素晴らしい世界に終わりを告げる

桜桃-サクランボ-

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コウショウとアネモネ

第45話 待っている

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 徐々に崩れる屋敷、少しでも足を止めると瓦礫に埋もれてしまう。
 愛実はもう息が切れ切れ、口の中に血の味が滲み、足は鉛が付いているように重い。

「はぁ、はぁ――――きゃ!?」

 ――――ドテッ

 疲労が蓄積し、足が上がらない。
 とうとう愛実は、床に転がる瓦礫に足が引っかかり転んでしまった。

 すぐさま、コウヨウが愛実を抱え、屋敷を走る。

「あ、ありがとう」
「もう少しで屋敷を出れるはずだ。外に出れば出口はあともう少し、頑張ってくれ」

 抱き上げられている為、コウヨウの顔が近い。
 息も乱れておらず、涼しい顔を浮かべ走るコウヨウを思わず見つめる。

 彼の横顔が、昔の少年と重なる。
 目の色と雰囲気が異なるが、それでも、面影がある。

 ――――私の、初恋相手に。

「愛実」
「は、はい!!!」
「? どうした?」
「なんでもありません!」

 いきなり目が合い、声をかけられ、愛実は顔が真っ赤となり挙動不審となる。
 不思議に思ったコウヨウだが、深くは聞かずに前を向き直した。

「あともう少しで外に出る。何があるかわからないから絶対に俺から離れるなよ」

 真っすぐ走りながら言うコウヨウに、愛実は戸惑いながらも「う、うん」と、小さく頷いた。
 すぐに目を逸らし、顔を俯かせた。

 今、コウヨウを直視してしまえば、愛実は平静を保てない。
 こんな所で初恋だの、かっこいいや素敵などと言った、浮ついた気持ちは出してはいけない。
 早く、気持ちを落ち着かせなければと思い、愛実は深呼吸した。

 前を向くと、聞こえてはいけない。聞きたくない大量の呻き声が、前方から近づいて来る。
 思わず、コウヨウに縋る愛実。
 コウヨウは、後ろを振り向き、あとどのくらい屋敷が持つかを確認した。

「――――愛実、まだ走れるか?」
「え」
「俺が道を作る。絶対に離れず、ついて来てほしい」

 コウヨウがどれだけの身体能力を持っているのかは、愛実も知っている。
 そのため、コウヨウについて行くことができるか不安になり眉を下げた。
 だが、ここで不安に思っていてもここから抜け出せない。

 覚悟を決め、愛実は大きく頷いた。

「安心しろ。必ず、俺が守る」

 言いながら、足を止め直ぐに愛実を床に下ろした。
 後ろからは瓦礫が降る音。前からは、呻き声。

 コウヨウが刀の準備を終え、一歩、前に足を踏み出した。
 すると、タイミングを計ったかのように死者が廊下を埋め尽くすくらいの人数で襲ってきた。

「ひっ!!」
「絶対に俺から離れるな!!」

 言いながらコウヨウは駆けだした。
 雷のごとき速さで、前から迫りくる死者を吹っ飛ばし、殺す。

「早く来い!!」

 コウヨウの声で我に返った愛実は、頷きながら走り出した。
 しっかりと来たことを確認すると、コウヨウはまだ迫りくる死者を切り伏せながら廊下を走った。

 すると、死者の隙間から屋敷の外に繋がるドアが見え始めた。

「最後まで気を抜くな!」
「はい!」

 死者を切り伏せ走ると、屋敷の外へと脱出できた。
 だが、本当に外なのか疑ってしまう程に、暗い。

 空を見上げても、闇が広がるだけで星や月はない。
 愛実は前を走るコウヨウから離れないように周りを見ていると、木が立ち並んでいることを知る。

 今までいた屋敷は、木に囲まれた森の中に建っていた事が今になってやっとわかった。
 自然豊かな道だが、今は景色を楽しむ余裕はない。

 まだ、後ろから呻き声が聞こえる。
 油断すれば追いつかれ、殺される。

 コウヨウから離れず自然に囲まれた道を走っていると、目の前に崖が現れてしまった。

「うそ!!」

 コウヨウが足を止め、横に手を伸ばし愛実が落ちないように支えた。

「崖があるなんて……。しかも、底が見えない。どうするの?」

 愛実の問いかけに、コウヨウは答えない。
 腕を下ろし崖に近付き、底を見た。

 風が舞い上がり、コウヨウの黒い髪を揺らす。
 左右非対称の瞳を細めると、何を思ったのか立ち上がり奥を見た。

 崖の奥は霧が漂っており、道があるのかわからない。
 崖を何とか乗り越えても、先に現実への道が繋がっているのか、今は確認すら出来ない。

「コウヨウ?」

 愛実は、後ろから聞こえる呻き声がどんどん大きくなり焦る。
 彼女が名前を呼ぶとコウヨウは振り返り、愛実を抱きかかえた。

「え、コウヨウ?」
「覚悟を決めろ、愛実。この先にあるのは、闇。その奥には、光が待っている」
「え?」

 コウヨウが何を言っているのか理解する前に愛実の身体に圧力がかかる。
 コウヨウが、崖に向かって走り出していた。

「え、待ってコウヨウ。そっち、崖っ――――!?」

 コウヨウは、崖に向かって走る。

「いくぞ!!」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 コウヨウは、崖から跳んだ。
 愛実は悲鳴を上げ、そのまま重力に逆らう事が出来ず落ちる。

 もう駄目だと、愛実は強く目を閉じた。
 だが、闇からは一粒の光が見え始めた。

 二人を包み込んだかと思えば、光に包まれ二人の姿が消えてなくなった。
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「先生!! 半年間眠り続けていた患者さんが目を覚ましました!!」
「なんだって!? 今すぐに行く!!」
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