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本編
第19話_再戦
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蒼矢の具合を見て、烈と葉月は一時的にでも[異界]から即撤退しようと考えたが、蒼矢はこのまま対峙することを進言した。
幾分か状態が落ち着き、蒼矢は通路に背を預け、腰を下ろしていた。他四人は辺りを警戒しつつ彼を囲う。
「五人揃っている今が最良です。…ここで撤退して、次に今より良い状況になるかは保証できない」
「…確かに」
「どのみち今の時点では、僕らがどうやったら『現実世界』に戻れるかわからないしね。[彼]を倒せば、何か突破口が開けるかもしれない」
方向性がまとまったものの、不安材料は残っていた。烈が浮かない表情で腕を組む。
「ただ、[異界]でやるっていうリスクは大きいよな…」
「出来るだけ早く弱点を探る。…みんなの負担にならないように努めます」
そう蒼矢が返し、一同を見回すと、横から影斗が軽く息をついた。
「いっつもやってることだろぉ? 気負うな、俺達に乗っかったつもりでいりゃ良い」
「そうだな、[異形]とは一回やり合ってる訳だし…[奴]は、俺と影斗で全力で潰す」
「…いつも通りにやろう。蒼矢、今度は・・・必ず僕が守るよ」
「俺も! 蒼兄安心しろ、俺が指一本も触れさせねぇ!!」
仲間たち銘々に言葉をかけられ、蒼矢はやや顔を赤らめて…小さく笑った。
「…はい」
蒼矢は鉱石を握り、アズライトに変身する。その身体に、エピドートが傷を治すヒーリングを施す。
「まだ痛いところはある?」
「無いです。ありがとうございます」
「ごめんね…体力までは回復できないからね」
「…大丈夫です、だいぶ楽です」
エピドートへ薄く笑いながら頷いてみせるものの、アズライトの表情からは疲労の色が消えない。いつもよりなお一層透き通るような白い肌が、生気が弱まっていることを物語っていた。
「あの筋肉だるまっ…許さねぇ、絶対始末してやるっ…!!」
傍らで、陽――『サルファー』が華奢な身体に納めきれない闘志を燃やしていた。
「……そうだな」
そして、アズライトの様子を案じながら見つめるロードナイトの内にも、ふつふつと押し殺していた怒りが再燃してきた。
二度までも大切な幼馴染がされたことは、推し量れる範囲だけでも許しがたいし、始末しなければ今後彼にずっと危険がついて回ることになる。…絶対に生かしてはおけない。
顔をいからすサルファーの頭を軽く叩き、オニキスが声をあげる。
「じゃ、行くか。…場所は探れるか?」
「こっちです」
既に『索敵』の能力を使い始めているアズライトが、『セイバーズ』を導いていった。
[蔓]は複雑に張り巡らされた[異界]の通路を抜けた広大な空間に位置していて、セイバー達が足を踏み込むと、森のように辺りを埋め尽くす巨木の[異形]が唸るようにざわめき、枝葉を揺らした。
「フルメンバーでここまで出向いてきたか。さすが"五体で一体分"なだけあって、結束力は高いようだな」
巨木が空間を円状に移動し、前方に[蔓]が姿を現す。淡々と無機質に語り、ついでにやりと嗤った。
「アズライト。お前が牢を出たことはわかっていたぞ。…少しお前の力を見誤っていたな。『セイバー』の力を消しきれていなかったことも誤算だった」
「……」
「あの身体で拘束を解いたことは評価してやろう。そのうえで、次は容赦しない。今度は力を確実に奪い、全身に拘束具を施そう。お前の身体が軋み、その顔が苦痛に歪む様を想像するだけで、血が湧きあがるように高揚するぞ」
嫌らしい笑みを浮かべながら言葉攻めを続ける[蔓]へ、アズライトは黙ったまま視線を注いでいた。
背後から通り過ぎざまに、オニキスが肩に手を置く。
「聞くな。…時間稼ぎすっから、頼むぜ」
「…はい」
オニキスとロードナイトが前に出る。サルファーがその後方に立ち、エピドートがアズライトの前で防御姿勢をとる。
「[この地]でお前たちがどれだけやれるのか、一応見届けてやろうか」
通常、『セイバー』は[異界の者]を『転異空間』へ転送させて戦闘を行うが、セイバーに有利な状況下である転異空間内では、[異界の者]の力は最大値からやや抑えられている。
しかし、[異界]ではそのストッパーは機能しない。[異界の者]は持てる力の全てを発揮し、なおかつ勝手知ったる自らのホームでセイバーを迎え撃つことができるのだ。
[蔓]は、自分から最も後方のアズライトだけに声を投げかけた。
「『索敵』はさせないぞ。アズライト、お前を無力化してやる」
風の防御壁が造られると、アズライトは『水面』を構え、『索敵』し始める。途端、取り囲んでいたおびただしい数の巨木達が、アズライトへ一斉に枝根を浴びせかけた。えげつない程の一点集中攻撃に、すかさずエピドートは『雷嵐』を、サルファーは細剣の装具『閃光』を繰り、アズライトへ襲いかかる無数の刃を薙ぎ払っていく。しかしそれでもさばききれず、アズライトも『索敵』姿勢を解き、『水面』で応戦する。
数日前とは比較にならない[敵]の手数の多さに、エピドートは珍しく焦りの色を見せる。
「アズライト、なるべく僕の傍に!」
「…っ…!」
[蔓]は前方から、その風と枝が飛び交う竜巻のような光景を、ゆっくり見物するように眺めている。
「…舐めてんじゃねぇぞっ…!!」
啖呵を切ったロードナイトとオニキスが[蔓]へ急接近し、ロードナイトは『紅蓮』から特大の業火を、オニキスは篭手の装具『暗虚』から闇の衝撃波を、まとめて浴びせかける。
[蔓]の身体は二人のエネルギーの塊に包まれるが、着衣が数か所破れて焦げ付いた程度の姿で再び現れ、変わらず余裕の表情で歯列を見せる。
「…!?」
属性攻撃が効いてない。少なくとも、炎と闇の攻撃は効かない。
二人は瞬時に切り替え、直接攻撃で[蔓]に向かっていく。
前衛の異変を見、アズライトは攻撃の間をかいくぐって懸命に『索敵』し続ける。その小刻みに動き回る彼を狙って枝の一束が絡み合い、網目のように張り巡る枝根の間から急接近し、鞭のようにしなった。
「ぐぅっ…!!」
攻撃を腹に受けたアズライトは、十数メートル吹っ飛ばされる。なんとか受け身を取って体勢を保つものの、頭を下げたまましゃがみ込む。
「アズライト!!」
「…くっそぉぉ!!」
立ち上がれないアズライトの前に躍り出て、なおも執拗に狙う枝の束をサルファーが迎撃する。エピドートもサルファーも、既にスーツでは緩和しきれない小さなダメージを全身に負っていたが、アズライトに攻撃の手が及ばないよう必死に立ち回る。
「『索敵』はさせないと言ったろう。大人しくしていないと、次は本当にお前の身体がどうにかなってしまうぞ」
前衛二人の体術をかわしながら、[蔓]は余裕の表情で後衛へ投げかける。
しかしその言葉を遮るように、腹を押さえて身体を丸めたまま、アズライトは言葉を振り絞った。
「……眉間…っ」
「!!」
その小さな声が、セイバー全員の脳に届く。ロードナイトとオニキスは[蔓]の頭に照準を合わせ、同時に距離を詰める。
[蔓]は面白くなさそうに鼻を鳴らし、更に巨木を追加してアズライトの周囲へ呼び出す。
後衛の処理は[異形]に任せ、本格的に前衛の相手をし始めた。
一旦二人から距離を取り、仁王立ちする。
「[俺]がお前たち『人間』を狙う理由を知っているか?」
「…っ!!」
その言葉にロードナイトは険しい表情をつくり、一瞬後衛へ視線を送る。
「精液だ。正確には人間の体液だが、精液が最も好ましい。体力、活力、精神力、あらゆるものの原動力になる」
「それが何だってんだよ…!」
「理解が悪いな。俺はアズライトの精液をこの身体に取り込んでいる。つまり、なにも摂取していない状態に比べより極限に近いところまで、自身の力を高めることができる」
そう言うと、[蔓]は両手の拳を強く握り、足を踏ん張る。[蔓]の元々隆々としていた筋肉が更に盛りあがり、その身体は二回りほど膨張した。
「…!」
「ついでに教えておいてやろう。アズライトの精液は最高だぞ。『あちら』に降り立ってすぐ、試しに適当な奴を捕まえて搾取してみたが、あれに比べ格段に質が高い。…お前達も味わってみればいいんじゃないか」
「……ふざけんじゃねぇ!!」
[蔓]の口上に激昂したロードナイトは、単身[蔓]に突っ込んでいく。出遅れたオニキスは舌打ちした。
思い切り振りかぶった拳は、[蔓]の頭部に差しかかる前に太い腕にさえぎられる。
「先ほどから感じていたが、お前の攻撃は直情的だな。何をどこにしてくるか、非常に読み取りやすい」
もう片方の手でロードナイトの腕を取り、そのまま彼の背を膝で押さえ、後ろ手に組み敷いた。
「…っああああぁっ!!」
ミシミシと骨が軋み、ロードナイトが苦悶の表情で悲鳴に似た絶叫をあげる。
その上方で、オニキスの回し蹴りが[蔓]の頭部を狙う。[蔓]は首を直角に折ってかわす。
「キモい動きしてんじゃねぇぞ、低俗野郎が!」
続けざまにもう片方の脚を繰り出して[蔓]の動きを止めると、間髪を入れずに直接攻撃に長けている『暗虚』に闇色の霧をまとわせ、確実に眉間へ刺した。
しかしその決定打さえも、額を貫く寸前で[蔓]は背中へ首を折って回避し、その鉤爪の腕を払いのける。
「その声色と闇攻撃、覚えがあるぞ。一度目にアズライトを捕り損なった時、邪魔に入った奴だな」
オニキスが自分の後方へ一回転し、降り立った瞬間体勢を立て直す前に、その顔面目がけて思い切り蹴飛ばした。
「…っ…!」
一瞬目の前が真っ白になり、オニキスは受け身を取る判断ができず、長く弧を描きながらそのまま地に落とされる。
「この程度か。やはり期待以下だな。さっさと片を付けようか」
なおも腕を押さえて悶絶するロードナイトを手ひどくなぎ払い、[蔓]は後衛へと歩を進めていった。
幾分か状態が落ち着き、蒼矢は通路に背を預け、腰を下ろしていた。他四人は辺りを警戒しつつ彼を囲う。
「五人揃っている今が最良です。…ここで撤退して、次に今より良い状況になるかは保証できない」
「…確かに」
「どのみち今の時点では、僕らがどうやったら『現実世界』に戻れるかわからないしね。[彼]を倒せば、何か突破口が開けるかもしれない」
方向性がまとまったものの、不安材料は残っていた。烈が浮かない表情で腕を組む。
「ただ、[異界]でやるっていうリスクは大きいよな…」
「出来るだけ早く弱点を探る。…みんなの負担にならないように努めます」
そう蒼矢が返し、一同を見回すと、横から影斗が軽く息をついた。
「いっつもやってることだろぉ? 気負うな、俺達に乗っかったつもりでいりゃ良い」
「そうだな、[異形]とは一回やり合ってる訳だし…[奴]は、俺と影斗で全力で潰す」
「…いつも通りにやろう。蒼矢、今度は・・・必ず僕が守るよ」
「俺も! 蒼兄安心しろ、俺が指一本も触れさせねぇ!!」
仲間たち銘々に言葉をかけられ、蒼矢はやや顔を赤らめて…小さく笑った。
「…はい」
蒼矢は鉱石を握り、アズライトに変身する。その身体に、エピドートが傷を治すヒーリングを施す。
「まだ痛いところはある?」
「無いです。ありがとうございます」
「ごめんね…体力までは回復できないからね」
「…大丈夫です、だいぶ楽です」
エピドートへ薄く笑いながら頷いてみせるものの、アズライトの表情からは疲労の色が消えない。いつもよりなお一層透き通るような白い肌が、生気が弱まっていることを物語っていた。
「あの筋肉だるまっ…許さねぇ、絶対始末してやるっ…!!」
傍らで、陽――『サルファー』が華奢な身体に納めきれない闘志を燃やしていた。
「……そうだな」
そして、アズライトの様子を案じながら見つめるロードナイトの内にも、ふつふつと押し殺していた怒りが再燃してきた。
二度までも大切な幼馴染がされたことは、推し量れる範囲だけでも許しがたいし、始末しなければ今後彼にずっと危険がついて回ることになる。…絶対に生かしてはおけない。
顔をいからすサルファーの頭を軽く叩き、オニキスが声をあげる。
「じゃ、行くか。…場所は探れるか?」
「こっちです」
既に『索敵』の能力を使い始めているアズライトが、『セイバーズ』を導いていった。
[蔓]は複雑に張り巡らされた[異界]の通路を抜けた広大な空間に位置していて、セイバー達が足を踏み込むと、森のように辺りを埋め尽くす巨木の[異形]が唸るようにざわめき、枝葉を揺らした。
「フルメンバーでここまで出向いてきたか。さすが"五体で一体分"なだけあって、結束力は高いようだな」
巨木が空間を円状に移動し、前方に[蔓]が姿を現す。淡々と無機質に語り、ついでにやりと嗤った。
「アズライト。お前が牢を出たことはわかっていたぞ。…少しお前の力を見誤っていたな。『セイバー』の力を消しきれていなかったことも誤算だった」
「……」
「あの身体で拘束を解いたことは評価してやろう。そのうえで、次は容赦しない。今度は力を確実に奪い、全身に拘束具を施そう。お前の身体が軋み、その顔が苦痛に歪む様を想像するだけで、血が湧きあがるように高揚するぞ」
嫌らしい笑みを浮かべながら言葉攻めを続ける[蔓]へ、アズライトは黙ったまま視線を注いでいた。
背後から通り過ぎざまに、オニキスが肩に手を置く。
「聞くな。…時間稼ぎすっから、頼むぜ」
「…はい」
オニキスとロードナイトが前に出る。サルファーがその後方に立ち、エピドートがアズライトの前で防御姿勢をとる。
「[この地]でお前たちがどれだけやれるのか、一応見届けてやろうか」
通常、『セイバー』は[異界の者]を『転異空間』へ転送させて戦闘を行うが、セイバーに有利な状況下である転異空間内では、[異界の者]の力は最大値からやや抑えられている。
しかし、[異界]ではそのストッパーは機能しない。[異界の者]は持てる力の全てを発揮し、なおかつ勝手知ったる自らのホームでセイバーを迎え撃つことができるのだ。
[蔓]は、自分から最も後方のアズライトだけに声を投げかけた。
「『索敵』はさせないぞ。アズライト、お前を無力化してやる」
風の防御壁が造られると、アズライトは『水面』を構え、『索敵』し始める。途端、取り囲んでいたおびただしい数の巨木達が、アズライトへ一斉に枝根を浴びせかけた。えげつない程の一点集中攻撃に、すかさずエピドートは『雷嵐』を、サルファーは細剣の装具『閃光』を繰り、アズライトへ襲いかかる無数の刃を薙ぎ払っていく。しかしそれでもさばききれず、アズライトも『索敵』姿勢を解き、『水面』で応戦する。
数日前とは比較にならない[敵]の手数の多さに、エピドートは珍しく焦りの色を見せる。
「アズライト、なるべく僕の傍に!」
「…っ…!」
[蔓]は前方から、その風と枝が飛び交う竜巻のような光景を、ゆっくり見物するように眺めている。
「…舐めてんじゃねぇぞっ…!!」
啖呵を切ったロードナイトとオニキスが[蔓]へ急接近し、ロードナイトは『紅蓮』から特大の業火を、オニキスは篭手の装具『暗虚』から闇の衝撃波を、まとめて浴びせかける。
[蔓]の身体は二人のエネルギーの塊に包まれるが、着衣が数か所破れて焦げ付いた程度の姿で再び現れ、変わらず余裕の表情で歯列を見せる。
「…!?」
属性攻撃が効いてない。少なくとも、炎と闇の攻撃は効かない。
二人は瞬時に切り替え、直接攻撃で[蔓]に向かっていく。
前衛の異変を見、アズライトは攻撃の間をかいくぐって懸命に『索敵』し続ける。その小刻みに動き回る彼を狙って枝の一束が絡み合い、網目のように張り巡る枝根の間から急接近し、鞭のようにしなった。
「ぐぅっ…!!」
攻撃を腹に受けたアズライトは、十数メートル吹っ飛ばされる。なんとか受け身を取って体勢を保つものの、頭を下げたまましゃがみ込む。
「アズライト!!」
「…くっそぉぉ!!」
立ち上がれないアズライトの前に躍り出て、なおも執拗に狙う枝の束をサルファーが迎撃する。エピドートもサルファーも、既にスーツでは緩和しきれない小さなダメージを全身に負っていたが、アズライトに攻撃の手が及ばないよう必死に立ち回る。
「『索敵』はさせないと言ったろう。大人しくしていないと、次は本当にお前の身体がどうにかなってしまうぞ」
前衛二人の体術をかわしながら、[蔓]は余裕の表情で後衛へ投げかける。
しかしその言葉を遮るように、腹を押さえて身体を丸めたまま、アズライトは言葉を振り絞った。
「……眉間…っ」
「!!」
その小さな声が、セイバー全員の脳に届く。ロードナイトとオニキスは[蔓]の頭に照準を合わせ、同時に距離を詰める。
[蔓]は面白くなさそうに鼻を鳴らし、更に巨木を追加してアズライトの周囲へ呼び出す。
後衛の処理は[異形]に任せ、本格的に前衛の相手をし始めた。
一旦二人から距離を取り、仁王立ちする。
「[俺]がお前たち『人間』を狙う理由を知っているか?」
「…っ!!」
その言葉にロードナイトは険しい表情をつくり、一瞬後衛へ視線を送る。
「精液だ。正確には人間の体液だが、精液が最も好ましい。体力、活力、精神力、あらゆるものの原動力になる」
「それが何だってんだよ…!」
「理解が悪いな。俺はアズライトの精液をこの身体に取り込んでいる。つまり、なにも摂取していない状態に比べより極限に近いところまで、自身の力を高めることができる」
そう言うと、[蔓]は両手の拳を強く握り、足を踏ん張る。[蔓]の元々隆々としていた筋肉が更に盛りあがり、その身体は二回りほど膨張した。
「…!」
「ついでに教えておいてやろう。アズライトの精液は最高だぞ。『あちら』に降り立ってすぐ、試しに適当な奴を捕まえて搾取してみたが、あれに比べ格段に質が高い。…お前達も味わってみればいいんじゃないか」
「……ふざけんじゃねぇ!!」
[蔓]の口上に激昂したロードナイトは、単身[蔓]に突っ込んでいく。出遅れたオニキスは舌打ちした。
思い切り振りかぶった拳は、[蔓]の頭部に差しかかる前に太い腕にさえぎられる。
「先ほどから感じていたが、お前の攻撃は直情的だな。何をどこにしてくるか、非常に読み取りやすい」
もう片方の手でロードナイトの腕を取り、そのまま彼の背を膝で押さえ、後ろ手に組み敷いた。
「…っああああぁっ!!」
ミシミシと骨が軋み、ロードナイトが苦悶の表情で悲鳴に似た絶叫をあげる。
その上方で、オニキスの回し蹴りが[蔓]の頭部を狙う。[蔓]は首を直角に折ってかわす。
「キモい動きしてんじゃねぇぞ、低俗野郎が!」
続けざまにもう片方の脚を繰り出して[蔓]の動きを止めると、間髪を入れずに直接攻撃に長けている『暗虚』に闇色の霧をまとわせ、確実に眉間へ刺した。
しかしその決定打さえも、額を貫く寸前で[蔓]は背中へ首を折って回避し、その鉤爪の腕を払いのける。
「その声色と闇攻撃、覚えがあるぞ。一度目にアズライトを捕り損なった時、邪魔に入った奴だな」
オニキスが自分の後方へ一回転し、降り立った瞬間体勢を立て直す前に、その顔面目がけて思い切り蹴飛ばした。
「…っ…!」
一瞬目の前が真っ白になり、オニキスは受け身を取る判断ができず、長く弧を描きながらそのまま地に落とされる。
「この程度か。やはり期待以下だな。さっさと片を付けようか」
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