或る友人のこぼれ話

夏乃 葉

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牛乳

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  桐たんすの上にホコリが溜まることがわからないほどの背丈しかなかった頃、私の夢はオトナ(うんと背の高い人間)になることだった。その頃私が父に「なんさいになったらパパより大きくなれるかな」とよく聞いていたらしい。父が私によく「オトナになったらだな」と言っていたのは断片的に覚えている。おそらくこの返答だろう。私は最近20歳になった。ハタチ、大人だ。父は私が大人になる日の七日前に死んだ。初七日がハタチの誕生日だった。

  少し中学の頃の話をすると、まあまず牛乳には困らなかった。ばかな女連中がこぞって給食の牛乳を飲まないのだ。どうも奴らはそれを可愛いと勘違いしているらしい。くたびれたトレーの隅に汗だくの牛乳パックが毎日々々寝転がっていた。私はいつもそこから六つ程くすねていた。
  女連中の尽力のお陰で卒業時には中背の男子と肩を並べていたし、胸なんか連中の3倍は厚かった。

  高校に入ると給食というものが無くなってしまうから致し方なく学校の自販機で牛乳を買っていた。私があまりにも牛乳を欠かさず飲むため、男共が「俺の牛乳も云々」とささやきあってなにやら楽しそうにしていたのを覚えている。どこにいってもやはり女連中は牛乳愛飲者を笑っていた。今度はミルクティやらミルクココアやらを片手に。
  二年生になると背が170センチになっていた。何より胸が大きかったからよくモテた。初めてセックスをしたのはこの頃のことだ。

  現在私は大学院を出てである出版社で翻訳の仕事をしている。来る日も去る日もmilkを牛乳に換えることに余念がない。そんな私にとって今までに背が高くなって良かったと思うことはふたつある。
父より大きくなれたことと、もうひとつは牛乳が美味しいことだ。


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