悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ

文字の大きさ
40 / 79
ゲーム本編編 ヒロインの座を奪い取れ

役立たずになりたくなかっただけなのに

しおりを挟む
 クロードがレンコと話したその夜、秘密のお茶会にて。
 クロードはレンコと話したことをアナスタシオスに伝えた。
 レンコは誰かと結ばれたがっていること。
 その誰かは攻略対象の中にいること。

「……以上がレンコから聞き出せた情報だ」

 アナスタシオスは足と腕を組み、その報告を黙って聞いていた。
 それが怒ってるように感じて、クロードは汗をダラダラとかく。
──役立たずだって思われてるのかな……。誰を攻略したがっているかまでは聞き出せなかったし……。そこが一番重要なのに!
 そう思ったクロードは怒られる前に頭を下げた。

「ごめん。レンコに協力するって嘘をついてたら、もうちょっと詳しく聞き出せたはずなのに……」

 アナスタシオスはしかめっ面のまま、長いため息をついた。

「……話は大体わかった」

 そう言った直後、アナスタシオスは鋭い目つきで、クロードを睨みつけた。
 クロードはぎょっとする。

「クロード。なんで、勝手にレンコに会った? 告白なんて危ねえ橋渡ってまでよォ」

──勝手なことをしたから怒ってるのか?
 クロードは咄嗟に弁解する。

「に、兄さんがレンコに避けられてたから。おれが聞き出すしかないと思って……」
「迷惑だ」

 アナスタシオスはばっさりとそう切り捨てる。

「てめえはてめえにしか出来ないことがある。そんときにやる気を出しゃあ良いんだ。余計なことにすんじゃねえ」
「でも──!」
「わかったな? クロード」

「返事は?」とアナスタシオスは指で強く机を突く。
 クロードはわなわなと体を震わせた。

「……兄さんの馬鹿野郎!」

 そう叫んで、部屋を飛び出していった。
 アナスタシオスは息をつき、椅子の背凭れに背をつける。

「──そんなに恐れることですか?」

 ミステールが脈絡もなくそう聞いた。

「……何の話だ、ミステール」

 アナスタシオスはその意味を何となくわかっていたが、知らないふりをした。

「貴方は避けたいんでしょう? クロードくんもレンコの標的になることを」
「そりゃそうだろ。相手の目的がわかってねえんだ。何をしでかすか」

 アナスタシオスは足を組み直した。

「クロードは馬鹿正直だから、駆け引きが出来ねえ。いつ、俺の味方だとバレて、俺共々駆逐されるか……。それだけは絶対に回避してやる」

 アナスタシオスは決意を目に宿らせて、そう言った。
 ミステールは彼と同じ目をした男を知っている。
 先程まで、この部屋にいた男だ。
 思わず、「ククッ」と笑い声が出た。

「ナーシャ坊ちゃんはクロードくんのこと、大好きですよねえ」
「は? 逆だろ。クロードが俺の顔好き過ぎんの」
「とか言っちゃって。普通の兄は弟のことを手放しで信じたりしないでしょう? この世界が物語の世界である。しかも、将来死ぬ運命にあるなんて」
「お前に普通の兄弟を説かれるとはなあ」

 そう言って、アナスタシオスはニヤニヤと笑った。

「まあ確かに、僕のところは特殊ですが……」

 ミステールには双子の兄弟がいる。
 生まれた時から王位争いをしていて、現在縁を切っているが、たまに会ってお茶をしている仲だ。
 普通の兄弟とは程遠いだろう。

「でも本当に、弟なだけが理由なんですか?」
「当然だろ。クロードは俺のなんだから──」

 アナスタシオスはそこまで言って、しまった、という顔をした。
 それをミステールが逃す訳がなかった。

「『たった一人の家族』って、どういうことでしょう? 旦那様も奥様もご健在ですよね」

 アナスタシオスは「墓穴掘った……。しかも、こいつの前で……」とブツブツ言いながら顔を覆った。

「あー……まあ、そうだよ……。でも、いねえみたいなもんだ」
「『いねえみたいなもん』とは?」

 ミステールは食い下がる。
 アナスタシオスは口を真一文字に閉じていたが、観念して話し始めた。

「……俺とクロード、顔が似てねえだろ」
「そうですね。兄弟とは思えないくらい」

 父の遺伝子が強いか、母の遺伝子が強いか、はたまた隔世遺伝か──様々な要因で、顔の似てない兄弟はごまんといる。
 しかし、アナスタシオスとクロードはあまりにも違う。
 髪の毛と瞳と肌の色も、骨格も、声も、何もかも。
 ミステールは一卵性の双子で、兄弟と顔がそっくりだからこそ、強くそう思う。

「俺の親もそう思ったらしい。特に俺は、両親のどっちにも顔が似てねえ。となると、親父はお袋の不貞を疑い始める訳だ」
「な、ナーシャ坊ちゃんが不貞の子だと?」
「そういうこと」

 ミステールは珍しく動揺していた。
 シナリオには存在しない〝裏設定〟。
 初期購入特典や攻略本で明かされるゲームの裏設定は、システムに介在出来るミステールでも知り得ない情報だ。

「真偽はわかんねえけどな。親父は自分の血が入ってねえかもしれねえ俺を、当主にしたくなかったんだ。だから、クロードだけを可愛がった。逆に、お袋は見目麗しい俺だけ可愛がって、クロードは無視」
「凄い親だ」
「だろ? 男爵家当主なんて、墓ぐらいしか継ぐもんねえのによ……」

 アナスタシオスは悲しげに目を伏せる。

「俺も二人の扱いが違う理由を知った当初は苦しんだよ。お袋にクロードの悪口吹き込れてたし、クロードのことなんか嫌いだった」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

処理中です...