輪廻を周り、恨みを払う刃となれ

桜桃-サクランボ-

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怨呪

回復能力

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 もう、俺はどうすることも出来ない。ただ食べられるだけだ。

 空中で、銃口を怨呪に向けたまま。引き金を引けないまま。

 ガゥァァァァアアアア!!!!

 耳がいってぇ。頭痛……いや、圧が……。
 くそっ。上下に怨呪の牙、目の前には口内。

「終わった」

 ────グイッ

「なっ────」

 いきなり首根っこを捕まれ、後ろへと引っ張られた? 両腕に強い衝撃と、目の前に血飛沫。
 目の前には赤く濡れた怨呪の歯。赤い雫が飛び、手から滑り落ちた拳銃が地面に落ちてく。

「彰一?」
「間に合ったのか間に合ってないのか。まぁ、お前の場合は間に合ったでいいか」

 あぁ、なるほど。彰一が俺の首根っこをひっぱったのか。
 そのまま流れるように腰に腕を回し抱き寄せられた。はぁ、助かった……。
 まぁ、もう少し早く助けて欲しかったけどな。もうちょっと早かったら、俺の両腕は食べられずに済んだんだけど。助けられた側だから、何も言えねぇわ。

 彰一は俺を抱き寄せながら、店の屋根に着地した。そのまま、長屋の裏口に回り地面へと降りる。
 姿をくらまし、俺を地面へと座らせた。
 
「痛まないんだよな?」
「痛感が壊れてっからな。この状態でもう一人に変わると激痛で気を失うだろうけど」

 改めて見るが……本当に気持ちわりぃな。
 両手首からは大量のドス黒い血が溢れ出てきてる。噛みちぎられられたからか切口はガタガタ。骨が飛び出していたり、肉が血とともに地面に落ちたりと。結構グロいことになっている。

「早く止血しろ」
「簡単に言うなよ」

 彰一は慌てる様子を見せないで、命令口調で言ってきやがった。お前は何もしてくれないのかよ。別にいいけど。

 とりあえず、早く治さねぇと。怨呪がいつまで待ってくれるかもわかんねぇし。
 
 「…………すぅ……ふぅ……」

 腕をと集中しようとした瞬間、俺の右肘あたりにハンカチが巻かれた。ん?

「はっ?」
「少しでも血の流れを遅くすれば早く治るだろ」
「ツンデレって奴か」
「違う──つーか、なんだそれ」
「わかんねぇのに否定したのかよ」

 そんな会話をしながらも、彰一は軍服の肩部分を右手でちぎり、もう片方の腕にも巻き付けてくる。
 血の流れが少し遅くなった気がするな。

「これで早くなおっ──」
「っ気付かれた!!」

 え、マジかよ!! 早すぎだ。
 って、おいおい。なに右足を振り上げてやがる。おい、建物ごと俺達を潰すつもりか。

「逃げるぞ!!­­」
「あぁ!!」

 腕をつかまれ、そのまま走る。あ、腕を噛まれた時に落としちまった拳銃が地面に転がってる。彰一もそれに気づいたのか走りながらそれを拾ってくれた。そして、俺のホルスターにしまうって、流れ作業どうも。

 後ろから建物が崩れる音。

「やっぱりか」

 怨呪が建物を潰していた。それでも、俺達からは目を離さずに鋭い赤い瞳で見てくる。
 その目だけで体が震えそうになっちまうな、くそっ。
 彰一もこの重圧が体に圧し掛かるっているようで、俺を掴んでいる手が震えていた。

 やっぱり怖いのか。

「なぁ、俺達はなんでこの村をあいつから守る必要があるんだ」

 正直、俺が怨呪と戦ってんのは輪廻がこの隊に所属しているのが理由。あとは、俺のストレス発散みたいな感じだ。だから、こんなに強い奴と戦う必要は無い。
 死ぬ必要なんてない。、殺される必要なんてない。

 何故こいつらはここまで必死になるんだ。それが理解できない。

「それは輪廻に聞けよ。僕だって知らない」
「知らないのかよ。なら、なんでお前は妖殺隊に入ってんだ。こんなに命懸けているくせに分からないなんて、そんな事有り得るのか」
「僕がここに居る理由は輪廻だ」
「お前、輪廻が好きなのか?」
「好きだ。だから一緒に居るんだろうが」

 あっさりしてんな。まぁ、この会話は輪廻に聞こえてないからって言うのもあるだろうけど。

「とりあえず、輪廻に死なれたらこっちが困る。だから、早く手を治してくれ」
「命令されんでもそのうち治る」

 そんな会話をしていると、上からなぜかサラサラと砂が落ちてきた。
 ──いや、違う。これ、砂じゃねぇ?!

「投石されてる!」

 叫ぶのと同時に大きい石──いや、岩が俺達に飛んできている!! このままじゃ潰される!

「離れてろ!」
「ふぎゃっ!!」

 彰一に腕を引っ張られ、咄嗟に上げることが出来なかった足が地面に転がっている石に引っかかった。くそ、地面に頭突きしてしまった。

 ────地球と喧嘩しても勝てるわけねぇだろ。よし、まず最初に彰一を殺そう。

 キッと彰一を見ると、腰に巻いている黒いホルスターに両手を伸ばし、二丁の拳銃を取り出すところ。
 グリップをしっかりと握り、右手をこめかみ辺り、左手は胸辺りまで上げ、前に突き出す。銃口は、降ってきている岩へと向けられる。
 ほぅ、岩を破壊するつもりらしいな。だが、あの岩は自分達の数倍の大きさだ。そんな小さな拳銃で破壊なんて無理だろ。

 そう思っていた時にはもう引き金が引かれた。五、六発。

 バンッバンッ バンッバンッバンッ

 壊せるわけが無い。
 腕を修復しているからどうすることもできねぇし。とりあえず、すぐに動けるようにだけ準備しておこう。

 ────って、あぁ?

 彰一から放たれた弾が当たった岩は、意図も簡単にヒビが入り、俺達に当たる前に砕けた。

「さすが上級」
「どーも」

 そういえば彰一って、輪廻の一つ上の上級ってやつだったな。自分で言って思い出したわ。

「油断している暇はないぞ。僕の弾はお前と違って数が限られてんだ。僕が強いからって頼りすぎるなよ」
「安心しろ。仮にお前が本当に強かったら、今頃あいつは地面に突っ伏している」

 俺の言葉で苦笑いを浮かべる彰一を無視して、怨呪を見る。こいつに構っている時間が勿体ねぇし。

「次の投石にはまだ少し時間がかかりそうだな」

 さっきの岩は太い尻尾で地面を抉って投げたらしい。今はそれの準備中という感じか。また地面を尻尾で掘り、抉り出している。

 そっちが準備中なら、こっちも準備させてもらう。

 さっきから治したくても治せなかった腕に、今度は目を閉じ集中。
 今も結構な量の血が流れてるが、それは気にしなくてもいいな。治せば自然と止まるし。

 息を吸い、そして吐く。
 それを同じ感覚で繰り返していると、切口の肉や筋、血管などが動き出した。そして、動き出した血管などは徐々に手の形を作っていく。

 いつの間にか血も止まり、指先まで完全に形が整うと、肉や血管などを隠すように皮が張り巡らされ、元通りの人間の手になった。

「何度見ても気持ち悪いな」
「俺は何回腕を取られたことになってんだよ、お前の脳内で」

 手を握ったり開いたりと、動作を確認するが異常はない。
 感覚も戻ってきたし、これならまだ戦える。

「よし、あっちも準備が整ったようだし、第二ラウンド始めますか」
「だいにらうんど……。お前は時々変な言葉使うな。まぁ、どうでもいいけど」

 怨呪は地面を抉り出すことに成功したようで、太い尻尾を高く上げ、岩同然の土の塊を俺達に投げた。

 よし。同じ攻撃なら──

「今度は、俺が破壊してやる」
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