上 下
171 / 479

奇跡の隠蔽

しおりを挟む
 白の創世といえば、元々この教会を管理していた世界に名を轟かせる宗教団体である。
 表向きは寄付を受けて慈善事業を行なっていたのだが、結局大きな不祥事を起こし世界中で批判を浴び、撤退することになったらしい。孤児を引き受けて養護していたのも慈善事業の一つだ。
 
「元々この教会を運営していた『白の創世』ですよね? それがフィーネちゃんの出生と一体・・・・・・」

 未だ理解できない冨岡が聞き返すと、アメリアはどう説明すればいいのかと首を傾げる。

「えーっと、そうですね。少し複雑になるのですが、もう一つ『聖女伝説』というお話が絡んでくるんです」

 追加された新しい情報により理解がさらに遅れる冨岡。しかし、『聖女』という言葉が出てきたおかげで、少しずつ真相に近づいている実感は湧く。

「聖女伝説ですか・・・・・・そう言えばフィーネちゃんの能力を『聖女の奇跡』と呼んでいましたよね。それと何か関係が?」
「ええ、この辺りの地域で語り継がれている御伽噺のようなものなのですが、大きな戦争によって荒れていたこの場所を守った『聖女』の伝承です。どこからともなく現れた彼女は、人々から死を遠ざけ、怒りを納めた・・・・・・そう語り継がれています」

 さらにアメリアは聖女の情報を付け足した。
 後の研究によって聖女は、幼い頃から常人では考えられないほどの治癒魔法を扱っていたとわかる。さらに彼女の魔力に触れた者は、心から怒りや不安が消えるらしい。
 その全てを含めて『聖女の奇跡」と呼ばれている。
 当然ながら大きな功績を残した彼女は、民衆から支持を受けた。
 それが『白の創世』にとって不都合な事実だという。
 話を聞いた冨岡は理解した上で首を傾げた。

「聖女が不都合・・・・・・ですか? 話の流れからフィーネちゃんが聖女と似たような能力を持っていることはわかりました。けど、それが『白の創世』にとって不都合な理由が・・・・・・むしろ、言い方は悪いですけど聖女の名前を利用できると考える方が自然かと」
「そうですね・・・・・・しかし、当時の『白の創世』は信者が聖女信仰に移ってしまうのでは、と危惧したそうです。元々、聖女は支持を集めていましたし、聖女信仰をする宗教団体もありました。聖女の能力を受け継ぐ者が現れれば、そちらに流れる可能性が高い。それに『白の創世』は聖女を否定する立場にありましたから」
「ん? 聖女を否定?」
「はい。世界を平和にしているのは『白の創世』というのが教義と言いますか・・・・・・それによって信者の心を掴んでいましたから、認めるわけにも発表するわけにもいかず隠していた、ということです」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

竜殺しの料理人~最強のおっさんは、少女と共にスローライフを送る~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:1,971

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:24,050pt お気に入り:1,397

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:53,502pt お気に入り:53,793

追放王子の辺境開拓記~これからは自由に好き勝手に生きます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,397pt お気に入り:2,383

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,584pt お気に入り:335

待ち遠しかった卒業パーティー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,772pt お気に入り:1,295

会社を辞めて騎士団長を拾う

BL / 完結 24h.ポイント:2,827pt お気に入り:40

処理中です...