ドS変態若社長に調教溺愛されそうなので全力で回避したいけど無理かもしれない

酉埜空音

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:若社長とメイド:

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 ガチャガチャ、と、金属音が響く。
「はやくしろ!」
「わかってるよ、だから……暴れないで」
「くそっ……」
 ガチャガチャという音の合間に、ぷっ、くくく、と、笑い声が重なる。
「笑うなっ!」
「ごめんごめん、だって……自分が設置した檻に自らが閉じ込められるなんて傑作だよ」
 ベッドを囲む鉄製の檻の中にいるのはこの屋敷の主人。
 外から檻の鍵を懸命に外しているのはショッキングピンクのスーツを纏い流れるような金髪を一つに束ねた男。
「はい、開いた!」
「よし、急いで離れるぞ、疾風」
「へ?」
「捕縛能力に長けたセキュリティの精鋭部隊が飛んでくる」
 ぎょっとする疾風の腕を掴み、脱兎の如く駆け出す辰之進。その顔は真剣だ。
「ちょ、ちょっと待って、なんで自分の家なのに辰之進が逃げ……わあ、辰之進、前、前! 仁王立ち!」
「しまった……!」
 廊下で仁王立ちしているのは、ミニスカメイド服の彩葉である。
「こら、誰がいつ、檻から出ていいって言った?」
「ひっ……そ、それは……」
「すぐに戻れぇ!」
「断る! だって俺は」
「戻れ、あたしはまだ許してない!」
 何が両者の間であったのかわからない。
 が、彩葉がゆっくり走行の態勢に入ったのを確認した疾風は、辰之進の腕を掴んで回れ右をした。
「お、おい、疾風!?」
「逃げるよ!」
 二人がバタバタと駆け出す背中に鋭い声が飛ぶ。
「待てー! もうっ! 結婚するなら、優しくて思いやりがあって知的で……あたしのことを丸ごと愛してくれる旦那さまがいい……そう思ってたのに! こんなの違うし!」
「彩葉、いつもいつも、それは何の話だ!」
「げっ、地獄耳!」
 彩葉はいま、先述の理想とは大きくかけ離れた獣のような男を追いかけている。
 彼に追いかけられたなら、たちまち噛み付かれて骨までしゃぶりつくされてしまう、そんな危機感に煽られるのだが、今は違う。猛獣を追いかけて調教する気分で、緋色のふかふか絨毯が敷き詰められた廊下を全力疾走している。
「こら、二人とも止まれぇ!」
「お前こそ、追いかけるのをやめろ!」
 逃げるのも追いかけるのもあたしの自由よ、と心の中で決意する彩葉である。そして自慢の俊足をさらに加速させる。
「ええい、止まれ!」
「断る! お前が追いかけるのを止めれば止まってやらんこともないぞ」
「お断りよ!」
「お前、召使いの分際でご主人様の命令に逆らうとはいい度胸じゃないか」
「えーっ、自分でゴシュジンサマとか言っちゃうなんてやっぱりありえない! あたしは辰之進を調教する調教師よ。師の言うことには従いなさい」
「な、なんだと!?」
 ぎゃはははは、と、ふいにショッキングピンクのスーツが笑い転げた。ヒィヒィと呼吸が苦しそうである。どうしたの? と、彩葉が首を傾げる。
「すごい夫婦漫才……」
 カッ、と辰之進の顔が赤くなる。どこが! と、辰之進と彩葉の声が重なり、疾風はさらにお腹を抱えて笑う。
「くっ……お前のせいで、漫才だとか言われたじゃないか!」
「はぁ!? あたしのせい? だいたいあたしは、お前って名前じゃありません」
「なんだと!?」
「なので、あたしは何も辰之進から命令されていません」
 どりゃあ! と、彩葉が跳び上がり、辰之進は受け身を取る。
「ええええーいっ!」
「げふん……」
「いいこと? この彩葉さまを調教しようだなんて思わないことね。あたしには、仕事があって会社があって、あたしの世界があるの。いつもいつも辰之進中心で生活するわけないでしょ!」
「ぐっ……」
「それを拒否したら、考えを変えてやる……ですって? 寝室に何日も閉じ込めて好き放題するバカがいますか!」
 ははぁ、と、疾風は頷いた。
 辰之進はかなり古風な、従順な妻を彩葉に求めたのだろう。だが、彩葉はそれを拒否した。当然だ。そして拒否された辰之進は、いつものようにベッドで彩葉を説得しようと試みたに違いない。
「お前だって……散々善がって……」
「……やっぱり、婚約は破棄よ、破棄!」
 ビリビリ、と、緑の線が入った白い紙が破られる。あああああ、と、焦る辰之進に向かって紙吹雪が舞う。
「彩葉女王、お屋敷にゴミを撒くのはよくない。箒とちりとり……あっ、メイド頭の九条さんだ。借りてくるから待ってて」
 と、疾風が立ち去る。
 その場には、異様な緊張感が漲る。先に動いた方が負け、互いにそう思っているのがわかる。
 彩葉が、すうっと呼吸を整えた。纏う気配が、武人のそれへと変わる。鍛錬をまったく欠かさない彩葉は、日に日に強くなっていて辰之進では敵わない。
「……く、くそ……え、えいっ!」
 辰之進が、苦し紛れに上着のポケットからピンクの玩具を取り出し、彩葉の太ももに這わせた。
「ひゃ、ん……」
 びくり、と、彩葉の体が大きく震える。それでも尚も踏ん張る彩葉のスカートの中に手を突っ込み、秘部にローターを押し当てた。
「や、あ、あん……!」
「婚約破棄とは聞き捨てならん」
「だ、誰があんたみたいな、変態のっ……」
「ここは、びしょびしょだよ……。俺の指をあっさり飲み込む」
 長い指でとろとろの中を掻き回され、彩葉は立っていられなくなる。その上気した体を抱き寄せ、辰之進はズボンの前をくつろげた。
「これ、欲しいだろ?」
「……ば、ばか、ここ、廊下……」
「構うものか……お前が素直に欲しい、婚約破棄撤回というまで……」
「やぁ、やだ、ここは……やめて……」
 辰之進が逃げようとする彩葉を無理矢理押さえつけた。いやだ、と彩葉が身を捩る。
 と、そこへ冷ややかな声が降り注いだ。
「……彩葉さんが記入するのは、婚姻届ではなくて被害届ですね、さあこちらへ」
「く、九条!」
「辰之進さま、夫婦間でも合意のない場合は暴力ですよ」
 メイド頭の方へ、彩葉が小走りで向かう。疾風はといえば、不器用に箒を動かして掃除をしている。
「婚姻届の予備に記入しても構いませんし、今から警察に出向くのも構いません」
 予備!? と、辰之進と彩葉の声が重なった。メイド頭がしれっと紙の束を差し出す。
「怒った彩葉さんがこれをビリビリに破くことは想定内。無事に提出できるまで何度でもお渡ししますから、遠慮なく破いて構いませんよ」
 わーい、と彩葉が頼れるメイド頭に抱きつき、辰之進が頭を抱える。
「彩葉、ただちに婚姻届に記入しろー!」
「あっかんべー!」
 ドタバタと二つの人影が走り回る。
「コラー! お屋敷内を夫婦揃って走るとは何事ですかー!」
 今日もお屋敷は賑やかである。

【了】
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