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こちらでの出会い

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 少し離れたコンビニで買い物をして家に帰ってきた時、ああ帰ってきたと感じることがある。
 住んでいる街から離れ、旅行をして最寄り駅に戻ってきた時も同じだ。
 それが外国であれば空港に降り立ち、自国の空気を吸った瞬間に思うだろう。
 向かった場所が離れていれば離れているほど、帰ってきたと感じる範囲は広くなるものだ。
 異世界から実家に戻ってきた時の『帰ってきた』感は、冨岡にしかわからない。
 真っ暗な山奥の実家で冨岡は目一杯空気を吸い込む。

「よし、行くか!」

 この空気が富岡にとっては回復薬に等しい。
 なんて感慨に耽っている暇などない。冨岡が車に乗り、時刻を確認すると既に深夜十二時であった。

「うわ、もうこんな時間か。今から山を降りて買い物して帰ってきたら、四時とか? やばっ、ちょっと急がなきゃな」

 当然、安全運転の範囲内で冨岡は車を走らせる。
 もう一度言う。安全運転の範囲内だ。
 電灯など一つもない山道で警戒すべきは動物。突然飛び出してきて、車のライトに驚きそのまま硬直してしまうのだ。

「この辺の開発が始まれば電灯つけてくれるかなぁ」

 そんな独り言を漏らしながら山を下っていると、大きなカーブの手前で冨岡の目に動物と思しき影が映る。

「おっと」

 余裕を持ってブレーキを踏み、目を凝らして確認した。
 カーブの少し奥、車の通り道から外れたところで何かが動いている。その影はこちらのライトに気付き、動きを止めた。

「動物・・・・・・猪か? それにしては背が高い・・・・・・」

 冨岡は警戒しながら少しずつカーブに近づく。
 数分後、冨岡はその影が消えるまで動かずに待っていればよかったと後悔することになるのだが、今の彼は知らない。後悔はいつだって後にするものだ。

「お、影が動いて・・・・・・こっちに向かってる? いや、これ動物じゃないな、人か?」

 冨岡が影の輪郭を掴み始めた頃、カーブの手前がチカチカと光を放つ。
 冨岡が運転している車のライトから外れていたので気づかなかったが、車が一台止まっていた。おそらく、離れた場所から車の鍵を開けたためにライトが点滅したのだろう。

「なんだ、車か。そりゃこんな山奥に来るんだから車だよな。って、こんな山奥に人?」

 これまで冨岡がこの山で自分以外を見かけたことはほとんどない。
 それもこんな深夜に。

「いやいやいや、星でも見にきたんだろう」

 一瞬、嫌な可能性が頭をよぎったが、冨岡は自分の中で否定する。

「ほら、何か抱えてる。あれは望遠鏡だな、長いし。そんで、先っぽに何か大きなものが・・・・・・ってめちゃくちゃシャベル。違うよ、俺がびびっていっぱい喋ることとかけてないよ」

 そんなくだらないことを言いながら、冨岡は見て見ぬ振りをしようと車のアクセルを踏んだ。
 だがもう遅い。その影は走り出し、車の前に立ちはだかった。
 こうなれば轢かない限り進めないだろう。

「あわわわわ」

 人は慌てると本当にそんな声を出すのだな、と感想を抱く余裕など今の冨岡にはない。
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