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復讐代行者
第5話 「私達を上まで連れていきなさい」
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「ふぅー。戻って来い、クグツ」
離れていたクグツは、返り血を拭っている累へと近づいた。
影刀から手を離すと、地面に落ちる前に薄くなり、消える。
同時に、赤かった累の右目も元の漆黒へと戻った。
『オツカレサマ、ルイ』
「おうよ。楽しかったからいいけどな」
赤くなってしまった右手を見て、一舐めすると、顔を歪ませてしまった。
「まっず……」
『キタナイ』
「そうだな」
また右目が赤くなったかと思えば、影が累の右手を包み込む。
すぐ霧散したかと思えば、赤かった手は綺麗になっていた。
伸びをして、累は歩き出す。
冷たい風が吹き、累の銀髪とクグツの黒い髪を後ろへと流した。
欠伸をこぼしながら歩いていると、どこからか子供の泣き声が聞こえ足を止める。
横を見ると、倒れ込んでいる母親らしき人の隣で泣いている少年を見つけた。
ボロボロの身丈に合っていない服、やせ細っている体。
あの少年は、もう死ぬ。
そう思った累は、無視して歩き出そうと前を向く。
だが、耳に少年の泣き声が入り、気が散る。
歩くに歩けない累を、クグツが呼びかけた。
『ルイ?』
「……はぁ」
クグツの呼びかけを無視し、累はクルッと方向転換し、少年へと近づいた。
返り血で赤く染まっている累を目の前にした少年は、体を震わせ目を見開いた。
驚きのあまり、涙は止まったらしい。
目の前にいる累を見上げる少年の丸い大きな瞳には、無表情の彼が映り込む。
何も口にせずにいると思いきや、その場にしゃがみ込んだ。
ポケットから一つのお菓子の箱を出したかと思えば、「ん」と少年に差し出す。
少年は、差し出されたお菓子の箱を見るが、受け取ろうとしない。
じれったいと思い、累はお菓子を地面に置いて立ち上がる。
そのまま、何も言わずに歩き出した。
何が起きたのかわからない少年だったが、地面に置かれたお菓子が食べ物だと認識し、拾い上げる。
累の背中を見て、大きな声を上げた。
「お兄ちゃん!! ありがとう!!!」
少年のお礼に、累の顔は歪む。
舌打ちを漏らし、何も反応せず歩き続けた。
クグツは、彼の顔を覗き込もうとした。だが、右手でそれを阻止される。
『ドウシテ』
「気分だ」
それ以上何も言わず歩いていると、累の前方から一人の男性が近づいてくる。
累の位置からでは、輪郭はわかるが、誰だかはまだわからない。
それでも、累の体には嫌な予感が走り、目を細め、誰なのかを確認した。
「――――ゲッ」
誰だかわかった瞬間、累はげんなりするような声を上げた。
同時に、顔を醜く歪ませ、死んだ魚のような瞳を浮かべた。
「あららぁ。見た瞬間、そんな顔を浮かべられるとは思いませんでしたねぇ。育ての親に対して酷いですよぉ、累」
前から近づいてきたのは、甘くゆっくりな口調で話す黒髪の男性。
赤鬼の面を顔に付けており、表情がわからない。
白いワイシャツに、黒いベスト。
黒いズボンを身に着けている男性は、どこかの執事をしていたのかと聞きたくなる風貌をしていた。
「何しに来やがった……」
「久しぶりに戻ってきた大事な我が子を見に来たのですよぉ。少し、お話ししましょうかぁ」
ケラケラと笑いながら男性は、累の腕を掴む。
力が強く、累は痛みで顔を歪ませた。
これは、断ってはいけない。
直感で感じ、累はおとなしくついていくことにした。
ついていくと徐々に建物は無くなり、視界が緑へと切り替わる。
森への入り口まで来た二人は、立ち止まることなく中へと入った。
カサカサと音を鳴らし、迷うことなく森の中を歩く。
今は夕暮れ。オレンジ色の太陽が二人を照らしていた。
森の中とは言えまだ明るいが、油断するとすぐ夜になり、周りが見えなくなる。
急がなければ遭難してしまうような状況だが、二人は特に急ごうとしない。
累はただただ、目の前を歩く自身の育ての親を怒らせないように気を付けながら歩くのみだった。
森の中に入り歩くこと数十分、やっと足を止めた。
すると、累を掴んでいた手を離し、男性は振り返る。
「この木の上に行きましょうかぁ。景色を楽しみながらお話をしましょぉ~」
男性が触れている木を見て、累は何も言わずに上へと視線を向けた。
周りの木より成長しており、背が高い。確かに、景色は楽しめそうであった。
だが、どうやってそんな高い所まで上る気なのだろうか。
累が何も言わずに見上げていると、男性は指を鳴らした。
「出てきなさい、スズカ」
男性の声に応答するように姿を現したのは、腰まで長い黒髪で顔を隠している女性の幽霊。
白いワンピースを揺らし、二人の目の前に姿を現した。
スズカを見た瞬間、無表情だった累の顔から徐々に血の気が引いて行く。
「ま、まさか……」
「そのまさかですよぉ~。では、スズカ、私達を上まで連れていきなさい」
鬼の面の男は、木に触れながらスズカに指示を出した。
『わかりました』
素直に従い、スズカは二人に手を伸ばした。
すると、重力に逆らい、二人の足は地面から離れる。
そのまま、木の上まで案内された。
男性二人が乗っても問題ない太い枝に座らせたスズカは、男性の隣に移動し、留まった。
累は、下を見ないようにしつつも気になり、視線をチラッと向けた。
地面はずっと先。
周りに立ち並ぶ緑は、まるでクッションのように下で風に揺らされていた。
体をブルッと震わせた累の反応を楽しむように、隣に座っている男は、口を開いた。
「ではではぁ、お話でもしましょうかぁ。最近はいかがですか~?」
「ふざけるな。こんな所で落ち着いて話が出来るかよ」
「でもぉ~、今までのように地上で話していたらぁ、累はいつの間にか気配を消して居なくなってしまうでしょう? それはさみしいですよぉ~」
落ち込んでいるように見せているが、わざとなのは丸わかり。
怯えている累を楽しんでいるように感じ、彼は顔を覆い、深いため息を吐いた。
「はぁぁぁ……」
「まぁまぁ。少しだけでもぉ、近況報告してくれさえすればぁ、この時間もすぐ終わりますよぉ」
伝えると、累がギロリと睨む。
漆黒の瞳に殺気が乗せられており、男の肩がピクッと上がった。
だが、すぐ平静に戻り、視線を周りに広がる景色へと移した。
離れていたクグツは、返り血を拭っている累へと近づいた。
影刀から手を離すと、地面に落ちる前に薄くなり、消える。
同時に、赤かった累の右目も元の漆黒へと戻った。
『オツカレサマ、ルイ』
「おうよ。楽しかったからいいけどな」
赤くなってしまった右手を見て、一舐めすると、顔を歪ませてしまった。
「まっず……」
『キタナイ』
「そうだな」
また右目が赤くなったかと思えば、影が累の右手を包み込む。
すぐ霧散したかと思えば、赤かった手は綺麗になっていた。
伸びをして、累は歩き出す。
冷たい風が吹き、累の銀髪とクグツの黒い髪を後ろへと流した。
欠伸をこぼしながら歩いていると、どこからか子供の泣き声が聞こえ足を止める。
横を見ると、倒れ込んでいる母親らしき人の隣で泣いている少年を見つけた。
ボロボロの身丈に合っていない服、やせ細っている体。
あの少年は、もう死ぬ。
そう思った累は、無視して歩き出そうと前を向く。
だが、耳に少年の泣き声が入り、気が散る。
歩くに歩けない累を、クグツが呼びかけた。
『ルイ?』
「……はぁ」
クグツの呼びかけを無視し、累はクルッと方向転換し、少年へと近づいた。
返り血で赤く染まっている累を目の前にした少年は、体を震わせ目を見開いた。
驚きのあまり、涙は止まったらしい。
目の前にいる累を見上げる少年の丸い大きな瞳には、無表情の彼が映り込む。
何も口にせずにいると思いきや、その場にしゃがみ込んだ。
ポケットから一つのお菓子の箱を出したかと思えば、「ん」と少年に差し出す。
少年は、差し出されたお菓子の箱を見るが、受け取ろうとしない。
じれったいと思い、累はお菓子を地面に置いて立ち上がる。
そのまま、何も言わずに歩き出した。
何が起きたのかわからない少年だったが、地面に置かれたお菓子が食べ物だと認識し、拾い上げる。
累の背中を見て、大きな声を上げた。
「お兄ちゃん!! ありがとう!!!」
少年のお礼に、累の顔は歪む。
舌打ちを漏らし、何も反応せず歩き続けた。
クグツは、彼の顔を覗き込もうとした。だが、右手でそれを阻止される。
『ドウシテ』
「気分だ」
それ以上何も言わず歩いていると、累の前方から一人の男性が近づいてくる。
累の位置からでは、輪郭はわかるが、誰だかはまだわからない。
それでも、累の体には嫌な予感が走り、目を細め、誰なのかを確認した。
「――――ゲッ」
誰だかわかった瞬間、累はげんなりするような声を上げた。
同時に、顔を醜く歪ませ、死んだ魚のような瞳を浮かべた。
「あららぁ。見た瞬間、そんな顔を浮かべられるとは思いませんでしたねぇ。育ての親に対して酷いですよぉ、累」
前から近づいてきたのは、甘くゆっくりな口調で話す黒髪の男性。
赤鬼の面を顔に付けており、表情がわからない。
白いワイシャツに、黒いベスト。
黒いズボンを身に着けている男性は、どこかの執事をしていたのかと聞きたくなる風貌をしていた。
「何しに来やがった……」
「久しぶりに戻ってきた大事な我が子を見に来たのですよぉ。少し、お話ししましょうかぁ」
ケラケラと笑いながら男性は、累の腕を掴む。
力が強く、累は痛みで顔を歪ませた。
これは、断ってはいけない。
直感で感じ、累はおとなしくついていくことにした。
ついていくと徐々に建物は無くなり、視界が緑へと切り替わる。
森への入り口まで来た二人は、立ち止まることなく中へと入った。
カサカサと音を鳴らし、迷うことなく森の中を歩く。
今は夕暮れ。オレンジ色の太陽が二人を照らしていた。
森の中とは言えまだ明るいが、油断するとすぐ夜になり、周りが見えなくなる。
急がなければ遭難してしまうような状況だが、二人は特に急ごうとしない。
累はただただ、目の前を歩く自身の育ての親を怒らせないように気を付けながら歩くのみだった。
森の中に入り歩くこと数十分、やっと足を止めた。
すると、累を掴んでいた手を離し、男性は振り返る。
「この木の上に行きましょうかぁ。景色を楽しみながらお話をしましょぉ~」
男性が触れている木を見て、累は何も言わずに上へと視線を向けた。
周りの木より成長しており、背が高い。確かに、景色は楽しめそうであった。
だが、どうやってそんな高い所まで上る気なのだろうか。
累が何も言わずに見上げていると、男性は指を鳴らした。
「出てきなさい、スズカ」
男性の声に応答するように姿を現したのは、腰まで長い黒髪で顔を隠している女性の幽霊。
白いワンピースを揺らし、二人の目の前に姿を現した。
スズカを見た瞬間、無表情だった累の顔から徐々に血の気が引いて行く。
「ま、まさか……」
「そのまさかですよぉ~。では、スズカ、私達を上まで連れていきなさい」
鬼の面の男は、木に触れながらスズカに指示を出した。
『わかりました』
素直に従い、スズカは二人に手を伸ばした。
すると、重力に逆らい、二人の足は地面から離れる。
そのまま、木の上まで案内された。
男性二人が乗っても問題ない太い枝に座らせたスズカは、男性の隣に移動し、留まった。
累は、下を見ないようにしつつも気になり、視線をチラッと向けた。
地面はずっと先。
周りに立ち並ぶ緑は、まるでクッションのように下で風に揺らされていた。
体をブルッと震わせた累の反応を楽しむように、隣に座っている男は、口を開いた。
「ではではぁ、お話でもしましょうかぁ。最近はいかがですか~?」
「ふざけるな。こんな所で落ち着いて話が出来るかよ」
「でもぉ~、今までのように地上で話していたらぁ、累はいつの間にか気配を消して居なくなってしまうでしょう? それはさみしいですよぉ~」
落ち込んでいるように見せているが、わざとなのは丸わかり。
怯えている累を楽しんでいるように感じ、彼は顔を覆い、深いため息を吐いた。
「はぁぁぁ……」
「まぁまぁ。少しだけでもぉ、近況報告してくれさえすればぁ、この時間もすぐ終わりますよぉ」
伝えると、累がギロリと睨む。
漆黒の瞳に殺気が乗せられており、男の肩がピクッと上がった。
だが、すぐ平静に戻り、視線を周りに広がる景色へと移した。
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