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お見合いとお付き合い篇
2、恥ずかしくて逃げてしまいたいんです
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「す、済まない。こういう繊細なカップに慣れていなくて」
見れば、向かいの席のソーサーに紅茶が零れて、しかも騎士さまは頬をうっすらと染めています。
ああ、騎士さまじゃなくてヴィレムさまだわ。
王族の護衛をして、馬を駆る凛々しい近衛騎士。誰もが憧れる騎士さまではなく、わたしのよく知る、逞しいのに優しいヴィレムお兄さまがいらっしゃいました。
嬉しい、ヴィレムさまとこんな風にまたお話ができて。
わたしは、自分でも気づかぬ内に微笑んでいました。
「やっと笑ってくれた」
「え?」
ヴィレムさまは、とても楽しそうに目を細めてわたしを見つめています。
なに、この煌めきは。彼は自ら光を放つ太陽なの? 眩しすぎて目眩がしそうです。
「済まない。火傷をしなかったかい?」
「はい、大丈夫です」
ハンカチで、手に跳ねた紅茶を拭こうとした時。ヴィレムさまは、わたしの手を取りました。そして、まるで姫にするかのように、恭しくわたしの手の甲に唇を触れたのです。
違います、わたしは姫でもありませんし。ヴィレムさまの恋人でもありません。
「あ、ああ、あの。騎士さま? 何を……」
「名前で呼んでほしいな。フランカ」
美しい碧の瞳が、わたしをまっすぐに見据えてきます。若葉のような、陽の光に愛された明るい色。
その瞳に、戸惑うわたしが映っているんです。
あの日。六年前に馬車に轢かれそうになった時。
幼い私を救ってくださったヴィレムさまは、同じように優しくいたわる瞳で見つめてくださいました。
しかも、とんでもない事実をヴィレムさまは話しはじめたのです。
「もしフランカと顔見知りでなくて、家も知らなかったら俺は君をどこへ運べば良かったのかなぁ。騎士団の詰所かなぁ」
「詰所、ですか?」
「冗談、冗談。あんなむさくるしい男ばかりの所に、愛らしいフランカを連れてなんかいけない」
「わたしは愛らしくなんて……」
俯こうとすると、あごに手を掛けられました。
テーブル越しのヴィレムさまが、わたしのあごに触れているんです。
そう、強制的にヴィレムさまのお顔を真正面から、拝見する格好です。
何か会話を。形ばかりのお見合いでも「つまらない娘だったな」なんて思われたくありません。
「あの時は、助けてくださりありがとうございました。それに家まで送ってくださって」
「ああ、まだ小さくて軽かったから。運びやすかったよ」
「は、運ぶ?」
ヴィレムさまは、楽しそうに目を細めます。
こぼれた所為で量が減ったカップの紅茶を、ひとくち飲んで。
「そう。騎士団では、訓練で伸びた奴を肩に担いで運ぶことがあるけど。さすがに小さなレディにそれは失礼だろ? だから、横抱きで。うーん、お姫さま抱っこと言えばいいのかな」
「お姫さま……だっこ?」
きっとわたしは、間抜けた顔をしていたことでしょう。
「実際に王家の姫さまが、そうやって運ばれているところは目にしたことがないけどね。巷では、そう呼ぶんだろう?」
「は……い、たぶん」
「フランカの家まで送る途中に、騎士仲間と出会って。散々、揶揄われたよ」
「あの、なんて?」
ヴィレムさまは、照れたように苦笑なさいます。
「『お前、それ犯罪な』とか」
「なぜ、犯罪なのですか?」
思考停止してしまったのか、わたしは単純な問いかけしかできませんでした。
だって、子どもとはいえヴィレムさまにお姫さま抱っこで家まで運んでいただいたんですよ。
そんなの、恥ずかしくて恥ずかしくて。
ああ、もう逃げてしまいたい。
見れば、向かいの席のソーサーに紅茶が零れて、しかも騎士さまは頬をうっすらと染めています。
ああ、騎士さまじゃなくてヴィレムさまだわ。
王族の護衛をして、馬を駆る凛々しい近衛騎士。誰もが憧れる騎士さまではなく、わたしのよく知る、逞しいのに優しいヴィレムお兄さまがいらっしゃいました。
嬉しい、ヴィレムさまとこんな風にまたお話ができて。
わたしは、自分でも気づかぬ内に微笑んでいました。
「やっと笑ってくれた」
「え?」
ヴィレムさまは、とても楽しそうに目を細めてわたしを見つめています。
なに、この煌めきは。彼は自ら光を放つ太陽なの? 眩しすぎて目眩がしそうです。
「済まない。火傷をしなかったかい?」
「はい、大丈夫です」
ハンカチで、手に跳ねた紅茶を拭こうとした時。ヴィレムさまは、わたしの手を取りました。そして、まるで姫にするかのように、恭しくわたしの手の甲に唇を触れたのです。
違います、わたしは姫でもありませんし。ヴィレムさまの恋人でもありません。
「あ、ああ、あの。騎士さま? 何を……」
「名前で呼んでほしいな。フランカ」
美しい碧の瞳が、わたしをまっすぐに見据えてきます。若葉のような、陽の光に愛された明るい色。
その瞳に、戸惑うわたしが映っているんです。
あの日。六年前に馬車に轢かれそうになった時。
幼い私を救ってくださったヴィレムさまは、同じように優しくいたわる瞳で見つめてくださいました。
しかも、とんでもない事実をヴィレムさまは話しはじめたのです。
「もしフランカと顔見知りでなくて、家も知らなかったら俺は君をどこへ運べば良かったのかなぁ。騎士団の詰所かなぁ」
「詰所、ですか?」
「冗談、冗談。あんなむさくるしい男ばかりの所に、愛らしいフランカを連れてなんかいけない」
「わたしは愛らしくなんて……」
俯こうとすると、あごに手を掛けられました。
テーブル越しのヴィレムさまが、わたしのあごに触れているんです。
そう、強制的にヴィレムさまのお顔を真正面から、拝見する格好です。
何か会話を。形ばかりのお見合いでも「つまらない娘だったな」なんて思われたくありません。
「あの時は、助けてくださりありがとうございました。それに家まで送ってくださって」
「ああ、まだ小さくて軽かったから。運びやすかったよ」
「は、運ぶ?」
ヴィレムさまは、楽しそうに目を細めます。
こぼれた所為で量が減ったカップの紅茶を、ひとくち飲んで。
「そう。騎士団では、訓練で伸びた奴を肩に担いで運ぶことがあるけど。さすがに小さなレディにそれは失礼だろ? だから、横抱きで。うーん、お姫さま抱っこと言えばいいのかな」
「お姫さま……だっこ?」
きっとわたしは、間抜けた顔をしていたことでしょう。
「実際に王家の姫さまが、そうやって運ばれているところは目にしたことがないけどね。巷では、そう呼ぶんだろう?」
「は……い、たぶん」
「フランカの家まで送る途中に、騎士仲間と出会って。散々、揶揄われたよ」
「あの、なんて?」
ヴィレムさまは、照れたように苦笑なさいます。
「『お前、それ犯罪な』とか」
「なぜ、犯罪なのですか?」
思考停止してしまったのか、わたしは単純な問いかけしかできませんでした。
だって、子どもとはいえヴィレムさまにお姫さま抱っこで家まで運んでいただいたんですよ。
そんなの、恥ずかしくて恥ずかしくて。
ああ、もう逃げてしまいたい。
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