ドS変態若社長に調教溺愛されそうなので全力で回避したいけど無理かもしれない

酉埜空音

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:若社長、決行する:

 思案しながらも急足で食堂へと向かった辰之進は、思わず立ち尽くした。
 彩葉はいつものように、メイド服を着てくるくると働いている。
 元気に笑顔を振りまいて嫌な顔一つせず体を動かす、いつもの彩葉がいる。
「相手のことを思って動く、これ、基本でしょ? パパにそう教わったわ」
 と、いつだったかそう言っていた。彩葉のそういうところに、辰之進は惹かれたのだ。
 おそらく、ナカゾノのバカ御曹司も同じだろう。辰之進やナカゾノの変態御曹司の周りにはそんなタイプの女性はいなかった。
「……だからといってアレはないだろう!」

 そう――問題は彩葉ではなく、彩葉の後ろにくっついている物体である。

 黒い光沢のある布地で作られた総スパンコールのスーツに身を包んだ男――ナカゾノの御曹司が彩葉にべったりとくっついているではないか。しかも、だらしない恍惚の表情で。

「九条!」
「おはようございます、社長」
「アレはどういうことだ!?」
 びしっ! と腕を伸ばしてアレを指さす。
「人様を指さすとは何事ですか、お行儀の悪い」
「す、すまない……いや、それも大事だが! アレは!」
「離れようとしないのです。無理に引きはがすと、泣いて喚いてわたくしどもの手に負えません」
 ナニ!? と、辰之進の目が点になった。
「困り果てまして、ナカゾノさまへお電話差し上げましたら、電話口であーだのうーだの唸ったあと絞り出すような声で、息子が満たされるまでそのままでいてくれないか、と懇願されましたのでそのようにいたしました」
「そんな懇願捨て置け!」
「そうも参りません」
「あ、住良木辰之進、おはようございます」
 彩葉がぺこんと頭を下げる。
「彩葉、どういうことだ? なぜこの男が彩華に抱き着いているんだ?」
「それが……面倒なことになりました……」
「どうした?」
「彩葉女王、って呼ぶんです……」
 はぁ!? と辰之進の顎が落ちた。
「それが……あたしに踏まれたり打たれたりしたのが快感だったみたいで……それをご希望なんです」
 そして、彩葉に攻撃してもらうために、彩葉の胸を揉んだりスカートの下に頭を突っ込んだり、一生懸命であるらしい。
 もにゅ、と胸が形を変えて彩葉の表情が歪む。
「やめなさい」
「女王陛下、どうしてこの下僕を蹴ってくれないんですか……もしかして刺激が足らないのかなぁ……」
 振動するオモチャが当たり前のように取り出され、スカートの下に差し込まれる。ぴたりと秘所に当てられて彩葉は己の体が硬直するのを自覚した。
「やめっ、やめなさいっ……はうっ……」
「どうして? 気持ちいいでしょ? 潤って来たよ……いい反応だよ、まったくどれだけ辰之進に調教されたんだろうね」
 彩葉の顔が真っ赤になった。
「調教なんてっ……」
「赤くなって可愛いなぁ。辰之進が溺愛するのも無理ないか」
「変態っ……あっちへ行って……住良木辰之進、見てないでっ……助けなさいよっ……」
 言われるまでもなく、辰之進の血は怒りで沸騰していた。大事な大事な彩葉を、別の男がなれなれしく触っている。しかも彩葉は嫌がっているのに。
 許せない。
「お前、いい加減にしろよ……」
 彩葉を抱き寄せて背後に隠し、汚らわしい男を蹴り飛ばす。男に蹴られても嬉しくない、女王様! と喚くを睨みつける。
「まったく! 彩葉はお前が触っていい相手じゃない。俺の妻になる女性だってことをよく覚えておけ。彩葉、気持ち悪かっただろう?」
「……はい、それは。でも、反撃して喜ばせるのも癪だし……かといって好き放題触らせておくのも気持ちが悪いし不気味だし怖いし……はぁ……」
 はぁぁぁ、と、彩葉があからさまに肩を落とす。

「なんであたしは……普通に愛してくれる人がいないんでしょうねぇ……。体目当てばっかり。ヤることしか考えてないんだから……。御曹司や社長って連中はみんなそんなものなのかしらね」

 雷に打たれたような衝撃、とはこのことだろうか。彩葉に執着している自覚のある二人の男は思わず顔を見合わせてしまう。

「辰之進……いま、とてもヒドい言われようだったような気がするよ、ぼく」
「残念ながら同感だ……」
 そう思われても仕方ないと思いますよ、と、メイド頭の九条さんがしれっと告げて、彩葉には仕事に戻るよう促す。
 呆然とする男二人に頭を下げた彩葉は、素直に仕事へと戻っていく。
「ま、待て、彩葉」
「なんですか? あたし、ここにはお仕事しに来てるんです。勤務時間中ですから、もういいですか?」
 きりっとした表情で当たり前のことを言われ、取り付く島もない。

 やはり辰之進の気持ちは彩葉に全然伝わっていない。
 それどころか、彩葉の体狙いの下衆野郎にランクが下がった気がする。
 反射的に、去ろうとする彩葉の腕を思わず掴んでしまう。ここで彼女を逃がしたら、彩葉は遠くへ行ってしまう、そんな予感がした。
「彩葉――……俺はお前の体や会社が目的なわけじゃない」
 辰之進は、持っていたファイルを彩葉に押し付けた。
「この中に必要な書類が全部入っている。熟読して、サインをして持ってきてくれ」
 はい? と、彩葉の目が丸くなる。
「なんですか、これは……やたら分厚いけど……」
「こんな形で渡す予定じゃなかったんだが……。俺が、未来永劫お前を必要とする証拠だ」
 彩葉はファイルと辰之進の顔を交互に見た。
「坊ちゃま、そういうことでしたら――私室、いえ、ベッドやソファーがない方がいいでしょうから、ガラス張りの薔薇園へ行かれては? 立ち話で済ませる話ではないでしょう」
「九条、彩葉を借りるぞ」
 キョトンとする彩葉の腕をとって、辰之進は食堂を後にした。
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