悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ

転生者対転生者

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 レンコを探すのは思ったより簡単だった。
【博愛の聖女】という世界で唯一の肩書きを持つ女の子であるから、非常に目立つ。
 特待生として入学したのなら尚更だ。
 それこそ、誰もが振り返る美女〝アナスタシア〟と並ぶほどだ。
 クロードは周囲を見て、レンコの他に人がいないことを確認する。

「……よし」

 クロードは大きく息を吸った。

「れ、レンコ先輩!」

 そう叫ぶと、レンコは足を止めた。

「んー? なぁに?」

 レンコがくるりと振り返る。
──やっぱり、おれはノーマークみたいだな。普通に接触出来た。
 クロードは内心ほくそ笑んだ。

「あれ、あんた……」

 レンコにそう言われて、どきりとする。
──おれが〝アナスタシア〟の弟だと気付かれた!?
 クロードは自分が印象に残らない顔をしているから、覚えている訳がないと高を括っていた。
 作戦失敗か、とクロードは直ぐに逃げる心の準備をした。

「誰だっけ? どっかで見た気がするんだけどー」

 レンコはこてんと首を傾げた。
 クロードはホッと息をつく。

「……校門でぶつかりましたよね?」
「そうだったっけ? あんた、モブ顔だから覚えてないわ」

──面と向かってそういうこと言うなよ……。まあ、アデヤにも言えることだけど。
 クロードは内心呆れながら、予定通りの言葉を言った。

「貴女が覚えていなくとも、自分は覚えています! 校門のど真ん中で貴女とぶつかったとき、おれは恋に落ちちゃったんです!」

 クロードはそう言った後、頭を下げた。

「好きです! レンコ先輩! 付き合って下さい!」

 これは勿論、嘘だ。
 レンコの機嫌を取るために大嘘で、彼女のことなど好きな訳がない。
 とはいえ、いざ告白するとなると緊張で胃が痛んだ。
 クロードはキリキリと痛む胃に手を当てながら、何とか痛みに耐える。

「ハァ? あんた、何言ってんの? 自分の顔を鏡で見てから、ものを言いなさいよ」

──こいつ……! 人の渾身の告白を……!
 クロードは怒りで顔が歪む。
 頭を下げているから、顔がレンコに見えなくて本当に良かったと思う。
 クロードは顔を悲しい表情に変えてから、顔を上げた。

「すみません。どうしてもこの気持ちを伝えたくて……。でも、そうですよね。【博愛の聖女】様ですもんね。引く手数多でしょうね……」
「当たり前じゃない! 私は特別なのよ。あんた如きじゃ、釣り合いが取れないの」
「誰か気になる方がいらっしゃるんですか?」

 クロードは聞きたかった質問をぶつけた。
──お前の目的はなんだ? 誰と結ばれたがってる? そもそも、誰かと結ばれたがってるのか?
 レンコは「フフン」と鼻を鳴らした。

「いるわよ。心に決めた人がね!」

 これで、レンコが誰かと結ばれたがってることは確定した。
 六人の攻略対象の中の誰かなのか。
 はたまた、攻略対象以外の誰かか……。

「レンコ先輩を射止めた人ですから、きっと素敵な人なんでしょうね。どんな方なんでしょうか」
「とーっても素敵なお方よ? あんたなんか、目じゃないんだから。前世から好きだったの」

 そう言って、レンコはうっとりと笑った。

「キャラデザが本当に最高なの! 攻略対象の中で一番格好良くて、可愛くて、美しいの! ま、あんたに言ってもわかんないだろうけど!」

──『攻略対象の中で』……これは大きな収穫だ。
 彼女はアデヤ、シュラルドルフ、ゼニファー、シルフィト、ラヴィスマン、ミステールの中の誰かを狙っている。

「絶対、私のものにする! ああ、待っていてね! 私だけの王子様!」

 レンコは宙に向けて手を伸ばす。
 その動作も芝居がかっていて、クロードは少し恐怖を覚えた。

「でも、彼と結ばれるためにはアナスタシアを消さないといけない……。あの女、悪役令嬢なら悪役令嬢らしくしなさいよね……」

 レンコは爪を噛み、ブツブツと呟く。
 どうせクロードには伝わらないと思っているのだろう。
 クロードにとっては有り難かった。
──もっと聞き出さないと。レンコが攻略したい奴の情報を……。
 そう思ったとき、「そうだわ!」と浮かれたレンコの声が聞こえた。

「ねえ、あんた。私のこと好きなんでしょ」
「え? は、はい。好きです」
「じゃあさ、証言してよ。私がアナスタシアに殺されそうになってたってさ」
「え……」

 何を言っているのか、数秒理解が出来なかった。
 アナスタシアがレンコを殺そうとした──そう嘘をつけと言っているのだ。

「う、嘘はいけないと……」
「嘘じゃないわ。目撃者がいるの。でも、数人だけじゃ誰も信じてくれないのよ。だから、その裏付けが欲しいの」

 レンコはクロードの腕に絡みついた。
 クロードの背筋に冷たいものが走る。

「私のこと、好きなんでしょ? なら、出来るでしょ?」

──どうする?
 頷かなければ、告白が嘘だったとバレるだろうか。
 しかし、ここで頷いたら、兄のアナスタシオスを裏切ることになる。
 今後、レンコと接触することにも。
 レンコから情報を引き出すなら、その方が都合が良いが、嘘がバレる可能性も上がる。
 考えた末、クロードが出した答えは。

「おれ、嘘は……つけません」

 目的のためとはいえ、兄を裏切るような嘘をつくことは出来なかった。
 レンコは舌打ちをした。

「あっそ! 使えない奴!」

 レンコは頬を膨らませて、立ち去った。

「……はあ~」

 レンコの後ろ姿を見送ると、クロードは緊張が解けて、その場にしゃがみ込んだ。
──上手くいった……よな? 最後まで〝アナスタシア〟の弟だってバレてなかったよな?

「とりあえず、兄さんに報告しないと」
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