憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃

文字の大きさ
5 / 17
お見合いとお付き合い篇

1、わたしが騎士さまとお見合い?

しおりを挟む
 その日。わたしは、お父さまからびっくりするようなお話を頂きました。
 ヴィレムさま……いいえ、お名前でお呼びするのは、わたしには勿体ないです。

 騎士さまとのお見合いをするようにと、命じられたんです。
 信じられますか? あの方ですよ。
 ええ、幼い頃に何度かお会いして、助けてもいただいて。でも、今は お会いしてお話することもありませんでした。

 幼馴染みというには、年が離れていますし。お兄さまの友人とはいえ、わたしにとっては単なる知人になるのでしょうか。

 ああ、お見合い。きっと断られるに決まっていますけど。騎士さまと二人きりでお話ができるなんて。
 もう天に召されてしまいそう。

「うわー、娘! しっかりしろ」

 遠い所から、お父さまの声が聞こえます。
 大人びたミーシャが心配そうに鳴く声も。

◇◇◇

 き、緊張します。手汗が止まりません。
 手に汗をかいたレディなんていないですよね。

 お見合いの場所は、騎士さまのお屋敷です。しかも気候も天気もいいので、お庭の木陰にテーブルと椅子が用意されています。

「やぁ、き……いい天気で良かったね」
「あ、はい。今日は、その……よろしくお願いします」
 
 周囲には、とても香りのいい薄紅や薄紫色の花が咲き乱れています。
 棘のあるその花。騎士さまに救っていただいたことのある、その花。うちにも咲いていますし、よく知っているはずなのに。緊張しすぎて名前が出てきません。

 ああ、でも思い出さない方がいいのかも。
 だって、子どもの頃とはいえ服を脱がされて救出されるなんて、恥ずかしいにも程があります。
 それに騎士さまも、きっと忘れていらっしゃるわ。

「砂糖は必要?」
「はい。ありがとうございます」

 茶色いお砂糖、カソナードの入ったガラスの器を、騎士さまは寄越してくださると思ったのですが。小さな銀色のトングで角砂糖をつまんで、わたしのカップに入れてくださいます。

 ひとつ、ふたつ。みっつ……よっつ。
 入れすぎなのでは?

 けれど、騎士さまは神妙な顔つきで、次々とカソナードを沈めていきます。まるで何かの儀式であるかのように。

「はっ! 俺は何を。済まない、砂糖を入れすぎた」
「いえ、大丈夫です。溶け切らないですから」

 澄んだ紅茶の中に円錐形に積まれている砂糖。神聖で厳かにすら見えます。
 ですが、今にもカップから溢れてしまいそう。

「済まない。すぐにメイドにカップを替えさせるよ」
「いいのです。騎士さまが入れてくださったんですもの」

 わたしが微笑みながらそう告げると、なぜか騎士さまは片手で顔の下半分を覆って俯いてしまいました。
 何かおかしなことを言ってしまったでしょうか。

 この方とこんなに近い距離で、二人きりで出来るのはおそらく今日が最後。
 お互いの父親が学友だったから、お見合いという流れになったのでしょうけど。

 とても素敵な方ですもの。お付き合いなさっているレディがいて当然です。
 お家でお見合いというのは、きっと外でお見合いなどしたら彼女に見つかってしまうからなのでしょうね。
 
 カチャン!

 ふいに硬い音が響いて、わたしはぎょっとしました。
 もしかしてカップを落としてしまったのかしら。でも、手にはちゃんと持っています。
 円錐形に積まれたカソナードは少し溶けかけていますが、崩れてはいません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

小さな姫さまは護衛騎士に恋してる

絹乃
恋愛
マルティナ王女の護衛騎士のアレクサンドル。幼い姫に気に入られ、ままごとに招待される。「泥団子は本当に食べなくても姫さまは傷つかないよな。大丈夫だよな」幼女相手にアレクは戸惑う日々を過ごす。マルティナも大きくなり、アレクに恋心を抱く。「畏れながら姫さま、押しが強すぎます。私はあなたさまの護衛なのですよ」と、マルティナの想いはなかなか受け取ってもらえない。※『わたしは妹にとっても嫌われています』の護衛騎士と小さな王女のその後のお話です。可愛く、とても優しい世界です。

メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~

Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが… ※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。 ※設定はふんわり、ご都合主義です 小説家になろう様でも掲載しています

【番外編】小さな姫さまは護衛騎士に恋してる

絹乃
恋愛
主従でありながら結婚式を挙げた護衛騎士のアレクと王女マルティナ。戸惑い照れつつも新婚2人のいちゃいちゃ、ラブラブの日々。また彼らの周囲の人々の日常を穏やかに優しく綴ります。※不定期更新です。一応Rをつけておきます。

美醜聖女は、老辺境伯の寡黙な溺愛に癒やされて、真の力を解き放つ

秋津冴
恋愛
 彼は結婚するときこう言った。 「わしはお前を愛することはないだろう」  八十を越えた彼が最期を迎える。五番目の妻としてその死を見届けたイザベラは十六歳。二人はもともと、契約結婚だった。  左目のまぶたが蜂に刺されたように腫れあがった彼女は左右非対称で、美しい右側と比較して「美醜令嬢」と侮蔑され、聖女候補の優秀な双子の妹ジェシカと、常に比較されて虐げられる日々。  だがある時、女神がその身に降臨したはイザベラは、さまざまな奇跡を起こせるようになる。  けれども、妹の成功を願う優しい姉は、誰にもそのことを知らせないできた。  彼女の秘めた実力に気づいた北の辺境伯ブレイクは、経営が破綻した神殿の借金を肩代わりする条件として、イザベラを求め嫁ぐことに。  結界を巡る魔族との戦いや幾つもの試練をくぐり抜け、その身に宿した女神の力に導かれて、やがてイザベラは本当の自分を解放する。  その陰には、どんなことでも無言のうちに認めてくれる、老いた辺境伯の優しさに満ちた環境があった。  イザベラは亡き夫の前で、女神にとある願いを捧げる。  他の投稿サイトでも掲載しています。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

これは政略結婚ではありません

絹乃
恋愛
勝気な第一王女のモニカには、初恋の人がいた。公爵家のクラウスだ。七歳の時の思い出が、モニカの初恋となった。クラウスはモニカよりも十三歳上。当時二十歳のクラウスにとって、モニカは当然恋愛の対象ではない。大人になったモニカとクラウスの間に縁談が持ちあがる。その返事の為にクラウスが王宮を訪れる日。人生で初めての緊張にモニカは動揺する。※『わたしのことがお嫌いなら、離縁してください』に出てくる王女のその後のお話です。

処理中です...