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ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ
役立たずになりたくなかっただけなのに
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クロードがレンコと話したその夜、秘密のお茶会にて。
クロードはレンコと話したことをアナスタシオスに伝えた。
レンコは誰かと結ばれたがっていること。
その誰かは攻略対象の中にいること。
「……以上がレンコから聞き出せた情報だ」
アナスタシオスは足と腕を組み、その報告を黙って聞いていた。
それが怒ってるように感じて、クロードは汗をダラダラとかく。
──役立たずだって思われてるのかな……。誰を攻略したがっているかまでは聞き出せなかったし……。そこが一番重要なのに!
そう思ったクロードは怒られる前に頭を下げた。
「ごめん。レンコに協力するって嘘をついてたら、もうちょっと詳しく聞き出せたはずなのに……」
アナスタシオスはしかめっ面のまま、長いため息をついた。
「……話は大体わかった」
そう言った直後、アナスタシオスは鋭い目つきで、クロードを睨みつけた。
クロードはぎょっとする。
「クロード。なんで、勝手にレンコに会った? 告白なんて危ねえ橋渡ってまでよォ」
──勝手なことをしたから怒ってるのか?
クロードは咄嗟に弁解する。
「に、兄さんがレンコに避けられてたから。おれが聞き出すしかないと思って……」
「迷惑だ」
アナスタシオスはばっさりとそう切り捨てる。
「てめえはてめえにしか出来ないことがある。そんときにやる気を出しゃあ良いんだ。余計なことにすんじゃねえ」
「でも──!」
「わかったな? クロード」
「返事は?」とアナスタシオスは指で強く机を突く。
クロードはわなわなと体を震わせた。
「……兄さんの馬鹿野郎!」
そう叫んで、部屋を飛び出していった。
アナスタシオスは息をつき、椅子の背凭れに背をつける。
「──そんなに恐れることですか?」
ミステールが脈絡もなくそう聞いた。
「……何の話だ、ミステール」
アナスタシオスはその意味を何となくわかっていたが、知らないふりをした。
「貴方は避けたいんでしょう? クロードくんもレンコの標的になることを」
「そりゃそうだろ。相手の目的がわかってねえんだ。何をしでかすか」
アナスタシオスは足を組み直した。
「クロードは馬鹿正直だから、駆け引きが出来ねえ。いつ、俺の味方だとバレて、俺共々駆逐されるか……。それだけは絶対に回避してやる」
アナスタシオスは決意を目に宿らせて、そう言った。
ミステールは彼と同じ目をした男を知っている。
先程まで、この部屋にいた男だ。
思わず、「ククッ」と笑い声が出た。
「ナーシャ坊ちゃんはクロードくんのこと、大好きですよねえ」
「は? 逆だろ。クロードが俺の顔好き過ぎんの」
「とか言っちゃって。普通の兄は弟のことを手放しで信じたりしないでしょう? この世界が物語の世界である。しかも、将来死ぬ運命にあるなんて」
「お前に普通の兄弟を説かれるとはなあ」
そう言って、アナスタシオスはニヤニヤと笑った。
「まあ確かに、僕のところは特殊ですが……」
ミステールには双子の兄弟がいる。
生まれた時から王位争いをしていて、現在縁を切っているが、たまに会ってお茶をしている仲だ。
普通の兄弟とは程遠いだろう。
「でも本当に、弟なだけが理由なんですか?」
「当然だろ。クロードは俺のたった一人の家族なんだから──」
アナスタシオスはそこまで言って、しまった、という顔をした。
それをミステールが逃す訳がなかった。
「『たった一人の家族』って、どういうことでしょう? 旦那様も奥様もご健在ですよね」
アナスタシオスは「墓穴掘った……。しかも、こいつの前で……」とブツブツ言いながら顔を覆った。
「あー……まあ、そうだよ……。でも、いねえみたいなもんだ」
「『いねえみたいなもん』とは?」
ミステールは食い下がる。
アナスタシオスは口を真一文字に閉じていたが、観念して話し始めた。
「……俺とクロード、顔が似てねえだろ」
「そうですね。兄弟とは思えないくらい」
父の遺伝子が強いか、母の遺伝子が強いか、はたまた隔世遺伝か──様々な要因で、顔の似てない兄弟はごまんといる。
しかし、アナスタシオスとクロードはあまりにも違う。
髪の毛と瞳と肌の色も、骨格も、声も、何もかも。
ミステールは一卵性の双子で、兄弟と顔がそっくりだからこそ、強くそう思う。
「俺の親もそう思ったらしい。特に俺は、両親のどっちにも顔が似てねえ。となると、親父はお袋の不貞を疑い始める訳だ」
「な、ナーシャ坊ちゃんが不貞の子だと?」
「そういうこと」
ミステールは珍しく動揺していた。
シナリオには存在しない〝裏設定〟。
初期購入特典や攻略本で明かされるゲームの裏設定は、システムに介在出来るミステールでも知り得ない情報だ。
「真偽はわかんねえけどな。親父は自分の血が入ってねえかもしれねえ俺を、当主にしたくなかったんだ。だから、クロードだけを可愛がった。逆に、お袋は見目麗しい俺だけ可愛がって、クロードは無視」
「凄い親だ」
「だろ? 男爵家当主なんて、墓ぐらいしか継ぐもんねえのによ……」
アナスタシオスは悲しげに目を伏せる。
「俺も二人の扱いが違う理由を知った当初は苦しんだよ。お袋にクロードの悪口吹き込れてたし、クロードのことなんか嫌いだった」
クロードはレンコと話したことをアナスタシオスに伝えた。
レンコは誰かと結ばれたがっていること。
その誰かは攻略対象の中にいること。
「……以上がレンコから聞き出せた情報だ」
アナスタシオスは足と腕を組み、その報告を黙って聞いていた。
それが怒ってるように感じて、クロードは汗をダラダラとかく。
──役立たずだって思われてるのかな……。誰を攻略したがっているかまでは聞き出せなかったし……。そこが一番重要なのに!
そう思ったクロードは怒られる前に頭を下げた。
「ごめん。レンコに協力するって嘘をついてたら、もうちょっと詳しく聞き出せたはずなのに……」
アナスタシオスはしかめっ面のまま、長いため息をついた。
「……話は大体わかった」
そう言った直後、アナスタシオスは鋭い目つきで、クロードを睨みつけた。
クロードはぎょっとする。
「クロード。なんで、勝手にレンコに会った? 告白なんて危ねえ橋渡ってまでよォ」
──勝手なことをしたから怒ってるのか?
クロードは咄嗟に弁解する。
「に、兄さんがレンコに避けられてたから。おれが聞き出すしかないと思って……」
「迷惑だ」
アナスタシオスはばっさりとそう切り捨てる。
「てめえはてめえにしか出来ないことがある。そんときにやる気を出しゃあ良いんだ。余計なことにすんじゃねえ」
「でも──!」
「わかったな? クロード」
「返事は?」とアナスタシオスは指で強く机を突く。
クロードはわなわなと体を震わせた。
「……兄さんの馬鹿野郎!」
そう叫んで、部屋を飛び出していった。
アナスタシオスは息をつき、椅子の背凭れに背をつける。
「──そんなに恐れることですか?」
ミステールが脈絡もなくそう聞いた。
「……何の話だ、ミステール」
アナスタシオスはその意味を何となくわかっていたが、知らないふりをした。
「貴方は避けたいんでしょう? クロードくんもレンコの標的になることを」
「そりゃそうだろ。相手の目的がわかってねえんだ。何をしでかすか」
アナスタシオスは足を組み直した。
「クロードは馬鹿正直だから、駆け引きが出来ねえ。いつ、俺の味方だとバレて、俺共々駆逐されるか……。それだけは絶対に回避してやる」
アナスタシオスは決意を目に宿らせて、そう言った。
ミステールは彼と同じ目をした男を知っている。
先程まで、この部屋にいた男だ。
思わず、「ククッ」と笑い声が出た。
「ナーシャ坊ちゃんはクロードくんのこと、大好きですよねえ」
「は? 逆だろ。クロードが俺の顔好き過ぎんの」
「とか言っちゃって。普通の兄は弟のことを手放しで信じたりしないでしょう? この世界が物語の世界である。しかも、将来死ぬ運命にあるなんて」
「お前に普通の兄弟を説かれるとはなあ」
そう言って、アナスタシオスはニヤニヤと笑った。
「まあ確かに、僕のところは特殊ですが……」
ミステールには双子の兄弟がいる。
生まれた時から王位争いをしていて、現在縁を切っているが、たまに会ってお茶をしている仲だ。
普通の兄弟とは程遠いだろう。
「でも本当に、弟なだけが理由なんですか?」
「当然だろ。クロードは俺のたった一人の家族なんだから──」
アナスタシオスはそこまで言って、しまった、という顔をした。
それをミステールが逃す訳がなかった。
「『たった一人の家族』って、どういうことでしょう? 旦那様も奥様もご健在ですよね」
アナスタシオスは「墓穴掘った……。しかも、こいつの前で……」とブツブツ言いながら顔を覆った。
「あー……まあ、そうだよ……。でも、いねえみたいなもんだ」
「『いねえみたいなもん』とは?」
ミステールは食い下がる。
アナスタシオスは口を真一文字に閉じていたが、観念して話し始めた。
「……俺とクロード、顔が似てねえだろ」
「そうですね。兄弟とは思えないくらい」
父の遺伝子が強いか、母の遺伝子が強いか、はたまた隔世遺伝か──様々な要因で、顔の似てない兄弟はごまんといる。
しかし、アナスタシオスとクロードはあまりにも違う。
髪の毛と瞳と肌の色も、骨格も、声も、何もかも。
ミステールは一卵性の双子で、兄弟と顔がそっくりだからこそ、強くそう思う。
「俺の親もそう思ったらしい。特に俺は、両親のどっちにも顔が似てねえ。となると、親父はお袋の不貞を疑い始める訳だ」
「な、ナーシャ坊ちゃんが不貞の子だと?」
「そういうこと」
ミステールは珍しく動揺していた。
シナリオには存在しない〝裏設定〟。
初期購入特典や攻略本で明かされるゲームの裏設定は、システムに介在出来るミステールでも知り得ない情報だ。
「真偽はわかんねえけどな。親父は自分の血が入ってねえかもしれねえ俺を、当主にしたくなかったんだ。だから、クロードだけを可愛がった。逆に、お袋は見目麗しい俺だけ可愛がって、クロードは無視」
「凄い親だ」
「だろ? 男爵家当主なんて、墓ぐらいしか継ぐもんねえのによ……」
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