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IHクッキングヒーター

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「わぁ、すごい! キラキラしてる机だー、変なものがいっぱい、これは何?」

 フィーネが指差しているのはステンレス製の調理台である。こちらの世界ではレンガや木材を組み合わせて、家を造る。もしも鉄で作ろうとすれば、費用が高くなるだけではなく、錆びやすく扱いづらい。
 ましてやステンレスなど見たこともないだろう。
 さらに調理台の下には最新型のオーブンを搭載している。フィーネはオーブンのガラスに顔を貼り付けながら問いかけていた。

「それはオーブンだよ。何かにじっくり火を通したい時に使うんだ。パンを焼き直せば香ばしくて美味しくなるんだよ」

 冨岡は答えながらアメリアに視線をやる。彼女は調理台の隣に設置されたIHクッキングヒーターを不思議そうに眺めていた。

「これは黒いガラスの板を貼り付けているのでしょうか?」

 訊ねられた冨岡は小さく微笑んで答える。

「それは・・・・・・なんて言えばいいんでしょう。焼き台で伝わりますか?」
「焼き台・・・・・・ここから火が出るんですか? 魔石を埋め込んでいるみたいな」

 魔石と言われても冨岡にはわからない。だが、うっすらとイメージはできる。

「そんな感じです」

 冨岡はそう答えた。
 この屋台に搭載されている電化製品は全て太陽光発電によって動く。しかし、それをうまく伝えるのは難しいと判断したのだ。
 元々、ガスで火を扱うコンロを搭載しようと考えていたが、一々ガスを補充しなければならないこと、扱いを間違えれば危険であること、フィーネが手伝ってくれる時に火がない方がいいだろうことを考え、冨岡はIHクッキングヒーターを採用したのである。
 さらに冨岡は調理場の説明を続けた。

「タンクに水を貯めておけばいつでも出すことができます」

 言いながら流し場の蛇口を捻る。
 蛇口から溢れる水を見ればアメリアもフィーネも驚くだろう、と期待していた冨岡だったが、存外「へぇ」くらいの反応だった。

「あれ? 驚かないですか・・・・・・ってそうか」

 そこで冨岡は思い出す。この世界では水の魔法は最初に覚えるもの。水が出てくることに対する驚きは薄くて当然だった。

「じゃ、じゃあ、これです!」

 次こそは、と思い冨岡は壁についているスイッチを押す。調理場の電気が一気につき、内部を煌々と照らした。
 
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