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義兄弟

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 時間的に早くアメリアたちのいる世界に戻りたい、と思う冨岡だったが流れで美作を家に上げる。
 玄関を通り、源次郎の仏壇を置いている和室に案内した。

「こっちです。どうぞ」
 
 そこまでの移動で家の中を確認した美作は、顎髭に触れながら首を傾げる。

「家に生活感がないな」
「え?」
「いや、職業柄他人の家は何度も見てきたんだが、雰囲気は違えどそれぞれの生活感ってのがあるもんだ。しかし、この家には人が住んでいる気配がない。まぁ、聞き流してくれていいさ」

 美作の言葉を聞いた冨岡は一瞬心臓が跳ねるのを感じた。
 最近はずっとアメリアの教会で寝泊まりしているため、この家に生活感がないのは当然である。
 全てを見透かされているような気がして、背中に寒気を感じた。
 冨岡が何も答えずにいると、美作は意味深は笑みを浮かべてから仏壇の前で腰を下ろし、正座で手を合わせる。

「久しぶりだな、源次郎さん」

 その口調は優しく、まるで親にでも話しかけているような親しさを感じた。
 さらに美作は言葉を続ける。

「俺とアンタの関係だろ。死ぬ前に一言ぐらいかけてくれても良かったんじゃないか? いや、アンタはそういう性格か。どうせ孫にもギリギリまで何も言わなかったんだろ。不思議だな、もう源次郎さんに怒られることがないってのは寂しいもんだぜ。アンタには全てを教えてもらった。俺の師であり、親であり、悪友だった」

 美作はそう言ってから振り返り、冨岡に笑みを向けた。

「アンタの前で源次郎さんを親と呼ぶのは、気を悪くさせるかい?」
「いえ、そうでもないですよ。俺にも爺ちゃんの交友関係の全てはわかりませんし、何となく兄弟がいたんだって気持ちになってます」
「ははっ、兄弟か。間違いなくアンタは源次郎さんの孫であり子だよ」
「変な日本語」

 気がつけばいつの間にか美作に心を許していた冨岡。
 彼が源次郎の知人で間違いないと確信したのだ。それもかなり親しい存在であったと推察できる。
 しかし、疑問は残っていた。

「そういえば、どうして最初から爺ちゃんの知り合いだって教えてくれなかったんですか?」

 冨岡が問いかけると美作は頬を掻きながら、軽く笑う。

「俺は一歩的にアンタのことを知ってたけど、アンタは俺のことを知らなかっただろ? 知らない男が、源次郎さんが亡くなった途端に知り合いだと名乗るのは怪しすぎる。生前、源次郎さんはこの山を売って孫にお金を遺すって言ってたからな。遺産目当てだと思われたくないし、そもそも俺はもう十分貰ってる」
「爺ちゃんから遺産を?」
「ああ、俺が生きていく術は全て源次郎さんから貰ったものだよ。それ以外には何もいらない」
「というか、十分怪しかったですけどね。確かに今更遺産目当てだとは思いませんよ。じゃあ、美作さんは単純に爺ちゃんに会いに来てくれたってことですよね」
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