31 / 31
第五話
変な奴ら!
しおりを挟む
「ヨクル、ヒューキをこれからどうするんだ?」
俺は改めてヨクルに尋ねた。
「一時的に静雪の村に預けたいと考えています。銀竜騎士団にお手紙を書いて、彼を群れに戻すよう、お願いしてみます」
「仲間と会える!?」
ヒューキは表情を明るくした。
ヨクルは頷いた。
「ええ。騎士団の皆さんは弱者に寄り添える方達ですから、きっと協力してくれるはずです」
「ああ、そうだな。俺も師匠にお願いしてみるよ。あの人なら騎士団長に口利きしてくれるはずだ」
ヒューキは嬉しそうだったが、すぐに訝しげな顔をした。
「かぼちゃ男……何故そこまでする? おまえは偉い奴。ヒューキ達を買う奴」
「爵位を賜ったのは、奇妙な森の管理者となってからです。それ以前は何者でもない、ただのヨクルでした」
「ただのニンゲンなら、尚更、ヒューキを助けない」
ヒューキはヨクルを睨みつけていた。
「犯罪で得をするのは悪人だけです。逆もまた然り。善行で得をするのは善人だけ」
「おまえはゼンニンか?」
「そうありたいと願っています」
そう聞いても尚、ヒューキは納得がいかないような顔をしていた。
「……ふむ。些か抽象的でしたかね。これでは信じて頂けませんか」
ヨクルはそう言うと、ヒューキを気にかける理由を語り始めた。
「僕の昔の知り合いに、異形商人に連れ去られたもの達がいました。異形ではないのに、異形だと決めつけられて……」
「え……」
俺とヒューキは同じような声を出していた。
「ヒューキさんと同じです。だから、貴方を放ってはおけないのでしょうね」
ヨクルとヒューキを真っ直ぐと見つめ合った。
「復讐とか、仲間を助けたいとか、何故思わない? おまえにはその力があるのに」
「連れ去られたかつての知り合いはもういません。復讐も救出も無駄なことです」
「そんなのわからない!」
「わかりますよ」
ヨクルはそう言い切った。
「彼らの魂は天へと昇り、自然の一部となりました。彼らは今も、僕を見ています。僕を見て、復讐するかどうか賭け事にでも興じているでしょう。そういう方達ですから」
ヨクルは窓の外を見た。亡き知り合いに思いを馳せているように。
「……変な奴だ。おまえも、おまえの仲間も」
「光栄です」
ヨクルはフッと笑い声を漏らした。
「褒めてない!」
ヒューキは吠えた。
「さ、ヒューキさん、今日はお休み下さい。ティリルさんも護衛のお仕事、お疲れ様でした。ゆっくりと体を休めて下さい」
「ああ。ヨクルもお疲れ様。ゆっくり休んで……休むよな?」
俺がそう聞くと、ヨクルはあからさまに顔を逸らした。
「僕は放置していた異形を処理しなければなりませんので」
「やっぱり、休むつもりないじゃないか! 俺も行く!」
「ティリルさんはヒューキさんの様子を見ていて下さい」
確かにヒューキを一人で屋敷に置いておく訳には行かない。俺は頷くしかなかった。
「ヒューキさん、森にいる間はこれをつけていて下さい」
ヨクルは手のひらを差し出した。手の上には銀色の小さな鈴があった。
「鈴?」
「鈴は小さな鐘です。異形を避け、僕に居場所を伝えてくれます」
ヨクルは鈴に紐を通し、ヒューキの首の後ろに回して結んだ。
ヒューキの首元でちりん、と鈴の音が鳴る。違和感があるのか、ヒューキは難しい顔をした。
「一晩だけ我慢してくれ」
俺はそう言った。森の中で安全に過ごすためには必要なものだ。「明日村に行ったら、外しても構わない」と言うと、ヒューキは首を横に振った。
「ヒューキ、村行かない。ヒューキ、ここいる」
「え」
「他のニンゲン、信じられない」
「俺達を信じてくれたのはありがたいが……。どうする? ヨクル」
俺はヨクルに聞いた。
「ヒューキさんが良いのなら、僕は構いません」
ヨクルはそう答えた。俺はヨクルに礼を言った。
「おやすみ」と夜の挨拶をして、俺とヨクルは部屋を出た。
ヨクルは屋敷の巡回をしてから、森に向かうと言っていた。
俺は空になった皿を洗い、ヒューキの隣の客室で寝ることにした。日記を書いてから、ベッドに横になる。途端、体が雪に埋もれたかのように重くなった。
「うわあー!」
眠りに落ちる直前、ヒューキの悲鳴が聞こえて、俺は飛び起きた。急いで彼の元へと向かう。ヨクルも駆けつけていた。
俺が先頭に立ち、扉を開けた。
「どうした、ヒューキ!」
ベッドの上で涙目になっているヒューキがいた。
「てぃ、ティリル! 動いてる! 動いてる!」
ヒューキの指差した方を見ると、水差しがふよふよと浮いていた。
「なんだ、水差しが動いただけか」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「そんな、大したことないみたいな……!」
「ものが勝手に動くなんて、奇妙な森ではよくあることだぞ」
「なあ、ヨクル」と屋敷の主人に言うと、彼は「ええ。よくあることです」と頷いた。
「害はないから安心していい」
「安心出来ない……ん!?」
ヒューキは俺を見て目を見開き、ごしごしと目を擦って、再び俺を見た。
「ティリル、大きくなってないか……?」
「ん? ああ、通りで視線が高いと思ったんだよな。俺がデカくなってたのか」
「平然とし過ぎだ!?」
「ものの大きさが変わることも奇妙な森ではよくあることさ。気にすることはない。別に成長痛がある訳でもないし」
「ええ……」
ヒューキは少し引いていた。
「さ、寝た寝た!」
俺はヒューキをベッドに寝かせた。
「かぼちゃ男、変……ティリルも変……。この森、変!」
その後もヒューキはちょっとした異変に怯えていたようだ。様子を見に来たヨクルにも驚き、逆立った毛がなかなか戻らなかったという。
隣の部屋に寝ていた俺だったが、案の定、ぐっすりと寝ていて気づかなかった。本当に申し訳ない。
次の朝。「やっぱり、ここ住めない」とヒューキは疲れたように言った。
結局、ヒューキを静雪の村に預けることになった。
俺は改めてヨクルに尋ねた。
「一時的に静雪の村に預けたいと考えています。銀竜騎士団にお手紙を書いて、彼を群れに戻すよう、お願いしてみます」
「仲間と会える!?」
ヒューキは表情を明るくした。
ヨクルは頷いた。
「ええ。騎士団の皆さんは弱者に寄り添える方達ですから、きっと協力してくれるはずです」
「ああ、そうだな。俺も師匠にお願いしてみるよ。あの人なら騎士団長に口利きしてくれるはずだ」
ヒューキは嬉しそうだったが、すぐに訝しげな顔をした。
「かぼちゃ男……何故そこまでする? おまえは偉い奴。ヒューキ達を買う奴」
「爵位を賜ったのは、奇妙な森の管理者となってからです。それ以前は何者でもない、ただのヨクルでした」
「ただのニンゲンなら、尚更、ヒューキを助けない」
ヒューキはヨクルを睨みつけていた。
「犯罪で得をするのは悪人だけです。逆もまた然り。善行で得をするのは善人だけ」
「おまえはゼンニンか?」
「そうありたいと願っています」
そう聞いても尚、ヒューキは納得がいかないような顔をしていた。
「……ふむ。些か抽象的でしたかね。これでは信じて頂けませんか」
ヨクルはそう言うと、ヒューキを気にかける理由を語り始めた。
「僕の昔の知り合いに、異形商人に連れ去られたもの達がいました。異形ではないのに、異形だと決めつけられて……」
「え……」
俺とヒューキは同じような声を出していた。
「ヒューキさんと同じです。だから、貴方を放ってはおけないのでしょうね」
ヨクルとヒューキを真っ直ぐと見つめ合った。
「復讐とか、仲間を助けたいとか、何故思わない? おまえにはその力があるのに」
「連れ去られたかつての知り合いはもういません。復讐も救出も無駄なことです」
「そんなのわからない!」
「わかりますよ」
ヨクルはそう言い切った。
「彼らの魂は天へと昇り、自然の一部となりました。彼らは今も、僕を見ています。僕を見て、復讐するかどうか賭け事にでも興じているでしょう。そういう方達ですから」
ヨクルは窓の外を見た。亡き知り合いに思いを馳せているように。
「……変な奴だ。おまえも、おまえの仲間も」
「光栄です」
ヨクルはフッと笑い声を漏らした。
「褒めてない!」
ヒューキは吠えた。
「さ、ヒューキさん、今日はお休み下さい。ティリルさんも護衛のお仕事、お疲れ様でした。ゆっくりと体を休めて下さい」
「ああ。ヨクルもお疲れ様。ゆっくり休んで……休むよな?」
俺がそう聞くと、ヨクルはあからさまに顔を逸らした。
「僕は放置していた異形を処理しなければなりませんので」
「やっぱり、休むつもりないじゃないか! 俺も行く!」
「ティリルさんはヒューキさんの様子を見ていて下さい」
確かにヒューキを一人で屋敷に置いておく訳には行かない。俺は頷くしかなかった。
「ヒューキさん、森にいる間はこれをつけていて下さい」
ヨクルは手のひらを差し出した。手の上には銀色の小さな鈴があった。
「鈴?」
「鈴は小さな鐘です。異形を避け、僕に居場所を伝えてくれます」
ヨクルは鈴に紐を通し、ヒューキの首の後ろに回して結んだ。
ヒューキの首元でちりん、と鈴の音が鳴る。違和感があるのか、ヒューキは難しい顔をした。
「一晩だけ我慢してくれ」
俺はそう言った。森の中で安全に過ごすためには必要なものだ。「明日村に行ったら、外しても構わない」と言うと、ヒューキは首を横に振った。
「ヒューキ、村行かない。ヒューキ、ここいる」
「え」
「他のニンゲン、信じられない」
「俺達を信じてくれたのはありがたいが……。どうする? ヨクル」
俺はヨクルに聞いた。
「ヒューキさんが良いのなら、僕は構いません」
ヨクルはそう答えた。俺はヨクルに礼を言った。
「おやすみ」と夜の挨拶をして、俺とヨクルは部屋を出た。
ヨクルは屋敷の巡回をしてから、森に向かうと言っていた。
俺は空になった皿を洗い、ヒューキの隣の客室で寝ることにした。日記を書いてから、ベッドに横になる。途端、体が雪に埋もれたかのように重くなった。
「うわあー!」
眠りに落ちる直前、ヒューキの悲鳴が聞こえて、俺は飛び起きた。急いで彼の元へと向かう。ヨクルも駆けつけていた。
俺が先頭に立ち、扉を開けた。
「どうした、ヒューキ!」
ベッドの上で涙目になっているヒューキがいた。
「てぃ、ティリル! 動いてる! 動いてる!」
ヒューキの指差した方を見ると、水差しがふよふよと浮いていた。
「なんだ、水差しが動いただけか」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「そんな、大したことないみたいな……!」
「ものが勝手に動くなんて、奇妙な森ではよくあることだぞ」
「なあ、ヨクル」と屋敷の主人に言うと、彼は「ええ。よくあることです」と頷いた。
「害はないから安心していい」
「安心出来ない……ん!?」
ヒューキは俺を見て目を見開き、ごしごしと目を擦って、再び俺を見た。
「ティリル、大きくなってないか……?」
「ん? ああ、通りで視線が高いと思ったんだよな。俺がデカくなってたのか」
「平然とし過ぎだ!?」
「ものの大きさが変わることも奇妙な森ではよくあることさ。気にすることはない。別に成長痛がある訳でもないし」
「ええ……」
ヒューキは少し引いていた。
「さ、寝た寝た!」
俺はヒューキをベッドに寝かせた。
「かぼちゃ男、変……ティリルも変……。この森、変!」
その後もヒューキはちょっとした異変に怯えていたようだ。様子を見に来たヨクルにも驚き、逆立った毛がなかなか戻らなかったという。
隣の部屋に寝ていた俺だったが、案の定、ぐっすりと寝ていて気づかなかった。本当に申し訳ない。
次の朝。「やっぱり、ここ住めない」とヒューキは疲れたように言った。
結局、ヒューキを静雪の村に預けることになった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
聖女の力は使いたくありません!
三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?
昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに!
どうしてこうなったのか、誰か教えて!
※アルファポリスのみの公開です。
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】
てんてんどんどん
ファンタジー
ベビーベッドの上からこんにちは。
私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。
私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。
何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。
闇の女神の力も、転生した記憶も。
本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。
とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。
--これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語--
※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています)
※27話あたりからが新規です
※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ)
※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け
※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。
※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ!
※他Webサイトにも投稿しております。
【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】
暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」
高らかに宣言された婚約破棄の言葉。
ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。
でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか?
*********
以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。
内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる