復讐代行者、陰影累の道

桜桃-サクランボ-

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復讐代行者

第9話 「裏の世界と呼ばれる場所だ」

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『ルイ』

「おう、お疲れさん」

 男性二人が死んだことを確認すると、クグツの黒い髪は元に戻る。
 フヨフヨと、累の元に戻った時にはいつものクグツに戻っていた。

 そんなクグツの頭を撫で、累は怯えて動かない四季の前に片膝をついた。

「あぁ? 泣いたんか」

 声をかけるが、四季は体を縮こまらせ動かない。
 累はどうすればいいのか分からず、ため息を吐き銀髪をガシガシと掻いた。

「おーい」

 再度声をかけるが、返答はない。
 放心している四季の頭をペチペチと手の甲で叩く。

「――――っ! え?」

「あ? 起きたか?」

 やっと累を認識した四季は、恐怖の顔を浮かべ彼の手を弾いた。
 悲鳴を上げ、その場から逃げるように走り出す。

「なっ、おい!!」

 累が焦るように追いかけたが、手を掴むより先に建物の隙間から出てしまった。
 瞬間、横から飛んできたのは鉄パイプ。

「――――えっ」

 何が起きたのかわからない。
 時間がゆっくりと進んでいるような感覚に陥る。

 そんな時、後ろに引っ張られ、目の前を鉄パイプがよぎる。
 ガンッと、音を鳴らし地面を抉った。

 引っ張られたことで後ろに転んだ四季は、唖然。
 ため息と共に四季の前に出た累は、鉄パイプを持っていた男性を見た。

 瞬間、片手に持っていた影刀を横一線に薙ぎ払った。

 一瞬にして男性の首が飛ぶ。
 血しぶきが舞い上がり、二人に降りそそぐ。

 体は、地面に倒れた。
 頭は宙を舞い、グシャっと落ちる。

 もう、何が何やらわからない四季は、声を出せず怯えるのみ。

「はぁぁ……。だから、裏の世界に連れてきたくなかったんだ……」

 首を鳴らし、手に持っていた影刀を消す。
 すると、目も赤から黒に戻り、尻餅をついている四季を見た。

 動けそうにない四季に手を伸ばす。
 だが、その手は赤く染まっており、四季は小さな悲鳴を上げた。

「おっと。これだと流石に掴みにくいか」

 服で適当にゴシゴシとふき取り、まだ赤いがさっきよりはマシになった手を再度差し出した。

 それでも、四季は動かない。
 声をかけても、手を差し伸べても何も言わない四季に、累は徐々に苛立ち始める。

 額に青筋を立て、眉を吊り上げた。

「おい、さっきからなに黙ってやがる。いい加減、キレんぞ」

 鋭く光る漆黒の瞳に睨まれ、四季の脳に警告音が鳴った。

 声は、喉が絞まり出ない。
 せめて動かないとと思い、四季は手を借りずに立ち上がった。

「ほう、まだ自分で動けるか。なら、いいわ。俺から離れんなよ」

 言いながら背中を向け、歩き出す。

 まだ自分で考えられない四季は、足を踏み出せない。
 ただただ、小さくなる背中を見るのみ。

 後ろからついて来ている気配を感じない累は、足を止め振り返った。

「おい、早く来いや。また襲われてぇのか?」

 累の言葉に周りを見回してみると、恐怖で戦き、目を見開いた。

 周りには、当たり前のように鉄パイプや斧を持っている男がたくさんいる。
 その男の目線の先には、怯えている四季の姿。

 他にも、恨めしそうな視線を向けている不健康そうな女性や、ガリガリな子供も四季をじっと見ていた。

 四季は、胃から何かがせり上がるような感覚に口元を抑えた。
「うっ」と、お腹を押さえ、倒れそうになる。

「はぁ、めんどくせぇなぁ」

 言いながら累は四季に近付き、片手で肩に抱きかかえた。

「え、ちょっ! なんですか!? 離してください!」

「離したらお前、その場から動かねぇだろうが。めんどくせぇし、時間がない。早く用を済ませ、表に出んぞ」

 欠伸をこぼし、累は視線を感じる中、気にせず歩く。

 もっと言い返したいが、胃からせり上げてくるものに耐えるので精一杯。
 何も言えず、うなだれた。

 茫然としていると、日本人形であるクグツが声をかけた。

『アンタガイライニン。ルイハワタシノダカラ、カンチガイシナイデ』

 声は一定だが、四季にはなんとなく拗ねているのはわかる。
 だが、それどころではない。

「に、日本人形がしゃべった!?」

「いまかよ」

「だ、だって、い、いま!!! ――――もう、なにが…………」

「あ? おい!!」

 いろんなことがありすぎて、四季の意識は限界に達した。
 涙を流し、体から力が抜けたかと思うと意識を失った。

 ※

「……んっ、あ、あれ?」

 四季が目を覚ますと、そこはボロボロな建物の中だった。

 穴が開いている薄い布の上に横になっていた四季は、困惑しながらも体を起こした。

 周りを見ると、累が壁に背中を預け、目を閉じていた。
 寝息は聞こえないため、寝ているわけではなさそう。

 何をすればいいのかわからない四季は、寝ているのかわからない累へと近付き、顔を覗き込む。

 肌は白く、色素の薄い銀髪は、フードの隙間から垂れ下がる。
 まつげが長く、儚げな男性のように感じる。

 目を閉じている累は、今にも消えてしまいそうなほど危うい存在のように、四季は感じた。

 こんな男性が、まさかさっきまで人を殺していたとは到底思えなかった。

「…………」

 何も考えられず、四季の右手は無意識に累へと伸びた。
 瞬間、ガシッと手首を掴まれてしまった。

「ひっ!」

「起きてるっつーの。俺がイケメンだからって寝込みを襲ってんじゃねぇよ」

 ゆっくりと目を開き、漆黒の瞳で困惑している四季を見た。

「……何を言っているんですか!!」

 数秒間、累の言葉を理解するため瞬きを繰り返す。
 理解した瞬間、四季の顔は徐々に赤くなった。

 ここまで大きな声を出されるとは思っておらず、累は思わず手を放し耳を塞ぐ。
 顔を歪ませ、四季を睨んだ。

「ざっけんな。俺の鼓膜を壊す気かよ」

「貴方が変なことを言うからじゃないですか!」

 ふぅー!! と、鼻息を荒くして、四季は怒る。
 そんな彼女の怒りなどどこ吹く風の累は、立ち上がり壊れそうなドアを見た。

「――――おい、女」

「え、お、女?」

 そのような呼ばれ方をされるとは思っておらず、思わず聞き返すが累は話を進めた。

「ここは、裏の世界と呼ばれる場所だ」

「え、裏の世界?」

「表の世界の裏側。世界観も、裏側と考えればどのような所かわかるはずだろ」

 累の適当な説明に、四季は首を傾げる。

 でも、気絶するまでの間の出来事で、今までの世界観と違うのはわかっていた。
 だが、詳しくはわからない。説明を聞いても、理解が出来ない。

 男性は、人を狙うように片手に武器となる物を持ち、子供や女性は不健康な体をして、薄い布の上に座って生活する。

 突然、何もしていないのに理不尽に襲われ、命を落としそうになる世界。

 そんな世界が今までいた世界なわけがない。
 現状を思い返しても、まだ頭が上手く働かない。

 累は、隣にいる日本人形のクグツに視線を送る。
 すると、頷き、四季へと近付いた。

『オモテセカイデハユルサレナイコトガ、コノセカイデハユルサレル。ソレダケ』

「許されないことが、この世界では許されている?」

 聞き返すが、クグツは累へと戻った。

 まだ全てを理解しきれていないが、自分の命が今、累に預けられていることだけは、頭が自然と理解した。

 どうしようもない不安が四季を包み込み、自分の殻に籠もるように膝を抱えた。

「んで、やっとここから本題に入るぞ。俺がお前をここに連れて来たのには、抗えない理由があるんだ」

「抗えない、理由?」

 さっきから四季は、オウム返しするだけで、何も理解できていない。
 累は四季が理解できていても、出来ていなくても、構わず話を進めた。

「お前に会いたいと言う、変な奴に命令されたんだ」

「あ、会いたい、人?」

 こんな世界で自分に会いたい人など、四季には見当もつかない。
 茫然としていると、ドアの奥から足音が聞こえ始めた。

 四季がまた襲われるのではないかと思い、怯えてしまう。
 そんな彼女とは裏腹に、累はめんどくさそうにため息を吐いた。

 怯える四季など無視し、累はドアへと歩き、開けた。

 最初は誰もいなかったが、数秒待っていると鬼の面を着けた男性が顔をヒョコッと覗かせた。

「やぁ!」

 鬼の面はリアルで、怖い。
 でも、声は優しく、おちゃめな登場方法に、四季は何も反応が出来なかった。

「貴方が累に依頼をしたぁ、表世界の住人ですねぇ」

 顔だけを覗かせていた男性、導は建物の中に入り、四季を見下ろした。
 身長が高いため威圧感があり、喉が絞まり挨拶すらできない。

 怖がっている四季を見て、累は横目で隣に立つ導を見た。

「怖がらせてんじゃねぇわ」

「怖がらせているつもりはぁ、ないんですけどねぇ~」

 困ったような声を出す導は、少し考えた後、その場にしゃがみ込み四季へと手を伸ばした。

「私の名前はぁ、神道導。君に痛い思いはさせないからぁ、安心しておくれぇ~」
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