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:メイド、抗う:
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と、おい、と低い声と同時にぎろりと睨みつけられた。端正な顔で睨むものだから、ド迫力。そう、顔はすごくいいのだ。
だけどここで負けちゃいけない、負けない! とばかりに、彩葉も相手を睨みつける。
「なによ、正当防衛よ」
「違う! そこじゃない」
「どこよ?」
思わず聞き返すと、住良木辰之進は信じがたいことを大まじめに言った。
「どうしてしっかりパンツを履いているんだ?」
「は、い?」
だから、と、男は声を絞り出した。
「装着するようにと渡した拘束具はどうした。だいたい俺は、出来る限りノーパンかセクシーランジェリーでいるようにと改めて命じたはずだが?」
「そ、そんな状態で仕事が出来るわけないでしょう! ただでさえこんなにスカート丈は短いのに! あんた、何考えてるの」
彩葉の仕事は、屋敷内外の掃除、来客対応、客室を整える、料理や配膳の手伝い、洗濯や買い物などなど多岐にわたる。
下半身がスカスカする状態ではどうにも落ち着かず、ミスを連発してしまう。
「はっ、苦悶する姿、恥ずかしがる姿を見るのがいいんじゃないか」
あんたはバカですか、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
そんな彩葉を見て住良木辰之進は楽しそうに肩を揺らす。
「できるだけ面積の少ない黒い下着着用、社長命令――いや、ご主人様の命令だ。忘れたわけではないだろう?」
「ええ、ですから、それでもあたしが普通に買うものよりも面積が小さめの、黒い下着を身に着けています!」
なかなかこっぱずかしいセリフである。通常なら、人生で一度も口にしなくていいであろう種類のセリフだ。
実は最初に会社からの支給品、制服の一環だと言われて渡されたパンツが何枚もあった。
それはどう見ても紐だったり、あらぬところに穴があいていたり、面積があっても極小だったり。見るからに『何もガードしてくれない』代物だった。
制服だ命令だとしつこく言われたためおっかなびっくり身につけたのだが――あきらかにおかしい話である。
もっと言えば、支給品で制服だというのも本当かどうかかなり疑わしい。
だが、他のメイドさんのスカートの下を確認するわけにもいかず、社長命令を突っぱねるわけにもいかず。
さりとて、紐だの極小だのでは普通に歩くだけで難儀する。苦悩の末、彩葉はインターネットで購入した比較的小さめの黒い下着をつけているのである。
それが、するすると太ももへおろされてくるではないか。ただでさえ頼りない布きれは、ついに、すとん、と床に落ちた。
「ぎゃーっ、ここ玄関! いつも言ってるでしょ、所かまわず欲情するなバカ社長!」
慌てて拾おうとするが、ひょい、と抱き上げられてしまった。下ろせ変態パンツを上げろ、と、暴れるがスカートがめくれてしまう。
いや、変態はスカートをべろんと持ち上げたかと思うと、するりと撫でてきた。そのまま、足の間に手をいれて淫らに動かしてくるからたまらない。
「や、やぁ、やめ……」
「とろとろに潤っているのは褒めてやろう。だがやっぱり命令違反二つ目だな……。お仕置き決定」
「はぃ!? なんで!?」
「忘れたのか? 俺は常にローターを装着しているようにと命じたはずだが?」
やわやわとお尻を揉まれ、ぎゃああと身を捩って獣の腕から逃げ出す。
すちゃ、と華麗に着地を決めた彩葉は即座に距離をとった。いや、わずかに、距離をとったのは変態御曹司の方がはやかった。彩葉の攻撃の間合いから外れている。見事である、そんなところは。
「いいじゃないか、減るもんじゃなし……。ちょうど目の前に好みの体が転がってるんだ、抱いて何が悪い? いい加減、俺が飽きるまでヤらせろ。俺の玩具になれ」
彩葉は瞬時に間合いを詰め、住良木辰之進のネクタイを掴んで締めあげていた。
「ぐえっ……」
「ちょうどあたしの目の前にネクタイがあるんだもん。締めあげて何が悪い?」
「や、やめっ……」
「住良木辰之進! あんた、バカですか? いや、バカでしょう。正真正銘の大馬鹿野郎だわ」
心外な、と、辰之進は即座に叫んだ。
「ご主人様をフルネームで呼び捨てにした挙句、バカと確定するとは奴隷の分際で生意気だぞ」
「ええ、何度でもいうわよ、住良木辰之進あんたは日本一のバカの変態社長よ。どうしてこんな男が社長で会社が隆盛を極めるのか理解に苦しむわ」
彩葉は咳ばらいを一つして、変態大馬鹿ご主人様に「せいっ!」と足払いをかけた。玄関で派手に倒れる社長。なかなか爽快だ。
「くっ! お前の師匠は素人相手に技を繰り出してはいけないと教えなかったのか?」
「はぁん? 誰が素人ですって?」
「お前に比べたら、空手の黒帯一つしかない俺は、素人同然だ!」
と、まじめ腐った顔で辰之進が喚きながら立ち上がる。
「そうかなぁ?」
彩葉は、代々悠木家に伝わる護身術の達人だ。そのうえ、空手と剣道の稽古は今も欠かさない。忙しい日常をやりくりしてそれぞれ週に2回程度、道場に通っている。そして最近は、趣味でキックボクシングをはじめてみた。
それもこれも、身体を動かすのが好きだというのもあるが、この変態社長が所かまわずセクハラを連発するからだ。自分の身は自分で守るに限る。
「お前ねぇ……玄関先で社長を足蹴にした罪は重いよ」
「ふんっ! セクハラ社長って訴えてもいいんですよ?」
「そんなことをしてみろ。お仕置きがハードなものになるだけだ。さ、お前はさっさと、俺の寝室へ来い。たっぷり可愛がってやる」
「お断りします!」
いかに有能でイケメンで大金持ちの社長でも、昼日中からベッドへ誘うような変態、お断りである。
彩葉の長い手足が素早く動く。辰之進も素早くそれをかわして、にやりと笑う。
「もっとゆっくり、足蹴り繰り出してくれていいんだぜ? じっくり見てやる。その方がお前だって嬉しいだろう?」
かぁぁぁ、と、彩葉の顔が真っ赤になった。
「う、嬉しいわけないでしょう、バカ!」
「ぐはぁぁ!」
この日、辰之進の体は宙を舞って床にだらしなく伸びた。
しかしすっ飛んできたメイド頭に叱られたのは――辰之進の方だったとか。
だけどここで負けちゃいけない、負けない! とばかりに、彩葉も相手を睨みつける。
「なによ、正当防衛よ」
「違う! そこじゃない」
「どこよ?」
思わず聞き返すと、住良木辰之進は信じがたいことを大まじめに言った。
「どうしてしっかりパンツを履いているんだ?」
「は、い?」
だから、と、男は声を絞り出した。
「装着するようにと渡した拘束具はどうした。だいたい俺は、出来る限りノーパンかセクシーランジェリーでいるようにと改めて命じたはずだが?」
「そ、そんな状態で仕事が出来るわけないでしょう! ただでさえこんなにスカート丈は短いのに! あんた、何考えてるの」
彩葉の仕事は、屋敷内外の掃除、来客対応、客室を整える、料理や配膳の手伝い、洗濯や買い物などなど多岐にわたる。
下半身がスカスカする状態ではどうにも落ち着かず、ミスを連発してしまう。
「はっ、苦悶する姿、恥ずかしがる姿を見るのがいいんじゃないか」
あんたはバカですか、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
そんな彩葉を見て住良木辰之進は楽しそうに肩を揺らす。
「できるだけ面積の少ない黒い下着着用、社長命令――いや、ご主人様の命令だ。忘れたわけではないだろう?」
「ええ、ですから、それでもあたしが普通に買うものよりも面積が小さめの、黒い下着を身に着けています!」
なかなかこっぱずかしいセリフである。通常なら、人生で一度も口にしなくていいであろう種類のセリフだ。
実は最初に会社からの支給品、制服の一環だと言われて渡されたパンツが何枚もあった。
それはどう見ても紐だったり、あらぬところに穴があいていたり、面積があっても極小だったり。見るからに『何もガードしてくれない』代物だった。
制服だ命令だとしつこく言われたためおっかなびっくり身につけたのだが――あきらかにおかしい話である。
もっと言えば、支給品で制服だというのも本当かどうかかなり疑わしい。
だが、他のメイドさんのスカートの下を確認するわけにもいかず、社長命令を突っぱねるわけにもいかず。
さりとて、紐だの極小だのでは普通に歩くだけで難儀する。苦悩の末、彩葉はインターネットで購入した比較的小さめの黒い下着をつけているのである。
それが、するすると太ももへおろされてくるではないか。ただでさえ頼りない布きれは、ついに、すとん、と床に落ちた。
「ぎゃーっ、ここ玄関! いつも言ってるでしょ、所かまわず欲情するなバカ社長!」
慌てて拾おうとするが、ひょい、と抱き上げられてしまった。下ろせ変態パンツを上げろ、と、暴れるがスカートがめくれてしまう。
いや、変態はスカートをべろんと持ち上げたかと思うと、するりと撫でてきた。そのまま、足の間に手をいれて淫らに動かしてくるからたまらない。
「や、やぁ、やめ……」
「とろとろに潤っているのは褒めてやろう。だがやっぱり命令違反二つ目だな……。お仕置き決定」
「はぃ!? なんで!?」
「忘れたのか? 俺は常にローターを装着しているようにと命じたはずだが?」
やわやわとお尻を揉まれ、ぎゃああと身を捩って獣の腕から逃げ出す。
すちゃ、と華麗に着地を決めた彩葉は即座に距離をとった。いや、わずかに、距離をとったのは変態御曹司の方がはやかった。彩葉の攻撃の間合いから外れている。見事である、そんなところは。
「いいじゃないか、減るもんじゃなし……。ちょうど目の前に好みの体が転がってるんだ、抱いて何が悪い? いい加減、俺が飽きるまでヤらせろ。俺の玩具になれ」
彩葉は瞬時に間合いを詰め、住良木辰之進のネクタイを掴んで締めあげていた。
「ぐえっ……」
「ちょうどあたしの目の前にネクタイがあるんだもん。締めあげて何が悪い?」
「や、やめっ……」
「住良木辰之進! あんた、バカですか? いや、バカでしょう。正真正銘の大馬鹿野郎だわ」
心外な、と、辰之進は即座に叫んだ。
「ご主人様をフルネームで呼び捨てにした挙句、バカと確定するとは奴隷の分際で生意気だぞ」
「ええ、何度でもいうわよ、住良木辰之進あんたは日本一のバカの変態社長よ。どうしてこんな男が社長で会社が隆盛を極めるのか理解に苦しむわ」
彩葉は咳ばらいを一つして、変態大馬鹿ご主人様に「せいっ!」と足払いをかけた。玄関で派手に倒れる社長。なかなか爽快だ。
「くっ! お前の師匠は素人相手に技を繰り出してはいけないと教えなかったのか?」
「はぁん? 誰が素人ですって?」
「お前に比べたら、空手の黒帯一つしかない俺は、素人同然だ!」
と、まじめ腐った顔で辰之進が喚きながら立ち上がる。
「そうかなぁ?」
彩葉は、代々悠木家に伝わる護身術の達人だ。そのうえ、空手と剣道の稽古は今も欠かさない。忙しい日常をやりくりしてそれぞれ週に2回程度、道場に通っている。そして最近は、趣味でキックボクシングをはじめてみた。
それもこれも、身体を動かすのが好きだというのもあるが、この変態社長が所かまわずセクハラを連発するからだ。自分の身は自分で守るに限る。
「お前ねぇ……玄関先で社長を足蹴にした罪は重いよ」
「ふんっ! セクハラ社長って訴えてもいいんですよ?」
「そんなことをしてみろ。お仕置きがハードなものになるだけだ。さ、お前はさっさと、俺の寝室へ来い。たっぷり可愛がってやる」
「お断りします!」
いかに有能でイケメンで大金持ちの社長でも、昼日中からベッドへ誘うような変態、お断りである。
彩葉の長い手足が素早く動く。辰之進も素早くそれをかわして、にやりと笑う。
「もっとゆっくり、足蹴り繰り出してくれていいんだぜ? じっくり見てやる。その方がお前だって嬉しいだろう?」
かぁぁぁ、と、彩葉の顔が真っ赤になった。
「う、嬉しいわけないでしょう、バカ!」
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