ヨクルと奇妙な森

フオツグ

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第五話

キャラバンの護衛

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「キャラバンの護衛?」

 俺はヨクルに聞き返した。
 キャラバンとは、各地を転々とし、商品を売り歩く行商人達の集団だ。

「はい。前々から依頼されていたんです。静雪の村から霜降り町までの間、護衛してほしいと」

 ヨクルは長い髪に櫛を通しながら答えた。
 奇妙な森を挟んで、静雪の村の反対の位置にある町──霜降り町。その町と森の間には大きな川がある。異形は川を泳げないため、町が襲われる心配はない。
 川がある分、静雪の村より霜降り町の方が安全だ。ヨクルが村側にフロスティ邸を構えたのも、村の方が危険だからなのだろう。
 霜降り町の人達は簡易的な跳ね橋を作ったそうだ。森の方から人が来たら、安全を確認して橋をかけるという。

「護衛もあんたの仕事なのか……」
「僕は森の管理者でもあり、案内人でもありますから。人々を安全に森の外に送り届けるのも、僕の仕事です」

 ヨクルは櫛を机の上に置いた。

「本日、静雪の村にそのキャラバンが到着されたそうなので行ってきますね。三日から五日ほど、屋敷を空けます。その間、ティリルさんはご自由に過ごして下さい」
「待て待て待て。俺も行くに決まってるだろ。なんで留守番する前提なんだ」
「はあ。それはティリルさんの仕事ではないのでは」
「あんたの補佐が、俺の仕事だ」

 俺は胸をバンと叩いた。

「仕事熱心なのは良いことですが……奇妙な森をよく知らぬ者に通らせるのはとても大変なのです」
「じゃあ尚更、俺もいた方が良いじゃないか」

 俺は一切、譲る気はなかった。主君が外で仕事をしているのに、一人屋敷でのんびりしている訳にはいくまい。

「ティリルさん、迷い人を導く覚悟はありますか」
「勿論だ」

 俺は即座に頷いた。

「……貴方には敵いませんね。わかりました。共に客人を招きましょう」

 □

 静雪の村はいつもより騒がしかった。
 見知らぬ人々とそり犬、そして、荷物を乗せた大型のそりが二つがあった。
 ヨクルに護衛を依頼したキャラバンだろう。
 そり犬達がヨクルを見つけ、歯を剥き出しにして唸り始めた。頭についているかぼちゃを怖がっている様子だ。
 口髭の紳士が犬達のただならぬ様子に気づき、犬達の視線を先を見た。彼もまた、かぼちゃ頭を見つけて驚いた顔をした。

「かぼちゃの被り物……貴方が奇妙な森の領主様ですか?」

 口髭の紳士が歩み寄った。

「はい。ヨクル・フロスティと申します」
「俺は銀竜騎士団のティルヴィング・イアリだ。よろしく頼む」
「ああ、よろしくお願いします。私はこのキャラバンのリーダー、ザーネンと言います」

 ザーネンと名乗った口髭の紳士は爽やかな笑みを浮かべた。

「まさか、フロスティ辺境伯が本当にかぼちゃを被っているとは……」
「これはお互いが良好な関係を築くために必要なものでして……。気分を悪くしたのならすみません」
「いやいや! 驚いただけですよ。それにしても……」

 ザーネンは俺に目を向けた。

「騎士団の方もご一緒なんですね。辺境伯様お一人で領地を守っていると伺っていたんですが」
「最近、森に来ましてね。彼も同行してよろしいですか?」
「勿論ですとも! 騎士様がいらっしゃるなら、森で異形に出会っても安心です!」

 ザーネンの言葉に俺は苦笑いをした。異形の相手ならヨクル一人でも全く問題ない。

「ええ。彼はとても腕の立つ騎士です」

 ヨクルは自慢げに言った。俺は少し照れ臭かった。

「まあ、異形に出会わないことが一番なんですがね」
「はは。違いない!」

 俺達は笑い合った。
 キャラバンのリーダーが人当たりの良さそうな人物で安心した。

「ザーネンさん、改めて言わせて頂きますが、森を通らず、迂回するルートの方が安全です。森では異形に襲われますし、異変も起こります。引き返すなら今ですよ」
「迂回ルートは町を幾つも通らないといけないでしょう? 時間も労力も金もかかる」
「命に代えられるものはありませんよ」
「腕の立つ騎士様が守って下さるんでしょう? 辺境伯様、どうか我々に森を通らせて下さい! お願いします!」

 ザーネンは頭を下げ、懇願した。
 ヨクルはため息を一つついて、渋々頷いた。

「……わかりました。脅かすようなことを言って申し訳ありません。森に入る前に必ず確認しなければならないことでしたので、ご了承下さい」

「わかっています」とザーネンは気にしていないようだった。

「通行料は本当に手紙に書いてあった値段で良いのですか?」
「はい。案内料も入って、この値段です」
「明らかに相場より安いですが……。しかも、後払いで良いとか?」
「ええ。無事に森を通り抜けた後で構いません。……何か問題が?」
「いえ、こんなにも我々に都合が良いと、何か……裏があると考えてしまうんですよ。商人のさがと言いますか」

 申し訳なさそうにザーネンは頭をかいた。

「お気になさらず。通行料は形式的なものですので。ただの案内料と思って頂ければと。案内料が安いと不安になる人間もいますから、それなりの値段を設定しています」
「儲けを考えていないんですか!?」

 ザーネンは意外そうに言った。

「金など森では滅多に使いませんからね。本当はなくても良いのですが、森を通る際、僕へ連絡が来ないと困りますから」

 ザーネンは拳を強く握り締め、顔に笑顔を貼り付けた。

「辺境伯様は……とても無欲な方なんですね」

 商人は強欲でなければ成功しない。貴族の贅沢な暮らしを羨みながら、貴族相手にも商売をする。貴族から金を引っ張れなければ、大金など稼げない。
 彼らから見て、無欲なヨクルはどう映るのだろう。
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