五年前に生まれたキミと一ヶ月後に死ぬ俺。

澤檸檬

文字の大きさ
5 / 8

ナギ

しおりを挟む
 やったことない人が何を正論を言っているんだ。
 そう思いながらも戻っていく安田さんの背中に頭を下げた。

 見送ってから俺は女の子に話しかける。

「名前はなんて言うの?」
「ナギだよ」
「そっか。ナギちゃん、とりあえず中でお話聞いてもいい?」

 そう言ってから俺はナギを部屋の中へと案内した。

「ここに座ってて。えっと今はお茶しかないな。お茶でもいいかい?」
「うん」

 良かった。本当はジュースなんかが良いんだろうけど、そんなものは常備していない。
 あるのは麦茶と青汁くらいだ。
 この二択なら流石にお茶だろう。
 俺はお茶を出してから、ナギの正面に座った。

「はい、どうぞ」
「いただきます」

 そう言うとナギは小さな両手でコップを掴んで麦茶を飲み干した。
 礼儀作法に厳しかった彩乃の教育なのだろう。ちゃんといただきますと言ってから飲んだ。
 面影もそうだが、ナギの所作が彩乃を思い出させる。
 一息ついてから俺はナギに質問を始めた。

「どこからきたのかな?」
「ママのとこ」
「えーっとママはどうしたの」
「わかんない」

 わかんないのか。そうだよな。
 だって五歳だもの。
 いっそ俺も五歳になりたいよ。

「なんでここにきたのかな?」
「行きなさいって言われたの」
「ママに?」
「ママに」

 せめて俺宛の手紙を持たせておいてくれよ彩乃。

「一人できたの?」
「うん。あのね、タクシー?に乗ってきたよ」

 なるほど、近くまでタクシーで来たのか。
 その後、うろうろしてる時に安田さんと出会ったってことだな。
 いや、危なすぎるだろ。
 だけど、あの彩乃のことだ。
 そうしなけりゃならないことがあったのかもしれない。

「他に何かママに言われてないかい?」
「パパのところで暮らしなさいって」

 簡単に言ってくれるな。
 そんな宅配便を送るみたいに気軽に送られても困る。
 と言うか、ここに住んでなかったらどうするつもりだったんだ?
 いや、それも調べてあるってことか。
 だとしたら、彩乃に何か起きたのかもしれないな。

 そこで俺は現実を思い出した。
 一ヶ月後には死ぬんだ。
 確かに状況的にはナギは俺の子かもしれない。
 だけど今の俺が受け入れることはできない。
 今更父親ぶることもできないし、自分の死を見せるのも嫌だ。
 ようやく会えたと思った父親がすぐに死んだら少なからず心の傷になるだろう。
 少し考えてから俺は口を開いた。

「と、とにかくママと話をしてみないとね。お家はわかる?」

 ナギは困った表情を浮かべる。

「わかんない」

 当たり前である。
 五歳の子が一人でタクシーに乗ってここまで来たのだ。
 家の場所なんてわかる訳が無い。
 俺は高速で頭を回転させた。
 どうするべきか。
 考えているとナギがため息をついた。

「どうしたのかな?」
「お腹すいた」
「あ、そっか。もうお昼だもんね。ご飯買ってくるよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...