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そこに咲く花

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 そこにいたのキュルケース公爵令嬢ローズである。
 小さな体で冨岡の先に立ち塞がり、腕を組んで頬を膨らませていた。名前通り、花のような可愛らしさを撒き散らすローズ。
 彼女の背後では公爵家執事ダルクが、見守るように控えていた。
 元々キュルケース家との繋がりは、ローズの偏食を治すという依頼から始まっている。
 最初は冨岡に対して距離を置いていたローズだったが、次第に心を開き最後には冨岡をあだ名で呼ぶようになっていた。
 そんな令嬢が明らかに不満です、と表情で主張している。

「お久しぶりです、ローズお嬢・・・・・・じゃなくてローズ」

 呼び捨てにするよう言われていたことを思い出し、冨岡がローズに微笑みかけた。
 するとローズは一気に走り出して冨岡に近づき、ドレスの裾を軽く持ち上げたかと思えば、右足を振りかぶって冨岡の脛を蹴り付ける。
 
「うぐ!」

 思わず痛みの声を漏らす冨岡。幼い女の子の蹴りではあるが、脛に入るとそれなりに痛い。それに加えて、ローズの履いている靴は爪先に木製の装飾が施されていた。
 骨に響くような痛みである。
 背後で控えていたダルクが慌ててローズの背中を追い、慌てて止めた。

「お嬢様、おやめください。トミオカ様の脛を・・・・・・」
「離しなさい、ダルク!」
「ダメです! ちょっと、お嬢様? 的確に脛を蹴り続けるのはおやめください。ああ、トミオカ様の脛が」

 ダルクが止めている間も、ローズは冨岡に蹴りを続けた。
 
「いてっ、ちょ、ちょっとローズ。どうしたんですか。俺が何かしました?」

 冨岡が問いかけると、ローズはさらに頬を膨らませる。これ以上空気を取り込んでしまうと、風船のように破裂してしまうのではないか、というほど膨れてから、一気に口を開いた。

「何もしてないから問題なんでしょ!」

 ようやく蹴りが止み、痛みから解放された冨岡は首を傾げる。

「何もしてないから、ですか?」
「そうよ! トミーは私の講師なんでしょ。教え子をこんなにも放っておくなんて、ありえないわ」
「こんなにも、って数日じゃないですか」

 冨岡が苦笑すると、ローズは不機嫌そうに腕を組んだ。

「トミーの時間と私の時間を一緒にしないでもらいたいわ。私のこの若い時間は貴重なの。『たった数日』じゃない。『数日も』と考えなさいよ」
「えーっと、その」

 ローズに対して何を言えばいいのか、冨岡が困っているとダルクが優しく微笑む。

「お嬢様は寂しかっただけでございます。たった一言、お嬢様に会えなくて自分も寂しかった。会えて嬉しいと言っていただければ、万事円満かと」
「ちょっと、ダルク! 何言っているのよ!」

 一気に顔を赤くするローズ。気持ちを言葉にされるのは流石に恥ずかしいようだ。
 ダルクのアドバイスを受けた冨岡は、ローズがそういう子であったと再認識する。素直に自分の気持ちを言葉にできない、そんな女の子だ。

「そうですね、確かにローズに会えなくて寂しかったですよ。お会いできて俺も嬉しい」
「ト、トミー。ま、まぁ、そうでしょうね。私に会えないのは、水を飲まずに生きていくようなものだから。で、でも、そんなにはっきりと言葉にされるのは」
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