28 / 46
:御曹司、尻に敷かれる:
しおりを挟む
彩葉と辰之進がドレス選びでくんず解れつ、いや、四苦八苦しているころ――。
ナカゾノ工業の御曹司はビジネス街にあるカフェで不貞腐れていた。
辰之進と彩葉のラブラブっぷりを見ていられず出社したものの、デスクにつくこともなくぼんやりしているだけなので、重役たちに「邪魔です、カフェにでも行っていてください」と追い出されてしまったのだ。
「珍しいわね。アンタがあたしに連絡してくるなんて」
黒いタイトなワンピースを着た背の高い女性が、ビジネス街の視線を一身に集めながら歩いてくる。
真っ直ぐの黒髪は腰のあたりで切り揃えられ、歩くたびにさらさらと揺れる。
白い肌に深紅のルージュが妖しく映え、切れ長の瞳は人を寄せ付けない強さを放つ。
ふわふわとした印象の彩葉とは対照的である。
そして、梅雨明けの強い日差しを避けるためか、ショールを華麗に巻いている。
「レイナ、聞いてよ……」
「なに?」
「ぼく、振られちゃった」
オープンカフェの丸テーブルに情けなくも突っ伏す男が一人、それだけでも目立つのに、それが白いスーツに身を包んだ金髪長身の若い男とくれば目立って仕方がない。
「それは御気の毒様」
「冷たいなぁ……婚約者のぼくが傷心なんだよ? 慰めてくれてもいいじゃない」
テーブルの向かい側に腰を下ろしながら、ばか? と、レイナは微笑む。
「婚約者がいながら、男も女も見境なく手を出す男を慰めてあげるほど、優しくはないの」
「レイナと婚約してから、誰とも寝てないよ? だってみんなぼくを振るんだもん」
「あんたは振られなかったら寝るのね?」
「うん、婚約段階だからいいでしょ? フリンにはならないと思うよ?」
「あんた、どこからどう見てもバカ、屑だわ。会社の将来が心配よ」
ナカゾノ工業の次期社長であり、実は売れっ子モデルでもある疾風と、若き美人社長藤木レイナの婚約は、二人が幼稚園に通っているころから決まっている。
誰が決めたものか、許嫁というアレである。
レイナは、時代錯誤だと何度も叫んだ。だが、疾風が「え? ぼくはレイナと結婚するつもりだよ」といつも宣うので、ついぞ婚約解消することなく今に至る。
ただ、婚約者であることはレイナの強い希望で世間的には伏せられている。報道で鬱陶しいことになるのを嫌がってのことなのだ。
レイナはモデル顔負けのルックスを買われてビジネス誌からファッション誌に登場し、かと思えばテレビ番組やWEBコンテンツのコメンテーターまで幅広くこなす有名人だ。そのレイナの婚約者が疾風であると知られたら色々な意味で大騒ぎになるのは明らかである。
「で、今度は誰にちょっかいをかけたのよ?」
「辰之進のとこの、彩葉ちゃん。可愛くてさ、巨乳で、天性のドMのエロっこだよ」
「イロハ? 苗字は?」
「悠木。辰之進とこが資金援助してるユウキのお嬢さん」
ああ、と、レイナが頷いた。
「あの子、武術が滅茶苦茶強いでしょ。アンタなんて、片手で壁に叩きつけられたんじゃない?」
「え、彩葉ちゃんのこと知ってるの?」
「同じ道場に通ってるんだけど、レベルが違い過ぎて会ったことはないわ。でも師範たちが誇らしげに言ってたわよ、彩葉は日本一の腕前と度胸だ、って」
普通の女子なら、誰かが助けてくれるのを待つであろう場面でも、彩葉は自分で自分の身を守る。きちっと自分の手でオトシマエをつけるのだ。
「ふぅん、辰之進は最強のボディガードを手に入れたわけか……」
「相手をよく見てから手を出しなさいね。あの子、アンタなんかに靡くはずないでしょ」
「ええーっ、ぼく、財産もあるし見た目も一流だし将来性抜群のハイスペック男子だよ? スパダリだよ? このぼくに靡かないなんてどうかしてると思うんだよねぇ……」
本物のばかでしょアンタ、とレイナが鼻先でせせら笑う。
「自分でそんなこと言ってる自画自賛の屑男に誰が惚れるのか少しは考えなさい」
「ああっ、酷い言われようだよ」
「屑男に屑男って言ってどこが酷いのかしらね」
かちっ、とライターの音がし、レイナが細いタバコに火をつける。
疾風がそちらを見れば、紫煙の向こうでレイナが妖艶に微笑む。いつの間にかショールは外され、ワンピースの深い襟ぐりから胸がちらちらと覗く。
わお、と叫んだ疾風がぐっと覗き込む。
「お、レイナ、おっぱいまた大きくなったんじゃない?」
「Fカップかな? ま、いい男に毎晩揉まれると育つって言うからね」
え! と疾風が狼狽える。
「レイナ、ぼく意外に相手がいるの? 酷い、裏切りだよ! パパに言っちゃうぞ」
レイナの胸元に手を伸ばしてぐっと鷲掴みにする。だが悔しいことに、彼女は顔色一つ、吐息の一つも変わらない。
「アンタね、自分は散々女の子にちょっかいかけてるくせに、ソレ言う?」
「う、ぼくはイイんだよ! でもレイナはダメ。裏切り禁止、浮気禁止」
ぷっ、とレイナが笑った。ぱしん、手を叩かれて疾風は慌てて引っ込める。
「じゃ、婚約解消しましょう。ありがたいわ」
タバコを消して立ち上がり、手にしていたバッグから一通の書類を取り出す。
「だ、それはダメ、ぼくはレイナじゃなきゃダメなんだから。婚約解消なんて認めない」
「どこまで屑なのよ。じゃあ、最低限、アンタも女の子を追い回すのやめなさい。隠し子がゾロゾロなんて面倒なことになったらみんなが迷惑するのよ。わかった?」
はい、と、疾風が項垂れる。再びレイナが腰を下ろし、かちっ、とライターの音がする。
「タバコを咥える仕草がエロい女性って、レイナくらいだよね」
「そう?」
くすっと笑ったレイナが、白い指を伸ばして疾風の顎をくいっと上に向ける。
「う?」
「……アンタのも、咥えてあげようか?」
「え……」
に、と笑ったレイナが、パンプスの先で疾風の股間を突いた。
「や、やめてよ、レイナぁ……」
疾風の腰が、大げさに跳ね、形の良い眉毛が情けなく下がった。
ナカゾノ工業の御曹司はビジネス街にあるカフェで不貞腐れていた。
辰之進と彩葉のラブラブっぷりを見ていられず出社したものの、デスクにつくこともなくぼんやりしているだけなので、重役たちに「邪魔です、カフェにでも行っていてください」と追い出されてしまったのだ。
「珍しいわね。アンタがあたしに連絡してくるなんて」
黒いタイトなワンピースを着た背の高い女性が、ビジネス街の視線を一身に集めながら歩いてくる。
真っ直ぐの黒髪は腰のあたりで切り揃えられ、歩くたびにさらさらと揺れる。
白い肌に深紅のルージュが妖しく映え、切れ長の瞳は人を寄せ付けない強さを放つ。
ふわふわとした印象の彩葉とは対照的である。
そして、梅雨明けの強い日差しを避けるためか、ショールを華麗に巻いている。
「レイナ、聞いてよ……」
「なに?」
「ぼく、振られちゃった」
オープンカフェの丸テーブルに情けなくも突っ伏す男が一人、それだけでも目立つのに、それが白いスーツに身を包んだ金髪長身の若い男とくれば目立って仕方がない。
「それは御気の毒様」
「冷たいなぁ……婚約者のぼくが傷心なんだよ? 慰めてくれてもいいじゃない」
テーブルの向かい側に腰を下ろしながら、ばか? と、レイナは微笑む。
「婚約者がいながら、男も女も見境なく手を出す男を慰めてあげるほど、優しくはないの」
「レイナと婚約してから、誰とも寝てないよ? だってみんなぼくを振るんだもん」
「あんたは振られなかったら寝るのね?」
「うん、婚約段階だからいいでしょ? フリンにはならないと思うよ?」
「あんた、どこからどう見てもバカ、屑だわ。会社の将来が心配よ」
ナカゾノ工業の次期社長であり、実は売れっ子モデルでもある疾風と、若き美人社長藤木レイナの婚約は、二人が幼稚園に通っているころから決まっている。
誰が決めたものか、許嫁というアレである。
レイナは、時代錯誤だと何度も叫んだ。だが、疾風が「え? ぼくはレイナと結婚するつもりだよ」といつも宣うので、ついぞ婚約解消することなく今に至る。
ただ、婚約者であることはレイナの強い希望で世間的には伏せられている。報道で鬱陶しいことになるのを嫌がってのことなのだ。
レイナはモデル顔負けのルックスを買われてビジネス誌からファッション誌に登場し、かと思えばテレビ番組やWEBコンテンツのコメンテーターまで幅広くこなす有名人だ。そのレイナの婚約者が疾風であると知られたら色々な意味で大騒ぎになるのは明らかである。
「で、今度は誰にちょっかいをかけたのよ?」
「辰之進のとこの、彩葉ちゃん。可愛くてさ、巨乳で、天性のドMのエロっこだよ」
「イロハ? 苗字は?」
「悠木。辰之進とこが資金援助してるユウキのお嬢さん」
ああ、と、レイナが頷いた。
「あの子、武術が滅茶苦茶強いでしょ。アンタなんて、片手で壁に叩きつけられたんじゃない?」
「え、彩葉ちゃんのこと知ってるの?」
「同じ道場に通ってるんだけど、レベルが違い過ぎて会ったことはないわ。でも師範たちが誇らしげに言ってたわよ、彩葉は日本一の腕前と度胸だ、って」
普通の女子なら、誰かが助けてくれるのを待つであろう場面でも、彩葉は自分で自分の身を守る。きちっと自分の手でオトシマエをつけるのだ。
「ふぅん、辰之進は最強のボディガードを手に入れたわけか……」
「相手をよく見てから手を出しなさいね。あの子、アンタなんかに靡くはずないでしょ」
「ええーっ、ぼく、財産もあるし見た目も一流だし将来性抜群のハイスペック男子だよ? スパダリだよ? このぼくに靡かないなんてどうかしてると思うんだよねぇ……」
本物のばかでしょアンタ、とレイナが鼻先でせせら笑う。
「自分でそんなこと言ってる自画自賛の屑男に誰が惚れるのか少しは考えなさい」
「ああっ、酷い言われようだよ」
「屑男に屑男って言ってどこが酷いのかしらね」
かちっ、とライターの音がし、レイナが細いタバコに火をつける。
疾風がそちらを見れば、紫煙の向こうでレイナが妖艶に微笑む。いつの間にかショールは外され、ワンピースの深い襟ぐりから胸がちらちらと覗く。
わお、と叫んだ疾風がぐっと覗き込む。
「お、レイナ、おっぱいまた大きくなったんじゃない?」
「Fカップかな? ま、いい男に毎晩揉まれると育つって言うからね」
え! と疾風が狼狽える。
「レイナ、ぼく意外に相手がいるの? 酷い、裏切りだよ! パパに言っちゃうぞ」
レイナの胸元に手を伸ばしてぐっと鷲掴みにする。だが悔しいことに、彼女は顔色一つ、吐息の一つも変わらない。
「アンタね、自分は散々女の子にちょっかいかけてるくせに、ソレ言う?」
「う、ぼくはイイんだよ! でもレイナはダメ。裏切り禁止、浮気禁止」
ぷっ、とレイナが笑った。ぱしん、手を叩かれて疾風は慌てて引っ込める。
「じゃ、婚約解消しましょう。ありがたいわ」
タバコを消して立ち上がり、手にしていたバッグから一通の書類を取り出す。
「だ、それはダメ、ぼくはレイナじゃなきゃダメなんだから。婚約解消なんて認めない」
「どこまで屑なのよ。じゃあ、最低限、アンタも女の子を追い回すのやめなさい。隠し子がゾロゾロなんて面倒なことになったらみんなが迷惑するのよ。わかった?」
はい、と、疾風が項垂れる。再びレイナが腰を下ろし、かちっ、とライターの音がする。
「タバコを咥える仕草がエロい女性って、レイナくらいだよね」
「そう?」
くすっと笑ったレイナが、白い指を伸ばして疾風の顎をくいっと上に向ける。
「う?」
「……アンタのも、咥えてあげようか?」
「え……」
に、と笑ったレイナが、パンプスの先で疾風の股間を突いた。
「や、やめてよ、レイナぁ……」
疾風の腰が、大げさに跳ね、形の良い眉毛が情けなく下がった。
0
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる