ドS変態若社長に調教溺愛されそうなので全力で回避したいけど無理かもしれない

酉埜空音

文字の大きさ
44 / 46

:彩葉、モテる:

しおりを挟む
 その日、辰之進は明らかに不機嫌だった。
 社長室の壁にかけられた巨大なテレビに、真顔で向き合ったかと思うと今にも噛み付かんばかりの勢いでべったり張り付いている。
「彩葉、可愛いぞ!」
 と言っているうちはよかった。テレビに向かって拳を振り上げ、何かを喚く姿はいささか異様で、会議の追加資料を届けに来たベテラン秘書がぎょっとして早々に退室したくらいである。
「疾風! あの男はなんだ!」
「し、知らないよ……」
「疾風! 彩葉が微笑みかけたぞ!!」
「う、うん……滅多に見せない自然な笑顔だったね……じゃなくて!! それを見せた相手が問題、なんだよね……あは。あはは……」
「お前も見惚れている場合ではないっ……! ああっ、本当にあの男はなんだ、彩葉にくっついて……腰に手をっ……疾風、あいつは誰だっ!!」
「知らない! 辰之進が知らない相手を、ぼくらが知るわけないんだってばっ!」
「くそっ!」
 隣に立つショッキングピンクのスーツを着た幼馴染をぎゅうぎゅうと締め上げる男は、世間ではイケメン若社長として通っている男である。
 今日も、自身がモデルを務める海外高級ブランドのスーツに身を包んで颯爽と歩き、人々の注目を浴びていたーーのは、この社長室に入るまで。最愛の婚約者が生放送のバラエティー番組に出るので、嬉々としてテレビをつけたのだが……。
 可愛い婚約者が、得体の知れないイケメンと仲良くしているではないか。テロップには『若き経営者特集』とあるので、この男も経営者なのだろうが――。
 爽やかなイケメン、経営者というよりスポーツ選手といった感じの体格と雰囲気である。
「疾風! この胡散臭い色男の身元を調べろ!!」
「え……?」
「え、じゃない、早くしろ! 彩葉に淫らな目線を向けた怪しい男だぞ。何かあってからでは遅い」
 あーハイハイ、と、疾風は床から起き上がり、革張りのソファーへと腰を下ろした。チラッと辰之進を見る。明らかに機嫌が悪い。
「疾風、わかったか」
「あのね、いくら何でも秒でわかるわけないでしょう」
 呆れつつもタブレットを鮮やかに操作し、電話を数本かける。
 SNSを覗けば、彩葉の可愛さエロさに言及した投稿と同じくらい、爽やかイケメンへの投稿がある。見たところテレビ初登場であるらしい。
「こら、彩葉は俺のだ! 馴れ馴れしいぞ! どこの社だ、ツブすぞっ」
 物騒だなぁ、と思わず声に出てしまう。
「ツブされたくなければ……彩葉から離れろ!」
「辰之進、テレビに向かって怒っても……」
「気に入らないんだ! この男は誰だ!」
 やれやれ、と、ショッキングピンクの上着を脱いで、Yシャツの袖を捲る。幼馴染の疾風は、辰之進が言い出したらきかないことをよく知っている。すなわち、テレビの中の男は、本人が知らぬ間に辰之進にライバル視され、あっという間に進退極まったのである。
 いささかお気の毒である。
(やれやれ……彩葉女王のこととなったら、見境なくなるんだから……)
 鉄面皮でどこか仕事馬鹿、いや、仕事のことしか頭になかったあの辰之進が、珍しく女性に心を開いたと思ったらこのありさまだ。溺愛、執着愛を超えてもはや変態というレベルである。
 たびたび彩葉も「この変態!」と辰之進を罵っているがーーそれは夜のプレイが変態であるから、らしい。
「僕もその変態プレイにまぜてほしいんだけど……あちこちから殺されるね」
 辰之進に殺される気はまったくしないが、婚約者は怒ると怖いので締め殺されるかもしれない。でも四人の中で一番武道が強いのは彩葉だ。彼女がその気になれば、疾風は数分とかからず三途の河の渡し船に乗っているだろう。
 元気で明るくて前向きな、大輪の向日葵を彷彿とさせる彩葉に辰之進が惹かれたのは納得できる。疾風も彩葉と彩葉のどエロボディの大ファンだ。が、彩葉は辰之進のどこに惚れたのか未だに理解ができない。
 辰之進の金や見てくれに惑わされるようなタイプではない。ならば中身なのだと思うが――。
「……一度、じっくり聞いてみたいものだよ」
 とりあえずは、爽やかイケメン社長の身元調査が先だ。万が一にも、辰之進の嫉妬で何の罪もない会社が一つ消えてもいけない。
「お、うちの諜報部は有能だね。もうデータ届いた」
 なになに、とデータを読み進める疾風の目が丸くなるのに時間はかからなかった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...