上 下
50 / 77
本編

第11話_広がる波紋-1

しおりを挟む
数日後、いつも通り平和な理学部は午後の連続2コマを使い、実験授業に取り組んでいた。

少人数の生徒に対して准教授に助教や助手が付く手厚い講義展開で、学部生たちは静かながらも意欲的に実験を進めていく。
コマ間に当たるところで教授陣が準備に一旦研究室へ戻り、残された学生たちは束の間の休憩時間をとる。
それぞれ補足したい部分を教え合う中、出入口付近にいたひとりがふと違和感を感じ、引き扉の方へ振り向いた。

「…なんだ?」

丁度会話がやんだタイミングで発せられた声に、実験室内の学部生の多くが視線を動かす。
扉枠にはめられた窓からは、室外にいる学生の頭が見えた。
頭は複数あって、室内からの視線に気付くと目を丸くし、隣同士で顔を見合わせ、何か小さく囁き合っているようだった。

何事かとひとりが近寄り、開けてやる。
扉外にいたのは小柄な女子学生たちで、開けられて室内の景色が見えると、丸い目を一層大きくしながら理学部生たちの顔を見回した。

「? あの…」
「あのっ、髙城 蒼矢タカシロ ソウヤくんっていますか…?」

声をかけたタイミングで被せ、女子学生は逆に問い掛けてきた。
彼女たちの口から飛び出たその内容に、明らかに他学部生だろう女子の訪問にざわついていた室内は一瞬にして静まり返り、ついで視線が部屋の中央付近へ動いていく。
同級生たちの注目の先にいた蒼矢は、彼らの視線に促されるように立ち上がる。

「…はい。俺ですが」

その遠慮がちな応えを聞いた女子学生たちは、きょとんとした面持ちになってから、実験室内へ足を踏み入れ、すすすと彼へ近寄っていく。
そして間近で蒼矢の顔をぽかんと見上げ、そのまま固まった。
頬を染め、口元を両手で押さえて肩を震わせながら、ひと言も発さずに彼を凝視している。

…うわぁ…、目がハートマークだ…

沈黙に戸惑う蒼矢の傍らに座っていたリョウは、この相対した状況をものの数秒で理解していた。
しおりを挟む

処理中です...