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冒険者を統べる家

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 翌朝、冨岡は移動販売『ピース』の準備を終えると、営業をアメリアたちに任せてキュルケース家に向かった。
 ちょっとした用があると言えば、アメリアもレボルも深く追求はしてこない。それほど冨岡を信頼しているし、冨岡にとってもありがたかった。
 いつも通りキュルケース公爵邸の入口では、従者が冨岡の顔を見た途端に屋敷の中へと案内してくれる。
 応接室に通された冨岡は、持ってきていた茶葉と茶菓子を従者に渡して執事ダルクを待った。

「今日はどうされましたかな、トミオカ様」

 一人で部屋に入ってきたダルクは、配膳用のカートを押している。アルミ製で軽く車輪の動きにも引っ掛かりがない逸品だ。もちろんこちらの世界で作られたものではなく、冨岡が持ち込み公爵家に贈ったものである。
 カートの上には冨岡の手土産の紅茶と、公爵邸で作った焼き菓子が並べられていた。
 公爵家の料理人が冨岡から聞いたレシピを試しているのだろう。帰る際に茶菓子の感想を聞かれるのが定例となっていた。

「すみません、ダルクさん。突然」
「いえいえ、トミオカ様ならいつでも歓迎ですよ。と言っても今日は旦那様もお嬢様も忙しく、不在にしているのですが」

 申し訳なさそうに言うダルク。
 だが、冨岡が今日会いにきたのはダルクだ。

「俺がいきなり訪ねてきたんですから、そういう時もありますよね。それに今日はダルクさんに会うために来たんですよ」

 冨岡がそう言うとダルクは意外そうな表情を浮かべる。

「おや、私にですか。これはローズお嬢様に嫉妬されてしまいますな」
「何言ってるんですか。どうしてちょっと頬を赤らめるんですか。そうじゃなくて、聞きたいことがあるんです」

 強めに指摘しながらも冨岡は話を進めた。

「聞きたいことですか?」
「ええ、唐突で突拍子もない質問なんですけど、ベルソードという家に聞き覚えはありませんか?」

 冨岡がキュルケース公爵邸を訪ねてきた理由。それは昨夜聞いた『ベルソード』という家名について尋ねるためだった。
 問いかけられたダルクは小さく首を傾げる。

「どうしてそのようなことを? もしかして、私兵を雇おうとお考えでしょうか? 確かに商いを大きくしていけば敵も増えますし、財を狙った賊に襲われる可能性もありますからね。個人的に冒険者を雇っていくより効率的ではありますが」
「私兵? いや、ベルソードについて聞きたくて」
「ですから、ベルソード家の話でしょう? ベルソード家といえば、この国の冒険者ギルドを統べる一家です。大きな商会なんかは冒険者ギルドを通さず、ベルソード家と契約して私兵の派遣を依頼しておりますよ。爵位を持たない者は私兵を持つことができませんから、冒険者と専属契約をして擬似的な私兵とするのが普通ですしね。個人的に依頼するよりも、冒険者ギルドを通すよりもベルソード家を通すのが最も安全・・・・・・そういうことではないですか?」

 想像していたよりもベルソード家が、この国にとって重要な役割を担っていたことに驚く冨岡。この街にいる庶民であれば簡単に会うことができたのだが、それだけの家ともなると個人的に会いにいくのは難しそうだ。まだまだ冨岡の商売は大きな商会と肩を並べるほどではない。
 だとすると、ダルクに話を聞きに来たのはいい判断だった。
 
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