緊張します。手汗が止まりません。
手に汗をかいたレディなんていないですよね。
お見合いの場所は、騎士さまのお屋敷です。しかも気候も天気もいいので、お庭の木陰にテーブルと椅子が用意されています。
「やぁ、き……いい天気で良かったね」
「あ、はい。今日は、その……よろしくお願いします」
周囲には、とても香りのいい薄紅や薄紫色の花が咲き乱れています。
棘のあるその花。騎士さまに救っていただいたことのある、その花。うちにも咲いていますし、よく知っているはずなのに。緊張しすぎて名前が出てきません。
ああ、でも思い出さない方がいいのかも。
だって、子どもの頃とはいえ服を脱がされて救出されるなんて、恥ずかしいにも程があります。
それに騎士さまも、きっと忘れていらっしゃるわ。
「砂糖は必要?」
「はい。ありがとうございます」
茶色いお砂糖、カソナードの入ったガラスの器を、騎士さまは寄越してくださると思ったのですが。小さな銀色のトングで角砂糖をつまんで、わたしのカップに入れてくださいます。
ひとつ、ふたつ。みっつ……よっつ。
入れすぎなのでは?
けれど、騎士さまは神妙な顔つきで、次々とカソナードを沈めていきます。まるで何かの儀式であるかのように。
「はっ! 俺は何を。済まない、砂糖を入れすぎた」
「いえ、大丈夫です。溶け切らないですから」
澄んだ紅茶の中に円錐形に積まれている砂糖。神聖で厳かにすら見えます。
ですが、今にもカップから溢れてしまいそう。
「済まない。すぐにメイドにカップを替えさせるよ」
「いいのです。騎士さまが入れてくださったんですもの」
わたしが微笑みながらそう告げると、なぜか騎士さまは片手で顔の下半分を覆って俯いてしまいました。
何かおかしなことを言ってしまったでしょうか。
この方とこんなに近い距離で、二人きりで出来るのはおそらく今日が最後。
お互いの父親が学友だったから、お見合いという流れになったのでしょうけど。
とても素敵な方ですもの。お付き合いなさっているレディがいて当然です。
お家でお見合いというのは、きっと外でお見合いなどしたら彼女に見つかってしまうからなのでしょうね。
カチャン!
ふいに硬い音が響いて、わたしはぎょっとしました。
もしかしてカップを落としてしまったのかしら。でも、手にはちゃんと持っています。
円錐形に積まれたカソナードは少し溶けかけていますが、崩れてはいません。
ヴィレムさま……いいえ、お名前でお呼びするのは、わたしには勿体ないです。
騎士さまとのお見合いをするようにと、命じられたんです。
信じられますか? あの方ですよ。
ええ、幼い頃に何度かお会いして、助けてもいただいて。でも、今は お会いしてお話することもありませんでした。
幼馴染みというには、年が離れていますし。お兄さまの友人とはいえ、わたしにとっては単なる知人になるのでしょうか。
ああ、お見合い。きっと断られるに決まっていますけど。騎士さまと二人きりでお話ができるなんて。
もう天に召されてしまいそう。
「うわー、娘! しっかりしろ」
遠い所から、お父さまの声が聞こえます。
大人びたミーシャが心配そうに鳴く声も。
◇◇◇
き、緊張します。手汗が止まりません。
手に汗をかいたレディなんていないですよね。
お見合いの場所は、騎士さまのお屋敷です。しかも気候も天気もいいので、お庭の木陰にテーブルと椅子が用意されています。
「やぁ、き……いい天気で良かったね」
「あ、はい。今日は、その……よろしくお願いします」
周囲には、とても香りのいい薄紅や薄紫色の花が咲き乱れています。
棘のあるその花。騎士さまに救っていただいたことのある、その花。うちにも咲いていますし、よく知っているはずなのに。緊張しすぎて名前が出てきません。
ああ、でも思い出さない方がいいのかも。
だって、子どもの頃とはいえ服を脱がされて救出されるなんて、恥ずかしいにも程があります。
それに騎士さまも、きっと忘れていらっしゃるわ。
「砂糖は必要?」
「はい。ありがとうございます」
茶色いお砂糖、カソナードの入ったガラスの器を、騎士さまは寄越してくださると思ったのですが。小さな銀色のトングで角砂糖をつまんで、わたしのカップに入れてくださいます。
ひとつ、ふたつ。みっつ……よっつ。
入れすぎなのでは?
けれど、騎士さまは神妙な顔つきで、次々とカソナードを沈めていきます。まるで何かの儀式であるかのように。
「はっ! 俺は何を。済まない、砂糖を入れすぎた」
「いえ、大丈夫です。溶け切らないですから」
澄んだ紅茶の中に円錐形に積まれている砂糖。神聖で厳かにすら見えます。
ですが、今にもカップから溢れてしまいそう。
「済まない。すぐにメイドにカップを替えさせるよ」
「いいのです。騎士さまが入れてくださったんですもの」
わたしが微笑みながらそう告げると、なぜか騎士さまは片手で顔の下半分を覆って俯いてしまいました。
何かおかしなことを言ってしまったでしょうか。
この方とこんなに近い距離で、二人きりで出来るのはおそらく今日が最後。
お互いの父親が学友だったから、お見合いという流れになったのでしょうけど。
とても素敵な方ですもの。お付き合いなさっているレディがいて当然です。
お家でお見合いというのは、きっと外でお見合いなどしたら彼女に見つかってしまうからなのでしょうね。
カチャン!
ふいに硬い音が響いて、わたしはぎょっとしました。
もしかしてカップを落としてしまったのかしら。でも、手にはちゃんと持っています。
円錐形に積まれたカソナードは少し溶けかけていますが、崩れてはいません。
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