異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

ノーベンバー商会の外壁

　ノエルの忠告を聞いた倉野は一つの答えを探しながら歩いた。
　軽い会話を交わしながらひたすら道を進んでいくと空が暗くなり始める。

「暗くなってきましたなぁ。どうにか日が落ち切る前に到着したいのですが」

　額の汗を拭いながらアルダリンが呟いた。
　暗くなれば視界も悪くなり、危険への反応も遅くなる。完全に暗くなってしまえばその場で野宿することも視野に入れなければいけない。
　魔法で光を確保すれば進むこともできるが、魔物や盗賊に居場所を知らせることになるためそちらも危険が伴う。
　アルダリンの呟きを聞いていたノエルが同意するように頷いた。

「そうね。危険もあるけどそろそろ疲労も限界だわ。できればベッドで眠りたいわね」

　ノエルがそう話すとリオネが前方にある光に気づく。

「あ、ほら。光が見えますよ、スデルスタンじゃないですか」

　遠くに見える小さな光だ。よく目を凝らして見るとそれが街であることわかる。煉瓦の外壁に囲まれた街の周囲にいくつかの火が見えた。

「おお、まだ遠いですが目的地が見えると、まだ進めそうな気がしますな」

　アルダリンは嬉しそうにそう話す。目的地まで後どれだけ歩くかわかっていない状況では足が重く感じるが、ゴールさえわかっていれば足は軽い。気持ちの違いでしかないが、それでも四人は疲れているはずなのにこれまで以上の速度で進む。
　スデルスタンの目前まで到着すると、煉瓦の外壁が精巧に作られているのがわかった。豪華というわけではないが、丁寧に作られており他の街よりも堅固な壁だろうとわかる。
　街の中に入る扉を目指し壁沿いに歩きながらその精巧さに感心している倉野にアルダリンが声をかけた。

「ほっほっほ、気付かれましたか」
「え？」
「クラノさんは今、壁の完成度に感心されておりましたな。いやはやお目が高い」
「あ、はい。煉瓦も質が良さそうですし、積み方も丁寧ですよね」
「実はこの外壁を作ったのは私どもなんですよ。ノーベンバー商会は設計製造に特化した商会ですので、独自の技術と製造方法を用いて作らせていただきました」

　誇らしげにそう語るアルダリン。その話に感心したノエルが話を掘り下げる。

「へぇ、すごいわね。オランディ中の街にこの外壁があるの？」
「いえいえ、例えば首都のウルステルダンなどは古くから使われている外壁がありますので、ノーベンバー商会は手を加えておりません。いくつかの重要な街だけですよ。このスデルスタンという街は港と首都を繋ぐ重要な拠点ですので外壁を作らせていただきました。強固な外壁に守られているというところから現在スデルスタンは様々な商品を取り揃える物流の街になっておりますよ」

　アルダリンが答えるとノエルは嬉しそうな表情で言葉を返した。

「え、本当？　じゃあ、珍しいものとか売ってるかもしれないわね。そろそろ剣を買い換えたいと思っていたところなのよ。楽しみになってきたわ」

　そんな話をしながら四人は歩き続け、街に入る扉まで辿り着く。