【R18】どう見てもついて行ってはいけない系のお兄さんにペロッと食べられてしまった私の顛末

レイラ

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本編

04 もう会えない?

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「ほんで帰っちゃったんかぁ」
「そうなんです! 佳菜子はバリバリ働いてて、出張とか多くてなかなか会えないんですよ。時間ができたら彼氏と一緒にいるし。だから今日すっごく楽しみにしてたのに」
「そら残念やったなぁ。いっぱい話したいこととかあったんや?」
「そうです……このあとだって、スパに行く予定だったのにぃ……」
「あはは! そうやったんやぁ! さすがにスパまでは一緒に行かれへんけど、俺はこうやってあやめちゃんとお話できて嬉しいわ。佳菜子に感謝せなあかんなぁ」

 緩い雰囲気で相槌を打っていく藤にどんどんと会話が弾み、あやめはすっかり饒舌になる。
 そして藤とは食事の好みも合うことが判明して、更に盛り上がってしまった。
 こんなにも人と喋ったのはいつぶりだろうか。初対面で、しかも男の人を相手にあやめ自身が信じられない。

「それええやん」
「ほんまに?」
「はは、そら最悪やなぁ」

 なんて、なにを話してもあやめを否定することなく、最後まで感情豊かに聞いてくれる。それが嬉しかった。
 職場の同僚には飲み会で話を振られても、結局は会話を攫われたりマウントをとられたりで、あやめが楽しい時間を過ごせることはそう多くなかったから。
 だから初めに感じていた藤への恐怖心はとっくになくなって、聞き上手な彼にすっかりと心を許してしまっていた。むしろ一緒にいるのが心地よいとさえ感じている。
 お酒が入っていることもあってか、とんでもなく楽しい時間になっていたのだが。

「失礼しまーす! こちらお席が二時間制となっておりまして、そろそろお帰りの準備をお願いしてもよろしいでしょうかー!」

 そう店員に割って入られて、一気に酔いがさめた。
 だが藤は、もうか、早いなぁと伝票を持ち、立ち上がる。

「あっ、藤さん、私払います。藤さん二杯しか飲んでないですよね」
「んー? ほんま? でも一回化粧直ししてき。飲み食いしたから、リップ落ちてるんちゃう?」

 そう促され、鏡を見に行くしかなくなったあやめは鞄を持ち、席を立つ。そして先ほど何気なく言われた、藤の言葉を思い出してしまった。

 ──もう二度と会うこともないやろうし気軽やろ。

 実際、藤がどんな仕事をしているのかは聞いていない。見た目だけで勝手に怖い人だと思い込んでいたが、どうなのだろう。
 藤と一緒に過ごしたのは、一時間ちょっとのわずかな時間。けれどもその間、藤はずっと紳士的だったし、あやめはそんな藤のことをもっと知りたいと思ってしまっている。

 もし経験豊富な佳菜子がこの場にいれば、全力で止めただろう。男慣れしていないあやめを手玉に取るなんて、ちょっと遊び慣れた男からすればなんの造作ないことだ。
 だが今、あやめにそれを説く者はいない。
 化粧室の鏡に映るあやめの顔は、ほんのりと上気した女の顔だった。

「藤さん!」

 店内に戻ったが藤はおらず、店員に聞くと会計も済まされた後だった。すぐに外に出たあやめは、藤の姿を見つけて駆け寄り、財布を取り出す。

「すみません、あの、お金……」
「ちょぉ、あやめちゃんやめて!? こんな道のど真ん中で、なんや俺がカツアゲしたみたいになるやん」
「でも……」
「ええて。もうそれしまっとき。あやめちゃんみたいな可愛い子とお喋りできただけで役得よ。ほら、帰り何線? 駅まで送ったるわ」

 そんなふうにあっさりと背を向けられて、焦ってしまう。時計はまだ八時を過ぎたところで、帰るにはまだ早くはないだろうか。
 だって、てっきりまたあの緩い笑顔を向けられて「二件目いこか」なんて言われることを期待していたから。
 楽しかったのは私だけ? そう思ってしまう自分がいて。

「ぁ、あの! その……クリーニング代も受け取ってもらっていませんし、今の食事代だって……」
「んー?」

 藤は振り返り、立ちすくむあやめの顔を覗き込む。

「あの、だから……もしよかったら、次のお店とか、払わせてもらえたらなって、思って……」
「あはっ! あやめちゃん、まだ帰りたくないんや? えらい悪い子やなぁ」

 そう言って藤は口角を上げ、色付きのグラスの奥で怪しげに目を細めた。

「でも次の店言うてもなぁ。俺もう腹いっぱいやし、今日まだ木曜や。あやめちゃんも明日に響くような飲み方できひんやろ?」
「そう……ですね」
「なぁ。そんな顔、今日初めて会ったみたいな男に見せたらあかんで」
「そんな顔って」
「えらい可愛かいらし、男を煽り散らかす顔やわ。もうそんなん、何されても文句言われへんで。次行くってなったらそうやな……ホテルになるけど、それでもええの?」

 耳元で低く囁かれる、色の含んだ声。そんなものに耐性のないあやめは顔を真っ赤に染めあげて、小さく頷いていた。
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