輪廻を周り、恨みを払う刃となれ

桜桃-サクランボ-

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妖裁級

決着?

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 静かで冷静な声が、この殺伐とした空気を変えた。すごく冷たく、大きな声を出しているわけでは無いのにこの広い部屋に響き渡ったような気がした。

 ────誰だ?

「…………ちっ」

 なんだよ。いきなりどうしたんだ? 京夜が素直に身を引いた?

「ごほっ、げほっ。何が起きた」
「あともう少しで祓えたっつーのに」
「いや、祓うんじゃねぇわ。不貞腐れんな餓鬼」

 あ、やべっ。つい本音が──ごほっ?! こんの糞ガキ……。残った竹刀を握り、無理やり抜き取りやがった。

 体に力が入らねぇ、床つめてぇなぁ。いや、早く傷を治さねぇと……。

「げほっがはっ──殺す」
「受けて立つ。あと、俺は餓鬼じゃねぇぞ。少なくともお前よりは年上だ。覚えてろよ餓鬼。ニシシッ」

 そんな嘘吐いてんじゃねぇわ、ざけんな。俺より大人とかぜってぇ嘘だろうが!!

「京夜。まずは傷の手当てだよ。あと、これらを処理して」

 出入口からか。あ? 本当に誰だこの優男。京夜と同じ妖裁級か? それにしては見覚えねぇが。
 つーか、なにを指してんだ? いや、なにかに触れてるみたいな動きだな。人差し指で何かを弾いているような。

「んん?? なんだこれ……」

 よく見ると何か光っているな。なんだあれ──糸?

「ワイヤーですよ」
「ワイヤー?」

 俺の独り言が聞こえたのかよあの優男。耳いいな。

 指摘された京夜は、なぜか素直に左手を袖から出した。めっちゃ素直じゃねぇかよ。誰にでも反抗的なのかと思ってたわ。

 左手で握ってんのって、拳銃? いや、普通の拳銃じゃねぇな。銃口から何本もキラキラと輝く糸──ワイヤーが垂れている。
 引き金を引くと、周りに散りばめられていたワイヤーが一瞬にして引っ込みやがった?!

 なんだこれ? すげぇ。一家に一台欲しいくらいの吸引力だな。それがもっと大きかったら、怨呪そのものを吸い込めんじゃねぇの。

「さて、まずは手当てだけれど。何もしなくても治るのかな?」

 いっ、つのまに、隣まで来てやがった。さっきまで出入口にいたじゃねぇかよ。しかも勝手に傷口を触るな。心臓が口から飛び出でるところだった、今もバクバクしてやがる。

 どこまでの情報を知っているんだよこいつ。いや、報告書がどうだかって後ろの女が言ってたな。報告されてんのかよ。なんで俺のことを報告すんだよ意味ねぇだろうが。そんなことしてる暇あんなら、怨呪について報告しろや。
 
 …………近くで見ると、結構な美形だと分かる容姿だな。銀髪を腰まで伸ばしているが、邪魔じゃねぇの? 俺も人の事言えねぇけど。いや、邪魔だから後ろに一つで結んでんのか。
 って、隊服じゃない? 普通の深緑色の着物。今日は非番だったのか?

「妖殺隊じゃねぇの?」
「そうだね。まずは自己紹介をしようかな。私は妖殺隊に所属し、妖裁級に配属されている隊員。名前は凛月静夜りつせいや。よろしく頼むよ怨呪君。いや、さんかな」
「どっちでもいいわ。俺を怨呪と呼ぶな。人間ではない何かと呼べ」

 つーか、普通に隊員だったわ。そこだけ強調して自己紹介する静夜。
 根に持ってんのか? 表情じゃわからん。なんで、ずっと微笑みながら話すんだよ気持ちわりぃな。

 後ろでずっと見ている殺気立った笑みを浮かべている奴と似てるな、雰囲気が。怒らせたらやべーってのは分かる。気をつけるか、死にたくねぇし。

「静夜。これは新入隊員の強さを確認していたもの。殺す気はなかったよ。まぁ、京夜のはやりすぎだけど」

 鈴里が代わりに説明してくれた。ありがたい。でも、柔らかい口調だけど、なんか焦ってんのか……? 静夜って奴はそんなにヤバいやつなのか? 京夜もすぐに手を離したし。

「それはわかっているよ。本当に祓う気なら、もうとっくにだろうしね」

 待て、聞き捨てならない言葉が──俺の事ガン無視で周りを見回し始めやがったコノヤロウ。

「今日はこれで解散しよう。これ以上隊同士で殺りあっても意味は無いからね。怪我した人は医務室へ。他の者は見回りに」

 静かに指示を出すと、今回あまり関わっていなかった人達がぞろぞろと外へと出て行った。
 ここに残ったのは梓忌、鈴里、和音、彰一、俺の五人。あと、そう指示をした静夜。

「和音と鈴里は彰一を医務室へ。梓忌は輪廻の監視。輪廻は怪我が治るまではそのままの方がいいのかな?」
「俺の自由だ」

 んで、結局呼び捨てね。いいけどよ。

「そうだね。それじゃ、私は失礼するよ」

 当たり前のように出ていったな……。
 なんだったんだよあいつ。ムカつくな。

 それに、なぁんか怪しい。なにか隠してる感じだし。何を隠している?
 つーか、表情筋死なねぇのあれ。疲れそうだな。

 まぁ、どうでもいい、もう、全てがどうでもいい。つっかれたぁあ。
 傷はもう治ったし、両手を支えにして天井を見上げ一息。まったく、なんだかなぁ。

 あ? 和音と鈴里が二人で彰一の腕を自分達の肩に回して出ていった。
 ここに残ったのは、俺の監視と言われた梓忌だけだ。いつの間にか京夜もいなくなってっし。

「お前はどこか行かねぇの?」
「監視を頼まれたからな」
「真面目かよ」

 監視って、俺は何もしねぇっての。

「そういや、あのチビ。あれはあいつの本気では無いだろ」
「なぜそう思う」

 なぜって言われてもな。

「スピードに身体能力。機動力を生かした戦闘が得意に見える。それに加え、先読み能力も高そうだ。そんな奴が、俺に手を焼くはずがねぇ」
「なるほどな。確かにあいつは機動力重視の戦闘だ。身長が低いため、腕力が無いからな」

 確かに身長は小さかったが、それを活かせてんならどうでも良くね?
 刀とワイヤーの戦術。あれは拘束にも使えそうだしな。

 今回はワイヤーを足場にして、空中移動を可能にしていたのか。室内だったから、壁にワイヤーを張り巡らせ足場にしたということだろう。
 外だと使えない戦術だ。森とか、障害物が多かったら別だろうが。

「次こそ勝つ」
「無理だ」

 おい、俺の決意を一瞬にして消し去るんじゃねぇわ。分かっとるっつーの。

「次だっつーの。今は確実に勝てねぇのはわかるわ」
「そうか」

 なんか、こいつ疲れるな。

 とりあえず、怪我したところは治ったか。これで輪廻も文句ねぇだろ。

 にして、本当につっかれたぁ。もう、妖裁級とはぜってぇにやらねぇ。
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