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妖裁級
任務
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『輪廻。そっちに向かったぞ』
「了解!!」
長屋の屋根の上。耳には伝達機を付け走り、彰一の声に従い上を向くと言葉通り。今、私達が追いかけている討伐対象が優雅に空を羽ばたいていた。
頭が二つ付いている鴉。通常の大きさの何十倍。翼を羽ばたかせるだけで、バサッと言う大きな音が響く。目は黒く鋭いから、威圧感が半端じゃない。
それに、何故かここ最近肩こりなのか。なんか体が重たい。なにこれ、やめてよ。戦闘に支障をきたすじゃん。今は怨呪に集中したいのに。
「怨呪を発見、浄化します」
肩こりとかはどうでもいいし、もう一人の私に入れ替わらないと。
走りながらだとバランス崩すし怖いんだよなぁ。でも、怨呪から離れる訳にもいかないし。もう一人の私に託そう。無駄に怪我はしないでね――……
「──殺るか」
おっと、走りながらだったか。あっぶねぇな。咄嗟に右足を前に出したから転倒を防ぐことが出来た。俺の反射神経すげぇ。
今回のは、上で優雅に空の散歩を楽しんでいるデカブツか。空を飛んでっからいつものように上からたたきつける感じに切ることはできそうにないな。この距離なら撃った方がよさそう。
ホルスターには弾の入っていない小型拳銃。何発か当てれば必ず落ちてくるだろ。まずは落としてやるよ。そしたら、刀で終わりだ。
んー、走りながら上を狙うのは難しいな。普通にぶれる。
「まずは前に出るか」
前にはまだ道が続いてる。姿勢を低くして、風の抵抗を無くし前に。怨呪は俺達には一切興味がないらしいし、簡単に抜かせる。
「うし、前に出た。まずは俺のところに来てもらうぞ」
バン バン バン バン
キュィィイイイイイイイイン!!
胴体に二発、両翼に一発ずつ。計四発、命中した。
かんだけぇんだよ鳴き声。いや、”泣き”声か。
「落ちてきたな」
拳銃をホルスターに戻し、刀に切り替えるか。地面に頭から落ちてっし、まずはその頭を胴体から切り離してやるよ。
姿勢を低く、腰を落とし屋根をえぐるくらい足に力を込める。その際、少しでも刀の切れ味を鈍くしないよう、事前に左手の親指で鍔を柄の方向に押し出しておく。よし、準備は整った。
一歩で、近づいていやる。
――――ザシュ
鞘から刀を出す勢いのまま、怨呪の首を横一線に切り落とすことに成功。
「あぁ、そうか。お前は自由になりたかったのか。それで空を飛びたかったんだな。だが、恨みの吐きどころを間違えるな」
自由になりたきゃなればいいだろうが。あ、でも俺も自由になりたくてもなれねぇからお互い様か。まぁ、とりあえず浄化する。気持ちはわからんでもねぇが、寄り添ってやるわけにもいかねぇ。寄り添うつもりもねぇけど。
頭を切り落としたから、次は同体だ。
「終わりだ」
再度地面を蹴り、三枚おろしのように怨呪の胴体を切る。
「うし、完了」
後ろから、地面にたたき落された怨呪の音。土埃が舞ってんな。まぁ、相当でかかったし、仕方がねぇか。
「ちっ、まだ飛ぼうとしてやがる。胴体じゃなくて、翼を切り落としてやった方が諦めたんかねぇ。まぁ、もうお前は飛べねぇよ。回復能力がねぇお前にはな」
癒白玉をお前に投げてやるよ。これで浄化されろ。そして、また生まれ変わった時は、本当の自由を求めやがれ。
「怨みは浄化し、恨みは制圧せよ。我々妖殺隊により、安らかに眠れ」
投げた癒白玉は白く輝き、怨呪を優しい光で包みこんでいく。
最初は甲高い鳴き声が聞こえていたが、徐々に静かになっていき、そのうち聞こえなくなる。
光の中からは、小さな雛鳥が血を流し絶命している姿が出てきたな。
「なぜ、動物ばかりに怨みが集まる」
「怨呪についてはお前の方が知ってんじゃねぇの?」
「うおい!?!?!? いいいいいきなり現れんじゃねぇよびっくりするだろうが!!」
「その声に僕が驚いたわ!!」
逆切れかよおい!! いつの間に戻ってきていたのかよ彰一てめぇ。
「たくっ、んな事ねぇわ。俺は俺自身についても分かってねぇ。他の怨呪について分かるわけねぇだろうが」
はぁ、疲れた。後始末はあいつに任せる。
……なんか、今日は体がいつもよりスムーズに動いたな。なんか、こう、いい。なんでだ? まぁ、いいか。俺は休む。あとは、任せたぞ。
「────終わったんだね」
「ああ」
終わったんだ。周りは……あ。今回はそんなに建物とか壊されてない。良かった。地面に小さな雛鳥が死んでいるだけ。
「今回も、助からなかったんだね」
「お前が殺したからな」
「殺したんじゃないもん。浄化したんだもん」
そんな言い方ひどい!! でも、どんなに言葉を選ぼうと目の前にある現実は変わらない。言葉を、現実を逸らす道具に使ってはいけない。現実から、逃げないようにしないと。
地面で絶命している雛鳥。ここにいたら、踏まれちゃうかもしれない。
「それを拾ってどうすんだよ」
「違う所に埋めてあげようと思って。ここだと踏まれちゃうかもしれないし。もっと安全な場所に」
と言っても、どこに埋めようかなぁ。まぁ、ここじゃなければいいか。とりあえず、どこかいい所を探すため歩こう。
彰一も静かに私の後ろを付いてくる。別に、付いてこなくても大丈夫なんだけどなぁ。
「ねぇ、彰一」
「なんだ?」
「この世界は、なんでこんなに怨みで埋め尽くされているんだろう」
怨みに憎しみ。怒りや悲しみ。
そのような感情が集まり、怨呪という化け物が生まれる。それによって、罪のない動物が死んでしまう。
どこから怨呪という化け物が現れ、いつから人は化け物に襲われる恐怖を感じて生きてきたんだろう。誰かが怨呪という化け物を作り出したのか。それとも、作り出されてしまったのか。
こう考えるとわからないことだらけだ。この世界について。誰か、知っている人とかいるのかな。
「人は人を恨む生き物だ。僕達も人を恨むな、怒るなとか無理だろ」
「そうだけど……」
まぁ、確かにそうなんだよな。前、彰一が妖裁級に所属している幡羅京夜さんに足蹴されていた時とか、頭に血が上っちゃったし。感情があるのだから、仕方がない。
わかる、わかるんだけど。それでも、やっぱりこんなの嫌だ。
動物が無駄に死んでいくのを見るのは可哀想。それに、なんで動物なのかも分からないし、人しか襲わない理由も分からない。
「謎ばかりだ。こんな世界。無くなればいいのに……」
※
大きな鳥型の怨呪を倒してからというもの、なんか体がだるい気がする。
今は、妖雲堂の自室でベッドに寝っ転がってる。
今日は任務もないし、特訓も正直やる気になれない。
「はぁ。なんだか、疲れちゃったなぁ。今までこんなに疲れたこと無かったのに」
体が重い。何かがのしかかっている感じだ。肩こりだなこれ。うん、だって肩痛いもん。辛っ。あと、首。痛い。
コンコン
ん? ドアからノック音。誰か来たのかな。
「はぁい」
ワイシャツにスカートと簡易的な服装だけど、まぁ誰に見られても問題は無いかな。
「おまたせしまし――あ、きひと? え、怪我?」
「いや、これは全部返り血だ」
あ、そうなんだ。頭から流れてんのかと思ったよ。あせったなぁ。
でも確かに。よく見ると、傷はない。今日も任務だったのか。
「お風呂行かないの?」
「これから行く。けど、それより少し気になったから」
「気になった? 何が?」
何が気になって私の部屋に?
彰一は顔に付着している血を自身の袖で拭いながら、目線を私の胸辺りに──
「…………へへへへへへへ変態!!!!」
「ぶっ?! なんでだよ!!!」
いや、だって!! む、胸を見られたらそりゃ顔面殴るでしょ!! 最低!!
「私の胸を見て欲情しないでくれる?!」
「お前みたいな崖を見てもなぁ──いや、申し訳ない。大丈夫だ。お前はまだこれからだ」
「うっさい!!!」
いや、再度私の胸をさすな!! 訴えるぞこら!!
「また殴られたいのか……あ。もしかして、私の胸じゃ無くて──」
「僕はもっと膨らみがある人の方がいいわ。崖を見ていたところで意味は無い。僕は首飾りを見ていたんだよ」
ぐっ、言い返せない。今回は私の勘違いだったわけだし。でも、この怒り。どこにぶつけようか。
「その首飾り。やばくねぇか?」
「──えっ?」
いや、確かにあの一件から私、なんだか体が重くなって──えっ?
てか、いきなりなんで?
「了解!!」
長屋の屋根の上。耳には伝達機を付け走り、彰一の声に従い上を向くと言葉通り。今、私達が追いかけている討伐対象が優雅に空を羽ばたいていた。
頭が二つ付いている鴉。通常の大きさの何十倍。翼を羽ばたかせるだけで、バサッと言う大きな音が響く。目は黒く鋭いから、威圧感が半端じゃない。
それに、何故かここ最近肩こりなのか。なんか体が重たい。なにこれ、やめてよ。戦闘に支障をきたすじゃん。今は怨呪に集中したいのに。
「怨呪を発見、浄化します」
肩こりとかはどうでもいいし、もう一人の私に入れ替わらないと。
走りながらだとバランス崩すし怖いんだよなぁ。でも、怨呪から離れる訳にもいかないし。もう一人の私に託そう。無駄に怪我はしないでね――……
「──殺るか」
おっと、走りながらだったか。あっぶねぇな。咄嗟に右足を前に出したから転倒を防ぐことが出来た。俺の反射神経すげぇ。
今回のは、上で優雅に空の散歩を楽しんでいるデカブツか。空を飛んでっからいつものように上からたたきつける感じに切ることはできそうにないな。この距離なら撃った方がよさそう。
ホルスターには弾の入っていない小型拳銃。何発か当てれば必ず落ちてくるだろ。まずは落としてやるよ。そしたら、刀で終わりだ。
んー、走りながら上を狙うのは難しいな。普通にぶれる。
「まずは前に出るか」
前にはまだ道が続いてる。姿勢を低くして、風の抵抗を無くし前に。怨呪は俺達には一切興味がないらしいし、簡単に抜かせる。
「うし、前に出た。まずは俺のところに来てもらうぞ」
バン バン バン バン
キュィィイイイイイイイイン!!
胴体に二発、両翼に一発ずつ。計四発、命中した。
かんだけぇんだよ鳴き声。いや、”泣き”声か。
「落ちてきたな」
拳銃をホルスターに戻し、刀に切り替えるか。地面に頭から落ちてっし、まずはその頭を胴体から切り離してやるよ。
姿勢を低く、腰を落とし屋根をえぐるくらい足に力を込める。その際、少しでも刀の切れ味を鈍くしないよう、事前に左手の親指で鍔を柄の方向に押し出しておく。よし、準備は整った。
一歩で、近づいていやる。
――――ザシュ
鞘から刀を出す勢いのまま、怨呪の首を横一線に切り落とすことに成功。
「あぁ、そうか。お前は自由になりたかったのか。それで空を飛びたかったんだな。だが、恨みの吐きどころを間違えるな」
自由になりたきゃなればいいだろうが。あ、でも俺も自由になりたくてもなれねぇからお互い様か。まぁ、とりあえず浄化する。気持ちはわからんでもねぇが、寄り添ってやるわけにもいかねぇ。寄り添うつもりもねぇけど。
頭を切り落としたから、次は同体だ。
「終わりだ」
再度地面を蹴り、三枚おろしのように怨呪の胴体を切る。
「うし、完了」
後ろから、地面にたたき落された怨呪の音。土埃が舞ってんな。まぁ、相当でかかったし、仕方がねぇか。
「ちっ、まだ飛ぼうとしてやがる。胴体じゃなくて、翼を切り落としてやった方が諦めたんかねぇ。まぁ、もうお前は飛べねぇよ。回復能力がねぇお前にはな」
癒白玉をお前に投げてやるよ。これで浄化されろ。そして、また生まれ変わった時は、本当の自由を求めやがれ。
「怨みは浄化し、恨みは制圧せよ。我々妖殺隊により、安らかに眠れ」
投げた癒白玉は白く輝き、怨呪を優しい光で包みこんでいく。
最初は甲高い鳴き声が聞こえていたが、徐々に静かになっていき、そのうち聞こえなくなる。
光の中からは、小さな雛鳥が血を流し絶命している姿が出てきたな。
「なぜ、動物ばかりに怨みが集まる」
「怨呪についてはお前の方が知ってんじゃねぇの?」
「うおい!?!?!? いいいいいきなり現れんじゃねぇよびっくりするだろうが!!」
「その声に僕が驚いたわ!!」
逆切れかよおい!! いつの間に戻ってきていたのかよ彰一てめぇ。
「たくっ、んな事ねぇわ。俺は俺自身についても分かってねぇ。他の怨呪について分かるわけねぇだろうが」
はぁ、疲れた。後始末はあいつに任せる。
……なんか、今日は体がいつもよりスムーズに動いたな。なんか、こう、いい。なんでだ? まぁ、いいか。俺は休む。あとは、任せたぞ。
「────終わったんだね」
「ああ」
終わったんだ。周りは……あ。今回はそんなに建物とか壊されてない。良かった。地面に小さな雛鳥が死んでいるだけ。
「今回も、助からなかったんだね」
「お前が殺したからな」
「殺したんじゃないもん。浄化したんだもん」
そんな言い方ひどい!! でも、どんなに言葉を選ぼうと目の前にある現実は変わらない。言葉を、現実を逸らす道具に使ってはいけない。現実から、逃げないようにしないと。
地面で絶命している雛鳥。ここにいたら、踏まれちゃうかもしれない。
「それを拾ってどうすんだよ」
「違う所に埋めてあげようと思って。ここだと踏まれちゃうかもしれないし。もっと安全な場所に」
と言っても、どこに埋めようかなぁ。まぁ、ここじゃなければいいか。とりあえず、どこかいい所を探すため歩こう。
彰一も静かに私の後ろを付いてくる。別に、付いてこなくても大丈夫なんだけどなぁ。
「ねぇ、彰一」
「なんだ?」
「この世界は、なんでこんなに怨みで埋め尽くされているんだろう」
怨みに憎しみ。怒りや悲しみ。
そのような感情が集まり、怨呪という化け物が生まれる。それによって、罪のない動物が死んでしまう。
どこから怨呪という化け物が現れ、いつから人は化け物に襲われる恐怖を感じて生きてきたんだろう。誰かが怨呪という化け物を作り出したのか。それとも、作り出されてしまったのか。
こう考えるとわからないことだらけだ。この世界について。誰か、知っている人とかいるのかな。
「人は人を恨む生き物だ。僕達も人を恨むな、怒るなとか無理だろ」
「そうだけど……」
まぁ、確かにそうなんだよな。前、彰一が妖裁級に所属している幡羅京夜さんに足蹴されていた時とか、頭に血が上っちゃったし。感情があるのだから、仕方がない。
わかる、わかるんだけど。それでも、やっぱりこんなの嫌だ。
動物が無駄に死んでいくのを見るのは可哀想。それに、なんで動物なのかも分からないし、人しか襲わない理由も分からない。
「謎ばかりだ。こんな世界。無くなればいいのに……」
※
大きな鳥型の怨呪を倒してからというもの、なんか体がだるい気がする。
今は、妖雲堂の自室でベッドに寝っ転がってる。
今日は任務もないし、特訓も正直やる気になれない。
「はぁ。なんだか、疲れちゃったなぁ。今までこんなに疲れたこと無かったのに」
体が重い。何かがのしかかっている感じだ。肩こりだなこれ。うん、だって肩痛いもん。辛っ。あと、首。痛い。
コンコン
ん? ドアからノック音。誰か来たのかな。
「はぁい」
ワイシャツにスカートと簡易的な服装だけど、まぁ誰に見られても問題は無いかな。
「おまたせしまし――あ、きひと? え、怪我?」
「いや、これは全部返り血だ」
あ、そうなんだ。頭から流れてんのかと思ったよ。あせったなぁ。
でも確かに。よく見ると、傷はない。今日も任務だったのか。
「お風呂行かないの?」
「これから行く。けど、それより少し気になったから」
「気になった? 何が?」
何が気になって私の部屋に?
彰一は顔に付着している血を自身の袖で拭いながら、目線を私の胸辺りに──
「…………へへへへへへへ変態!!!!」
「ぶっ?! なんでだよ!!!」
いや、だって!! む、胸を見られたらそりゃ顔面殴るでしょ!! 最低!!
「私の胸を見て欲情しないでくれる?!」
「お前みたいな崖を見てもなぁ──いや、申し訳ない。大丈夫だ。お前はまだこれからだ」
「うっさい!!!」
いや、再度私の胸をさすな!! 訴えるぞこら!!
「また殴られたいのか……あ。もしかして、私の胸じゃ無くて──」
「僕はもっと膨らみがある人の方がいいわ。崖を見ていたところで意味は無い。僕は首飾りを見ていたんだよ」
ぐっ、言い返せない。今回は私の勘違いだったわけだし。でも、この怒り。どこにぶつけようか。
「その首飾り。やばくねぇか?」
「──えっ?」
いや、確かにあの一件から私、なんだか体が重くなって──えっ?
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