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本編

第9話_波乱の序章-5

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サークルの集団にいざなわれるように蒼矢ソウヤが室内から出かけたタイミングで、リョウ啓介ケイスケは後ろから早足で近付いていく。

「ちょっとっ…髙城タカシロ、待てって!」
「予定は…図書館は、行かなくていいのか?」

引き留めるように声を掛けたふたりの方へ、蒼矢は軽く振り向いた。

「…うん、別で時間作るから」
「そっか…」
「次の講義には遅れないように行くよ」

そうあっさりと言い残し、蒼矢は集団に囲われながら実験室を後にしていった。

諒と啓介は、ドア外まで出て蒼矢の後姿を見送る。

なんとなく消化不良な心地を感じ、ひとりため息をつく諒の横で、啓介は顰め面で鼻を鳴らした。

「…気に入らねぇな」
「…? 何が?」
「あんなアポ取るくらいなら、来る奴ひとりでいいじゃねぇか。後ろにいた奴ら、絶対見に来た・・・・だけだろ」
「…確かに、結局髙城に喋りかけてたのって、あの代表の人だけだったな…」
「喋ってた女はいざしらず、他みんなチャラかったし、髙城を見る目も品定めしてるみたいだったし…なんか胡散臭ぇよ」
「見た目で判断しちゃいけないとはいえ、ちょっと気になるね」
「あんな奴らにホイホイ着いていっちまって、大丈夫なのかよ…」

彼らが消えていった廊下を睨み、少し苛立っているような面持ちを覗かせる啓介を見、諒は彼の肩に手を置く。

「この件については、俺たち部外者だから。…何かあったら髙城が言ってくるだろ。それまでは静観」
「…おう」

しかしそう言葉をかける諒自身も、胸の内に一抹の不安を抱いていた。

…髙城…学内新聞なんかに取り上げられたら、名前も顔もますます知れ渡ってしまうんじゃないだろうか。
…折角、エイト先輩が目立たないようにって配慮してくれたのに…

「はぁ。…とりあえず腹を満たすか。空腹だと余計苛々しちまうわな」
「ああ、そうだな」

気持ちをリセットし合いながらも、ふたりは煮え切らない思いを抱えたまま、重い足取りで食堂へと向かっていった。
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