ガイアセイバーズ -GAIA SAVERS-

独楽 悠

文字の大きさ
20 / 23
本編

第19話_再戦

しおりを挟む
蒼矢の具合を見て、烈と葉月は一時的にでも[異界]から即撤退しようと考えたが、蒼矢はこのまま対峙することを進言した。
幾分か状態が落ち着き、蒼矢は通路に背を預け、腰を下ろしていた。他四人は辺りを警戒しつつ彼を囲う。
「五人揃っている今が最良です。…ここで撤退して、次に今より良い状況になるかは保証できない」
「…確かに」
「どのみち今の時点では、僕らがどうやったら『現実世界』に戻れるかわからないしね。[彼]を倒せば、何か突破口が開けるかもしれない」
方向性がまとまったものの、不安材料は残っていた。烈が浮かない表情で腕を組む。
「ただ、[異界ここ]でやるっていうリスクは大きいよな…」
「出来るだけ早く弱点を探る。…みんなの負担にならないように努めます」
そう蒼矢が返し、一同を見回すと、横から影斗が軽く息をついた。
「いっつもやってることだろぉ? 気負うな、俺達に乗っかったつもりでいりゃ良い」
「そうだな、[異形]とは一回やり合ってる訳だし…[奴]は、俺と影斗で全力で潰す」
「…いつも通りにやろう。蒼矢、今度は・・・必ず僕が守るよ」
「俺も! 蒼兄安心しろ、俺が指一本も触れさせねぇ!!」
仲間たち銘々に言葉をかけられ、蒼矢はやや顔を赤らめて…小さく笑った。
「…はい」


蒼矢は鉱石を握り、アズライトに変身する。その身体に、エピドートが傷を治すヒーリングを施す。
「まだ痛いところはある?」
「無いです。ありがとうございます」
「ごめんね…体力までは回復できないからね」
「…大丈夫です、だいぶ楽です」
エピドートへ薄く笑いながら頷いてみせるものの、アズライトの表情からは疲労の色が消えない。いつもよりなお一層透き通るような白い肌が、生気が弱まっていることを物語っていた。
「あの筋肉だるまっ…許さねぇ、絶対始末してやるっ…!!」
傍らで、陽――『サルファー』が華奢な身体に納めきれない闘志を燃やしていた。
「……そうだな」
そして、アズライトの様子を案じながら見つめるロードナイトの内にも、ふつふつと押し殺していた怒りが再燃してきた。
二度までも大切な幼馴染がされたことは、推し量れる範囲だけでも許しがたいし、始末しなければ今後彼にずっと危険がついて回ることになる。…絶対に生かしてはおけない。
顔をいからすサルファーの頭を軽く叩き、オニキスが声をあげる。
「じゃ、行くか。…場所は探れるか?」
「こっちです」
既に『索敵』の能力を使い始めているアズライトが、『セイバーズ』を導いていった。


[蔓]は複雑に張り巡らされた[異界]の通路を抜けた広大な空間に位置していて、セイバー達が足を踏み込むと、森のように辺りを埋め尽くす巨木の[異形]が唸るようにざわめき、枝葉を揺らした。
「フルメンバーでここまで出向いてきたか。さすが"五体で一体分"なだけあって、結束力は高いようだな」
巨木が空間を円状に移動し、前方に[蔓]が姿を現す。淡々と無機質に語り、ついでにやりと嗤った。
「アズライト。お前が牢を出たことはわかっていたぞ。…少しお前の力を見誤っていたな。『セイバー』の力を消しきれていなかったことも誤算だった」
「……」
あの身体・・・・で拘束を解いたことは評価してやろう。そのうえで、次は容赦しない。今度は力を確実に奪い、全身に拘束具を施そう。お前の身体が軋み、その顔が苦痛に歪む様を想像するだけで、血が湧きあがるように高揚するぞ」
嫌らしい笑みを浮かべながら言葉攻めを続ける[蔓]へ、アズライトは黙ったまま視線を注いでいた。
背後から通り過ぎざまに、オニキスが肩に手を置く。
「聞くな。…時間稼ぎすっから、頼むぜ」
「…はい」
オニキスとロードナイトが前に出る。サルファーがその後方に立ち、エピドートがアズライトの前で防御姿勢をとる。
「[この地]でお前たちがどれだけやれるのか、一応見届けてやろうか」
通常、『セイバー』は[異界の者]を『転異空間』へ転送させて戦闘を行うが、セイバーに有利な状況下である転異空間内では、[異界の者]の力は最大値からやや抑えられている。
しかし、[異界]ではそのストッパーは機能しない。[異界の者]は持てる力の全てを発揮し、なおかつ勝手知ったる自らのホームでセイバーを迎え撃つことができるのだ。
[蔓]は、自分から最も後方のアズライトだけに声を投げかけた。
「『索敵』はさせないぞ。アズライト、お前を無力化してやる」


風の防御壁が造られると、アズライトは『水面』を構え、『索敵』し始める。途端、取り囲んでいたおびただしい数の巨木達が、アズライトへ一斉に枝根を浴びせかけた。えげつない程の一点集中攻撃に、すかさずエピドートは『雷嵐』を、サルファーは細剣の装具『閃光センコウ』を繰り、アズライトへ襲いかかる無数の刃を薙ぎ払っていく。しかしそれでもさばききれず、アズライトも『索敵』姿勢を解き、『水面』で応戦する。
数日前とは比較にならない[敵]の手数の多さに、エピドートは珍しく焦りの色を見せる。
「アズライト、なるべく僕の傍に!」
「…っ…!」
[蔓]は前方から、その風と枝が飛び交う竜巻のような光景を、ゆっくり見物するように眺めている。
「…舐めてんじゃねぇぞっ…!!」
啖呵を切ったロードナイトとオニキスが[蔓]へ急接近し、ロードナイトは『紅蓮』から特大の業火を、オニキスは篭手の装具『暗虚アンキョ』から闇の衝撃波を、まとめて浴びせかける。
[蔓]の身体は二人のエネルギーの塊に包まれるが、着衣が数か所破れて焦げ付いた程度の姿で再び現れ、変わらず余裕の表情で歯列を見せる。
「…!?」
属性攻撃が効いてない。少なくとも、炎と闇の攻撃は効かない。
二人は瞬時に切り替え、直接攻撃で[蔓]に向かっていく。
前衛の異変を見、アズライトは攻撃の間をかいくぐって懸命に『索敵』し続ける。その小刻みに動き回る彼を狙って枝の一束が絡み合い、網目のように張り巡る枝根の間から急接近し、鞭のようにしなった。
「ぐぅっ…!!」
攻撃を腹に受けたアズライトは、十数メートル吹っ飛ばされる。なんとか受け身を取って体勢を保つものの、頭を下げたまましゃがみ込む。
「アズライト!!」
「…くっそぉぉ!!」
立ち上がれないアズライトの前に躍り出て、なおも執拗に狙う枝の束をサルファーが迎撃する。エピドートもサルファーも、既にスーツでは緩和しきれない小さなダメージを全身に負っていたが、アズライトに攻撃の手が及ばないよう必死に立ち回る。
「『索敵』はさせないと言ったろう。大人しくしていないと、次は本当にお前の身体がどうにかなってしまうぞ」
前衛二人の体術をかわしながら、[蔓]は余裕の表情で後衛へ投げかける。
しかしその言葉を遮るように、腹を押さえて身体を丸めたまま、アズライトは言葉を振り絞った。
「……眉間…っ」
「!!」
その小さな声が、セイバー全員の脳に届く。ロードナイトとオニキスは[蔓]の頭に照準を合わせ、同時に距離を詰める。
[蔓]は面白くなさそうに鼻を鳴らし、更に巨木を追加してアズライトの周囲へ呼び出す。
後衛の処理は[異形]に任せ、本格的に前衛の相手をし始めた。
一旦二人から距離を取り、仁王立ちする。
「[俺]がお前たち『人間』を狙う理由を知っているか?」
「…っ!!」
その言葉にロードナイトは険しい表情をつくり、一瞬後衛へ視線を送る。
「精液だ。正確には人間の体液だが、精液が最も好ましい。体力、活力、精神力、あらゆるものの原動力になる」
「それが何だってんだよ…!」
「理解が悪いな。俺はアズライトの精液をこの身体に取り込んでいる。つまり、なにも摂取していない状態に比べより極限に近いところまで、自身の力を高めることができる」
そう言うと、[蔓]は両手の拳を強く握り、足を踏ん張る。[蔓]の元々隆々としていた筋肉が更に盛りあがり、その身体は二回りほど膨張した。
「…!」
「ついでに教えておいてやろう。アズライトの精液は最高だぞ。『あちら』に降り立ってすぐ、試しに適当な奴を捕まえて搾取してみたが、あれに比べ格段に質が高い。…お前達も味わってみればいいんじゃないか」
「……ふざけんじゃねぇ!!」
[蔓]の口上に激昂したロードナイトは、単身[蔓]に突っ込んでいく。出遅れたオニキスは舌打ちした。
思い切り振りかぶった拳は、[蔓]の頭部に差しかかる前に太い腕にさえぎられる。
「先ほどから感じていたが、お前の攻撃は直情的だな。何をどこにしてくるか、非常に読み取りやすい」
もう片方の手でロードナイトの腕を取り、そのまま彼の背を膝で押さえ、後ろ手に組み敷いた。
「…っああああぁっ!!」
ミシミシと骨が軋み、ロードナイトが苦悶の表情で悲鳴に似た絶叫をあげる。
その上方で、オニキスの回し蹴りが[蔓]の頭部を狙う。[蔓]は首を直角に折ってかわす。
「キモい動きしてんじゃねぇぞ、低俗野郎が!」
続けざまにもう片方の脚を繰り出して[蔓]の動きを止めると、間髪を入れずに直接攻撃に長けている『暗虚』に闇色の霧をまとわせ、確実に眉間へ刺した。
しかしその決定打さえも、額を貫く寸前で[蔓]は背中へ首を折って回避し、その鉤爪の腕を払いのける。
「その声色と闇攻撃、覚えがあるぞ。一度目にアズライトを捕り損なった時、邪魔に入った奴だな」
オニキスが自分の後方へ一回転し、降り立った瞬間体勢を立て直す前に、その顔面目がけて思い切り蹴飛ばした。
「…っ…!」
一瞬目の前が真っ白になり、オニキスは受け身を取る判断ができず、長く弧を描きながらそのまま地に落とされる。
「この程度か。やはり期待以下だな。さっさと片を付けようか」
なおも腕を押さえて悶絶するロードナイトを手ひどくなぎ払い、[蔓]は後衛へと歩を進めていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...