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魔眼

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ファーランド帝国
王城では緊張状態が続いていた、最近、皇帝であるユウジの機嫌が最悪だったからである。
「ひどい顔ね」
カグヤが指摘するように、ユウジの目の下には真っ黒い隈ができていた。
「うるせえ」
そう返す声にも元気がない。最近のユウジは悪夢にうなされたせいで元気がなく、ほとんど王城にひきこもっていた。
「ふん。皇帝だって威張っていても、本当は怖くてたまらないんでしょう。いつか誰かに復讐されるんじゃないかって」
「はあ?俺が復讐されるって?誰にだよ」
強がるユウジだが、カグヤは冷たく突き放した。
「決まっているでしょ。あんたに正当な恨みをもつ人たちからよ」
「なんのことだか。俺は恨まれる覚えはねえ。俺がやったことは全部正しい復讐だ!」
そうわめく彼を、カグヤは哀れみの視線で見つめる。
「あんたがいくら自己正当化したって無駄よ。いつか必ず天罰が下るわ」
カグヤがそういったとき、ユウジの部下であるアクター将軍と魔術師クロードがやってくる。
この二人は『魔眼』の影響下になく、自らユウジに従っている裏切り者だった。
『陛下。その……王都の男だけでは人手が足りず、ゴーレム建設作業に遅れが出ております」
その報告を受けたユウジは、不機嫌そうに返す。
「ああん?だったら周辺の町や村からつれて来い!」
「しかし、そうすると食料を作る者がいなくなって……王都の者たちが飢えてしまいます」
「しるか!」
ユウジは怒鳴りつけると、さっさと自分の部屋に戻ってしまう。
残された二人は邪悪な笑みを浮かべた。
「きいたか?」
「ああ、陛下のご命令じゃ。兵士に周囲の村を襲わせよう。男は労働奴隷に、女は愛玩奴隷にして高く売ろう」
そんな彼らに、カグヤは厳しい声をかけた。
「あんたたち、まさか貴族や王都民だけじゃなくて、国民すべてを奴隷にするつもり?そんなの許さないからね」
弾劾される二人だったが、カグヤを鼻で笑う。
「ふん。ユウジ様のご寵愛で自由を許されているからといって調子に乗るなよ。勇者とは言えお前など無力」
「そうじゃ。あまり調子に乗っておると、奴隷に落とされるかも知れんぞ。お前のような小娘は、せいぜい小僧の機嫌をとっておればよいのじゃ」
そんな二人に、カグヤは問いかけた。
「あんたたちはユウジの『魔眼』に操られているわけじゃないんでしょ?なんであんな奴に従うのよ」
帰ってきた言葉は冷たかった。
「ユウジ陛下が強いからだ。強い者が正義なのさ」
「ふっふっふ。彼に逆らいさえしなければ、いくらでも民を使って実験ができる。まこと、我が主君に相応しいお方だ」
二人はそういい捨てると、部屋を出て行く。
「……あの二人も危ないわ。なんとかしないと。トオル君、メル……早く助けてきてよぅ」
残されたカグヤは、自分の無力さを実感して涙を流すのだった。、


王都周辺の村
アクター将軍に指揮される兵士たちは、無表情で村を取り囲んでいた。
「いいか!男も女もすべて捕らえてつれて来い!反抗するものは殺せ!」
「……」
元気がいいのは将軍だけで、騎士も兵士も一言も言葉はしゃべらない。彼らはユウジの『魔眼』で意思を奪われた状態で、命令を聞いて実行するだけのロボットだった。
兵士たちにより、村人たちが集められる。なぜか彼らは何の抵抗もなく従っていた。屈強な男ばかりで、女がいない。
「おい!貴様ら。なぜ女がいないんだ!」
アクター将軍が怒鳴り散らすと、男たちの間からフードをかぶった黒髪の少年が出てきた。
「残念だけど村人たちはとっくに逃がしたよ」
そういってフードを脱いで顔をみせる。それを見た将軍は絶句した。
「あ、あなたは、ユウジ陛下!なぜこのようなところに……?」
「はい。『魔眼』」
ユウジと瓜二つの顔をもつ少年-トオルは『魔眼』を使ってアクター将軍に精神支配を掛ける。
たちまち彼の顔から表情がなくなっていった。
「お前はこれから各村を回って、そこに潜んでいる大公軍の兵士たちを奴隷として王都に送り込め。もちろん武器を持ち込ませた上でな」
「……」
アクターは無言でうなずく。
こうして、大公軍は無傷で王都に潜入することができるのだった。

王都
与えられた研究室の中で、魔術師クロードは人体実験を繰り返していた。
「やめろ……やめてくれ!」
薄暗い地下室では、何人もの男がベッドに縛り付けられて命乞いをしている。
「ふむ……融合スライムに、勇者ユウジの体液を混ぜてこやつらと合体させれば……」
白いスライムが男の体に入りこみ、同化していく。たちまち男の顔から表情が失われていった。
「ほい。『火花(ファイヤー)』
クロードが小さな火をぶつけると、男の体にあたって皮膚を焦がした。
「さあ、火魔法を使ってみるがいい」
クロードの言葉に反応し、男は口から火を吐いた。
「成功じゃ!これで勇者ユウジの『学習魔法』をワシも習得できる。……ん?」
クロードが喜ぶ間に、男は変貌を続けていく。最終的には人間大の赤いスライムになった。
炎を吐いてくるスライムの核を、杖が貫く。スライムはみるみるうちに小さくなっていった。
「失敗か。融合スライムに体をのっとられず、どう自分を保つかを研究せねばならんな。まあ、実験体はいくらでもおるからのう」
クロードは不気味な笑みを浮かべながら部屋を見渡す。ベッドに縛り付けられていた男たちは恐怖の表情を浮かべた。
「いやだ……あんな死に方は嫌だ!」
「助けてくれ!」
泣き喚く男たちを見て、クロードはますますいい気になっていく。
「くくく……勇者の『学習魔法』はどんなに弱い存在でもなりあがれる最強の魔法じゃ。それさえ身に着ければ、ワシが世界を征服することも可能」
クロードの顔に野心が浮かぶ。彼は以前は勇者の魔法教育係だった。当時は最弱だったユウジの成り上がりを見て、自分にも同じ事ができるはずだと密かに研究を続けていたのである。
高笑いする彼だったが、いきなり研究室がノックされる。
「なんじゃ……?いい所じゃったのに」
ぶつぶつ言いながら扉を開けると、彼の同僚であるアクター将軍が屈強な兵士を引き連れて立っていた。
「何の用じゃ?ここには来るなといっておいたはず……ぐっ!」
いきなりアクターに強い力で鳩尾を殴られて、胃液をはきながら床に転がる。彼の周りにいた兵士たちが、クロードを拘束した。
「ま、まさかアクター、お主が反乱を起こすとは?」
「違うね。こいつは俺に操られているだけだ」
アクターの後ろにいた兵士の一人が兜を脱ぐと、黒い髪をした平凡な少年だった。
「ユ、ユウジ陛下!こ、これは違うのです。決してあなたの「学習魔法」を研究していたわけではなくて……」
何か言い訳をしようとするクロードの目を、黒髪の少年-トオルが見つめる。クロードの顔から表情が消えていった。
「質問したい。建設中のゴーレムはもう動かせるのか?」
「指先などの端末にはまだ神経がいきわたっておりませんが、立って歩くぐらいは」
『魔眼』に魅入られたクロードは素直に答える。
「よし。これで確実に勝てるな。アクター、クロード。お前たちに命令する」
トオルは二人に耳打ちする。こうして決戦の準備は整うのだった。
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