キラシャの恋の物語

キラシャ

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第2章 未来のスクール

④ タケル 愛してる いってらっしゃい

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タケルも涙が出そうだったが、歯を食いしばって言った。


「メールありがとう。でも、返事を出したら、せっかく決心した火星行き…」


キラシャは涙をぬぐって、急いで口をはさんだ。


「いいじゃない。火星行きなンてやめちゃえば…。どうして、そんなことになったの?

ケンもマイクも、みんな怒ってるンだ。あたしだって、もう、絶交だって思ったモン!」


タケルは、キラシャの抗議に戸惑いながらも、こう言った。


「パパとママが、火星へ行こうって。

 ・・・2人とも医療技師を始めたころから、ずっと火星で研究したかったンだって。


 ・・・オレは、パスボーがしたかったけど・・・

 でも一緒に行って、何か新しいことを発見してみたくなったンだ・・・。

 今までの自分になかったものが、見つけられたらいいなって」


キラシャは叫んだ。「そんなの、ここでも見つけられるじゃない!

 パスボーだって、誰にも負けてないじゃない。

 それ以上に、タケルは何が欲しいって言うの?」


タケルは、だまってうつむいた。


▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△


「それにさ、なぜ、もっと早く教えてくれなかったの?


 あたし、タケルと一緒に外の海に行ってみたかったンだよ!


 上級コースになったら、2人で組んでオリン・ゲームにも出たかったのに・・・。


 11歳になったらっ、ドームの外出許可取って、優勝めざしてっ

 
 外で早く動けるようにっ、必死で訓練してたのにっ ウウッ・・・」


 キラシャは、涙と嗚咽が止まらなくなった。


●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇

   
「・・・キラシャ、だまっていて、ゴメン。


 キラシャのそんな悲しい顔、見たくなかったンだ。


 だから、家族にも話さないように頼んだンだ。


 一緒に食事したら、すぐに顔に出るからって・・・。


 絶対、キラシャが反対するのわかってた。


 だけど・・・、オレ、何年かしたら、またキラシャに会えるって・・・」


キラシャは、叫んだ。

   
「・・・いつ帰って来れるの!? 


 5年も10年も先のことなんて、あたしにはわかンないよ!


 お願いだから、火星へ行かないで! 


 あたし、ひとりでどうしたらいいンだよ・・・。


 タケルがいたから、勉強できなくても、今までがんばれたのに・・・。


 タケルがいなくなったら、あたし落第だよ・・・。


 ひとりで、上級コースへ進級できないよ・・・」  


タケルは、キラシャを諭すように言った。


「キラシャ。オレだって、がんばって頭に詰め込んでテストに合格して、


 やっと、火星行きが決まったンだ。


 もう、今じゃどうしようもないンだ。


 オレ、今はうまく言えないけど、キラシャにはわかって欲しい。


 いつか、話せる日が来ると思うから・・・」 
 

キラシャは、タケルの頬を伝う涙を見つめた。


タケルには、何か大事なことがあるのだと感じた。


●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇



キラシャのモアのアドバイザーが、「300secまで、残り10secです」と告げた。


「わかった。・・・もう時間だね」


そして、タケルに気持ちを込めて、キラシャは言った。


「タケル、・・・愛してる。


 いってらっしゃい!


 きっと会おうね。


 メールしてよ! 約束だよ!!」


キラシャに涙を見せてしまったのが恥ずかしいのか、

愛してると言われてテレてしまったのか、タケルはうつむき加減で、

涙を乱暴にふき取りながら言った。


「キラシャ、わかった。絶対、忘れやしないよ・・・。元気でな・・・」


その言葉を聞いて、ちょっと満足したキラシャの姿が、ぼんやりとタケルの前から消えた。


●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇 ●◎〇


入れ替わりに、タケルの前に先生の心配した顔が現れた。


タケルは鼻を赤くしたまま、照れくさそうにお礼を言った。


「先生、ありがとう。突然でびっくりしたけど、キラシャと話ができて良かった」


しかし、先生は「今まで断った子に、お詫びのメールを送っておいた方がいいぞ」と注意した。


そうでないと、これがもれたら、みんながキラシャをイジめるから・・・。
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