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本編

第8話_靄に隠れた脅威-3

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念のためコンビニへ寄って水や栄養補助食を買いつつ、影斗エイト蒼矢ソウヤの家へ辿り着く。
相変わらず玄関前が殺風景で、人が住んでいるんだかも怪しい外観の髙城タカシロ家だったが、とりあえずインターホンを鳴らしてみる。
『――はい』
しばらくすると、か細い蒼矢の応答が聞こえてくる。
「あ、俺」
『……影斗先輩…!?』
一抹の沈黙の後、少し動揺したような声がし、影斗はいつもと様子が違う彼の反応に引っ掛かりを感じた。
「お前のダチンコに帰ったって聞いたからさ、気になっちまって。…とりあえず中入れてくんねぇ?」
『……はい』
玄関が開き、対面した蒼矢を軽く上から下まで眺めた影斗は、わずかに眉をひそめる。だいたいジャケットを羽織っている彼は、中が襟シャツであればズボンにしまい、ベルトを締めている。しかし今は、ベルトは外され、裾は余程雑にしまい込んだのか緩く乱れ、帰宅後のオフとはいえ全体的にくたびれた印象を感じる。
蒼矢は相変わらず表情に抑揚が乏しいが、アポなしの来訪に気持ちが追いついていないのか、ぎこちなく玄関をあがり、不自然な姿勢でかがんでスリッパを出す。
「悪いな急に。具合悪くなったって?」
「! いえ…あ、はい。…少し」
「昼ちゃんと食ったんだろうな? コンビニで色々買ってきたんだ、お前多分何も用意してないと思って」
「…お気遣いありがとうございます」
そう言うと、蒼矢は2階のリビングへ向かう。影斗は階段をゆっくり上がっていく彼についていき、後ろから先を行くその所作を黙ったまま目で追う。
そして2階へ着き、彼がドアを開けたタイミングで、小さく声をかけた。
「蒼矢、ちょっと」
「…?」
リビングへ入りかけたところで立ち止まり、呼びかけに振り返った蒼矢へ、一歩で大きく距離を詰める。そして急に眼前に迫る影斗へ目を見開く彼を置き、シャツを掴んだ。
「…!!」
「……」
蒼矢が影斗の顔を向いたまま固まる中、影斗は引っ張り出した裾から覗く変色した腹を、目を細めながら眺めていた。
「なんだこれ?」
「…」
にやられた? …大学の奴か?」
こちらの問いかけに答えられずにいる蒼矢の面様を見、影斗はきびすを返す。階段を下がっていこうとする彼へ、蒼矢は慌てて声をかける。
「!? 先輩、どこへ…」
「決まってんだろ、お前の大学だよ。知ってそうな奴片っ端から問い詰めてくわ。ついでに学生課にも報告しとく」
「っ…!! 待って…やめて下さいっ…」
「お前が話せねぇんなら仕方ねぇだろ」
「話せます! …話します、から…」
振り返ると、蒼矢は脇腹を押さえながら懇願の面差しで影斗を見つめていた。大きな声を出したせいで怪我に響いたのか、その場にふらりと座り込む。
影斗は彼を起こして支えながらリビングへ入り、ソファに寝かせてやった。
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