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あっちこっち

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 そんな言葉の意味を理解できず、冨岡はただ背中を追いかける。
 結局、美作は何が言いたいのだろう、と無意識下で脳みそが様々な可能性を浮かべては消していく。黙って話を聞いていれば答えを教えてくれるはずなのに、先を読もうと推測してしまうのは冨岡の癖だ。
 心の準備とでも言うのだろうか。頭の中に選択肢を浮かべておくことで、それほど驚かずに済む。ショッキングな出来事に直面しても、この癖があればある程度衝撃を緩和することができるのだ。
 これまでの生き方が癖を作る。そういうものだ。
 しかし、今回のような突飛すぎる話ではその癖は活かされず、冨岡が有力な可能性を浮かべる前に美作が話し始める。

「久しぶりに見たな、この鏡」

 言いながら彼は鏡面に触れた。
 冨岡がそんなことをすれば、水面のようにすんなりと手を飲み込むだろう。だが、鏡は鏡として形を主張し、美作の手を弾いた。

「やっぱり駄目か」

 その口ぶりからして、そうなることはわかっていたらしい。美作は小さく笑みを浮かべると振り返って冨岡に視線を送る。
 そんな行動の意味を理解した冨岡は、驚いたように口を開いた。

「ど、どういうことですか? いや、そういうことか。美作さんは鏡に入れない・・・・・・え、でも、さっき異世界転移したって話を・・・・・・」
「ははっ、こんがらがっちまうよな。順番に話すから、いちいち驚かずに聞いてくれよ」
「は、はい。ここ最近、驚くことばかりでしたから、そうそう驚きませんよ。もう慣れました」

 冨岡が答えると、美作は鏡を指差しながら話を続ける。

「これまでの話でわかるように、俺もこの鏡を通って異世界転移をした。アンタのようにな。けど、アンタとは違うことがある。俺にとって異世界は、今ここにいるこの世界のことだ。俺はアッチの世界から来た、いわゆる異世界人ってやつなんだよ」
「え、ええ!? ええええええええ!?」

 先ほどの言葉を一気に覆し、大声をあげる冨岡。体を変な形で硬直させ、全身で驚きを表現していた。

「うっせーな、驚かないんじゃねぇのかよ。やまびこが響くくらい驚いてんじゃねぇか」
「だ、だって、美作って名前はめちゃくちゃ日本人の苗字じゃないんですか」
「源次郎さんがこの国に馴染めるように、家名を日本語に変えてくれたんだよ。元々の家名はミャシャーカ。駄洒落みたいなもんさ」
「ミャシャーカを美作って、じいちゃん・・・・・・」

 祖父のセンスに若干がっかりしながら、冨岡は話を続ける。

「それじゃあ、美作さんは向こうの世界の人で、こっちに異世界転移してきたってことですよね。そして、そのままこっちで暮らしている・・・・・・こっちの方が便利だから、ってわけじゃないですよね?」

 話しながら冨岡は、鏡に弾かれた美作の手を思い出した。
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