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全部ぶん投げて

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 向こう側、冨岡にとっての異世界から鏡を通ってこちらの世界に来たはずの美作。そんな彼が鏡に拒絶されている。通行ゲートが閉ざされたかのように、鏡は鏡としてそこにあるだけだった。
 冨岡の言葉を聞いた美作は、何かを懐かしむように短く目を閉じる。

「確かにこっちの世界は、向こうよりも発展していて便利だ。腹が減れば出前を取ればいいし、遠く離れた者と話すこともできる。こちらの世界で『魔法』は憧れの一つみたいだが、魔法にできるようなことは大抵科学でこなしているさ。何も不満はない。だが、俺は選んでこっちに来たわけじゃないんだ。望んでここにいるわけじゃあない」

 そう話す美作の表情は、悲しげというよりも諦めに近かった。
 ここまで話を聞いた冨岡の頭には、一つの有力な仮説が浮かぶ。

「もしかして、鏡を通ることができなくなった・・・・・・ってことですか? いや、でも俺は何度も・・・・・・それじゃあ、回数制限があるとか?」
「回数制限って機械的だな。そうじゃない、わかりやすく言えばこの鏡は『異世界を行き来するもの』じゃない。『異世界へ行くためのもの』だ」
「行き来じゃなくて、行くため・・・・・・」

 冨岡は美作の言葉を繰り返し、その違いを理解する。
 つまり、あの鏡は単純に二つの世界を繋ぐ道ではなく、一方通行の扉だということ。
 美作は向こうの世界から日本に来て、二度と帰れなくなった。そういう話である。
 その事実を美作は微笑みながら説明した。

「俺はもう帰れない。まぁ、よくある話だろう? 異世界ものの小説や漫画、アニメじゃあありがちな設定だ。異世界転移した後、元の世界には帰れない。そういうことだ。まだまだ疑問だらけだろうから、もう少しだけ補足しておくぜ」

 そう言って、美作は情報を追加する。
 元々この山には『神隠し』の伝承があった。そして消えた者は二度と戻ってこない。その原因がこの鏡である。
 消えた者は異世界へと飛ばされ、二度と元の世界には戻れないのだ。
 そして、異世界にも『神隠し』に近い伝承がある。そちら側で消えた者は、日本に飛ばされてきているらしい。
 しかし、誰でも鏡に入れるわけではない。どのような基準があるのかは不確かだが、鏡をその目で認識できる者とそうでない者がおり、認識できる者でなければ異世界転移には至らないという。
 さらに美作は言葉を続けた。

「俺は向こうの世界で偶然鏡を見つけ、こっちの世界に飛ばされてきたんだ。幸いだったのは、俺に家族がいないこと。向こうの世界に大した心の残りはないってことだな。こっちに飛ばされてすぐ、俺は源次郎さんに見つけられ、世話になったんだ。済む場所からこっちの世界での常識、生きていく術までな」
「・・・・・・じいちゃんは知ってたんですか? 鏡のこと」
「ああ、それも説明しなきゃ話を進められねぇな。いや、先にあっちを・・・・・・あー、なんかめんどくさくなってきた。多いんだよ、説明すること。なんだかんだあって、今がある。そして未来へとつながる」
「おい、めんどくさくなって説明を全部投げるな。ちゃんと聞かせてくださいよ。じいちゃんが鏡のことを知っていた理由」
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