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犬宮賢と怪異
『俺様が全てを奪い取るからだ』
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声が出ない、体が動かない。
ただ、目の前で心臓を貫かれている黒田を見る事しか出来ない。
「く、ろだ、さん?」
――――グシャッ
飛縁魔の手が抜けると、支える物がなくなり黒田の身体は重力に逆らうことなく床に倒れ込む。
赤く染まった手を一舐めし、飛縁魔は勝ち誇ったような顔を浮かべ動かなくなった黒田を愉快そうに見下ろした。
「――――えっ」
だが、すぐにその顔は困惑へと切り替わった。
笑っていた口元は困惑に歪み、焦るように視線を辺りへさ迷わせる。
汗がブワッと噴き出し、体をガタガタと震わせた。
「首無しの首が、ない?」
胴体と頭が離れ倒れ込んだのはわかっていた。
だが、何故か地面に転がっているのは胴体のみ。
黒田の頭が、どこにもなかった。
「な、なんで。頭、どこ?」
焦っていると飛縁魔の後ろに気配を感じ、勢いよく振り返る。
だが、そこには誰もいない。
「な、何が――――っ!!!」
何が起きたのかわからない飛縁魔は、油断をしてしまった。
首無しの頭が無い事に困惑していたのもあるが、まだ首無しという怪異が生きていることが頭から抜けてしまっていたのだった。
後ろから黒田の胴体が飛縁魔に抱き着き、身動きを止める。
力の差は歴然、逃げる事が出来ない。
動けないでいると、上から黒田の頭が降ってきた。
白い八重歯を見せ、怪しく笑う黒田の顔。
『せっかくのチャンスを逃したなぁ、おんなぁぁぁあ』
っ、この、地を這う異様な声色、口調。
これは一度、探偵社で聞いたことがある声だ。
心優の頭に過るのは、黒田が探偵社で一度、首無しに呑まれかけた時の光景。
全てが変わり、恐怖が体を包み込む。
――――今の黒田は、黒田ではない。
止めなくても良いのか、声をかけなくていいのか。
また前のように止めるかと思いきや、隣にいる彼を見るが止める気ゼロ。
それどころか、わかっていたとでも言うような表情を浮かべ、二人を見ていた。
『まったく……。せっかく俺様がおめぇにも勝つチャンスを与えたってえぇのによぉ。――――いや、チャンスを与えたのは俺様ではなく、黒田朔の方か。まっ、どっちでもいいな』
怯える飛縁魔を目に、豪快に笑いながら頭をフヨフヨと浮かばせる。
『黒田朔は、人間と共に過ごしすぎちまった。恨みが薄れ、人間のようになっちまったぁ』
その場にいる四人の頭上を飛び回り、過去を振り返るように黒田――――首無しは話し出す。
『昔に培った陰陽術により、俺様を封じ込め。恨みを忘れ、人間の世界で悠々と生きている。そのおかげで俺様は退屈で、退屈で……』
げんなりとした表情を浮かべため息を吐く首無しだったが、すぐに笑顔へ切り替わり飛縁魔を見下ろした。
『だがな、黒田は俺様に、なぜか賭けを持ちかけたんだぞ。さすがに驚いた』
「か、賭け?」
やっと出た飛縁魔の言葉はか細く、今にも消えそうに弱い。
『「俺が賭けに負けたら、お前が好きに飛縁魔を扱ってもいい」と、な』
「なっ、まさか…………」
『わかったらしいな、そうだ。自身が負けようと、勝とうと。黒田は最終的にはおめぇを殺す事しか考えてないらしいぞ』
「そ、そんな……。あ、あんたはいいの!? そんな、駒のような生活を送ってさぁ!!」
今の言葉に、首無しの表情は一瞬にして真顔になる。
だが、すぐ白い八重歯を見せ、豪快に笑いだした。
『あーっはっはっはっはっはっ!!! その質問、実に面白い。おめぇには、今の俺様がこいつの駒になっていると? そう言っているんだなぁ?』
闇に浮かび上がる赤い瞳がきらりと光り、飛縁魔を楽し気に見下ろす。
氷よりも冷たいその瞳で、飛縁魔は自身が放ってしまった言葉に後悔するが、もう遅い。
『黒田朔という人格は、実に面白い物だぞ。俺様はこの世界に退屈していたんだが、突如俺様を抑え込むほどの力を陰陽寮で培い、抑え込んできたんだ。憎かったが、それと同時に面白くてなぁ』
そこで一度、間を開ける。
飛縁魔が首無しを見上げ次の言葉を待っていると、見えない所から糸が噴射。彼女の両手両足を縛り付けた。
『仮に、俺様を抑え込めない程に力が弱れば、黒田朔の人格は無くなる。なぜかって? 俺様が全てを奪い取るからだ』
ギリギリと、嫌な音を鳴らし糸が飛縁魔の四肢を引っ張る。
何とか耐えるが、このまま強められてしまえば骨は外れ、肉は裂け引きちぎられる。
「っ、わ、私が死ねば、桜花雫も死ぬわよ! いいのかしら!」
汗を滲ませ、最後のあがきというように叫ぶ飛縁魔を見下ろし続け、首無しはちらっと犬宮を見た。
視線を受け取り、彼は「やっとか」と、めんどくさそうにため息を吐きつつも立ち上がる。
黒い髪をわしゃわしゃと掻き、ポケットに手を突っ込んだ。
「安心してよ、死なないから」
「ど、どういう意味よ…………」
「こっちも、もう手を打っているって事。そっちだけが準備満タンなわけないでしょ。無名だろうと探偵社、舐めるなよぉ~」
……………………セリフ、かっこいい。
うん、犬宮さん、セリフはかっこいいですよ、これは本当です。
ですが、態度が勿体ないです。
だって、気だるげなんですもん!!
そこはこう、また、こう!! 「キリッ、なめるなよ」みたいに言ってくださいよ萌えるので!
――――――――コツ コツ
っ、革靴の、足音が三人分、近づいて来る?
ただ、目の前で心臓を貫かれている黒田を見る事しか出来ない。
「く、ろだ、さん?」
――――グシャッ
飛縁魔の手が抜けると、支える物がなくなり黒田の身体は重力に逆らうことなく床に倒れ込む。
赤く染まった手を一舐めし、飛縁魔は勝ち誇ったような顔を浮かべ動かなくなった黒田を愉快そうに見下ろした。
「――――えっ」
だが、すぐにその顔は困惑へと切り替わった。
笑っていた口元は困惑に歪み、焦るように視線を辺りへさ迷わせる。
汗がブワッと噴き出し、体をガタガタと震わせた。
「首無しの首が、ない?」
胴体と頭が離れ倒れ込んだのはわかっていた。
だが、何故か地面に転がっているのは胴体のみ。
黒田の頭が、どこにもなかった。
「な、なんで。頭、どこ?」
焦っていると飛縁魔の後ろに気配を感じ、勢いよく振り返る。
だが、そこには誰もいない。
「な、何が――――っ!!!」
何が起きたのかわからない飛縁魔は、油断をしてしまった。
首無しの頭が無い事に困惑していたのもあるが、まだ首無しという怪異が生きていることが頭から抜けてしまっていたのだった。
後ろから黒田の胴体が飛縁魔に抱き着き、身動きを止める。
力の差は歴然、逃げる事が出来ない。
動けないでいると、上から黒田の頭が降ってきた。
白い八重歯を見せ、怪しく笑う黒田の顔。
『せっかくのチャンスを逃したなぁ、おんなぁぁぁあ』
っ、この、地を這う異様な声色、口調。
これは一度、探偵社で聞いたことがある声だ。
心優の頭に過るのは、黒田が探偵社で一度、首無しに呑まれかけた時の光景。
全てが変わり、恐怖が体を包み込む。
――――今の黒田は、黒田ではない。
止めなくても良いのか、声をかけなくていいのか。
また前のように止めるかと思いきや、隣にいる彼を見るが止める気ゼロ。
それどころか、わかっていたとでも言うような表情を浮かべ、二人を見ていた。
『まったく……。せっかく俺様がおめぇにも勝つチャンスを与えたってえぇのによぉ。――――いや、チャンスを与えたのは俺様ではなく、黒田朔の方か。まっ、どっちでもいいな』
怯える飛縁魔を目に、豪快に笑いながら頭をフヨフヨと浮かばせる。
『黒田朔は、人間と共に過ごしすぎちまった。恨みが薄れ、人間のようになっちまったぁ』
その場にいる四人の頭上を飛び回り、過去を振り返るように黒田――――首無しは話し出す。
『昔に培った陰陽術により、俺様を封じ込め。恨みを忘れ、人間の世界で悠々と生きている。そのおかげで俺様は退屈で、退屈で……』
げんなりとした表情を浮かべため息を吐く首無しだったが、すぐに笑顔へ切り替わり飛縁魔を見下ろした。
『だがな、黒田は俺様に、なぜか賭けを持ちかけたんだぞ。さすがに驚いた』
「か、賭け?」
やっと出た飛縁魔の言葉はか細く、今にも消えそうに弱い。
『「俺が賭けに負けたら、お前が好きに飛縁魔を扱ってもいい」と、な』
「なっ、まさか…………」
『わかったらしいな、そうだ。自身が負けようと、勝とうと。黒田は最終的にはおめぇを殺す事しか考えてないらしいぞ』
「そ、そんな……。あ、あんたはいいの!? そんな、駒のような生活を送ってさぁ!!」
今の言葉に、首無しの表情は一瞬にして真顔になる。
だが、すぐ白い八重歯を見せ、豪快に笑いだした。
『あーっはっはっはっはっはっ!!! その質問、実に面白い。おめぇには、今の俺様がこいつの駒になっていると? そう言っているんだなぁ?』
闇に浮かび上がる赤い瞳がきらりと光り、飛縁魔を楽し気に見下ろす。
氷よりも冷たいその瞳で、飛縁魔は自身が放ってしまった言葉に後悔するが、もう遅い。
『黒田朔という人格は、実に面白い物だぞ。俺様はこの世界に退屈していたんだが、突如俺様を抑え込むほどの力を陰陽寮で培い、抑え込んできたんだ。憎かったが、それと同時に面白くてなぁ』
そこで一度、間を開ける。
飛縁魔が首無しを見上げ次の言葉を待っていると、見えない所から糸が噴射。彼女の両手両足を縛り付けた。
『仮に、俺様を抑え込めない程に力が弱れば、黒田朔の人格は無くなる。なぜかって? 俺様が全てを奪い取るからだ』
ギリギリと、嫌な音を鳴らし糸が飛縁魔の四肢を引っ張る。
何とか耐えるが、このまま強められてしまえば骨は外れ、肉は裂け引きちぎられる。
「っ、わ、私が死ねば、桜花雫も死ぬわよ! いいのかしら!」
汗を滲ませ、最後のあがきというように叫ぶ飛縁魔を見下ろし続け、首無しはちらっと犬宮を見た。
視線を受け取り、彼は「やっとか」と、めんどくさそうにため息を吐きつつも立ち上がる。
黒い髪をわしゃわしゃと掻き、ポケットに手を突っ込んだ。
「安心してよ、死なないから」
「ど、どういう意味よ…………」
「こっちも、もう手を打っているって事。そっちだけが準備満タンなわけないでしょ。無名だろうと探偵社、舐めるなよぉ~」
……………………セリフ、かっこいい。
うん、犬宮さん、セリフはかっこいいですよ、これは本当です。
ですが、態度が勿体ないです。
だって、気だるげなんですもん!!
そこはこう、また、こう!! 「キリッ、なめるなよ」みたいに言ってくださいよ萌えるので!
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